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33.彼には彼なりの理由があったわけで

僕が婚姻届を出さなかった理由

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 前に婚姻届を提出するに当たって、何か希望はありますか?って宗親むねちかさんに問いかけられた時、とりあえず「大安がいいです」って……。
 大してお日柄にこだわりもないくせに言ったことを思い出した私だったけれど、今回、宗親さんの動機はそこじゃないみたい。

 前に、宗親さんが婚姻届を提出なさったと嘘をついていらしたときは、「今日は大安だったので」っておっしゃったけれど、今日はそういうわけではない……?

 だったら何が理由なの?
 何だか訳が分からなくて、私は戸惑ってしまう。

 そもそも出したと嘘をついていた理由も、まだ話してくださっていないのに……。

 あやふやなままにされるのは嫌だって思ってしまった。


「……嫌、です……」

 小さくポツンとこぼしたら、宗親さん、断られるなんて思っていらっしゃらなかったのかな? 「え?」って驚いた声を出すの。

「私、まだ宗親さんから、嘘をついた〝理由〟も、何でそうしなきゃいけなかったのかっていう〝弁解〟も、お聞きしていません。――だから、嫌です」

 グスグス鼻をすすりながら言ったら、宗親さんが「あぁ、そうでしたね」ってつぶやいて、「キミに好きだって言ってもらえたことが嬉しくてつい……」と心底申し訳なさそうに眉根を寄せて微笑んだ。

 いつもの自信に満ち溢れた腹黒い笑顔もカッコ良くて大好きだけれど、こんな風に表情豊かに笑う宗親むねちかさんの方が何万倍も何億倍も大好き。

 そう思ってしまう。


「ちょっと……座りましょうか」

 間近に立っていたら、二〇センチ以上の身長差のせいで、私はかなり首を上向けた姿勢になる。

 それが辛そうだと思われたのかな。

 宗親さんに促されて、私はすぐそばのソファーに座らされる。

 そのまま横に腰掛けると思っていた宗親さんは、でもソファーには腰掛けずに私の前にひざまずくように腰を落とした。

「宗親、さ……?」

 お陰で目線は随分楽になったけれど、今度は私が彼を見下ろすみたいになってしまったことが落ち着かない。

 なのに宗親さんは「しー」って私の唇に人差し指を当てて黙らせると、そのまま話し出すの。

「僕が、以前婚姻届を出さなかった理由は……春凪はなが僕のことを好きになってくれていなかったからです」

 宗親さんに切ない表情で見上げられて、私は思わず「え?」とつぶやいた。

「僕はね、春凪はな。キミと両想いになれるまでは婚姻届は出さないって心に決めていたんだ」


 偽装結婚を持ちかけていらしたくせに?

 そんなことをおっしゃる宗親さんにキョトンとしたら、彼が小さく吐息を落とした。
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