252 / 366
32.春凪の愚痴と宗親の本心
フリーでもない女の肩を抱く趣味はない
しおりを挟む
***
「お邪魔しました」
言って、足利くんに手を振ったら、「北条、お前送り狼になるなよ?」と足利くんが私の横に立つ北条くんを睨んで。
「文句があるなら眠りこけて起きない武田に言え」
と睨み返されていた。
結局揺すってもペチペチ叩いても半覚醒にもならない武田くんは、足利くんの家に泊まることになって。
結果私は北条くんと二人きり。彼にほたるの住むアパートまで送ってもらうことになってしまった。
お暇すると言う間際になって、北条くんはどこかに電話を掛けていて。
もしかして彼女さんが家で彼の帰りを待っているのかな?とソワソワする。
「あにょ、私ひとりれもちゃんと帰れましゅよ?」
ビシッ!と敬礼しながら言ったら、逆にふらついて北条くんに支えられてしまう。
うー。申し訳ないっ。
と思ったのも束の間、
「フリーでもない女の肩を抱く趣味はない。シャキッと立て!」
キッ!と睨みつけられて私は「はい! しゅみましぇ……っ」と慌てて北条くんから離れた。
恋人でもない女性に触れることはいけないことだと思っているらしい硬派な北条くんに、私はふらつくたびに叱咤激励と言う名のスパルタ教育を受けています。
「――ったく、この調子じゃあ下まで降りるのも一苦労だろうが」
えー。エレベーターで降りるだけだもーん。
階段じゃないから平気ですよーだ!
なんて心の中で一人毒付いているなんて、怖くて言えません。
ブツブツ言いながら、さっきから北条くんがスマホをしきりに気にしているのが気になって。
「誰かとお約束れもあるんれしゅか?」
だとしたら、私のことは構わずそっちを優先して欲しい。
「本当、私は大丈夫れすのれ、早く行ってあげれくらしゃい」
言ったら、はぁ~っと盛大に溜め息をつかれてしまった。
うっ。酔っ払いですみません。
でも、思いのほか頭ははっきりしてるんですよ?
本当です。
そう思って北条くんを恨めしげに見上げたところでエレベーターが来て。
私は壁に身体をずりずりこすり付けながら箱内に乗り込んだ。
「壁掃除でもするつもりか」
私が箱に入るのを見届けた北条くんが、嫌味を言いながらもエレベーターに入ってきて一階ボタンを押してくれる。
足利くんの部屋は六階だったから、エレベーターがないとキツイだろうなぁと、それよりもっともっと高い上層階に住んでいるくせに、そんなことを思ってしまう。
(あ、でも。もうあそこにはいられないんだ)
そう思ったら、何となく寂しくなって鼻の奥がツンと痛んだ。
ジワリと滲んできた涙を誤魔化すように鼻を啜ったと同時に一階に着いたエレベーターの扉が開いて。
北条くんが、ドアが閉まらないように「開」ボタンを押してくれているのを横目に見ながら、「有難う」と言いながら外に出た。
歩いた振動で、ポロリと涙がこぼれ落ちて、北条くんに背中を向けていてよかったって思っていたら。
「――春凪っ!」
不意にすぐそばから幻聴が聞こえてきて、私は「へっ?」と間の抜けた声を出す。
でも――。
ギューッと苦しいくらいに私を抱きしめてくるこの腕は、幻覚ではないような……?
鼻水出ちゃう、とか思いながらスンッと吸い込んだ空気と一緒に、嗅ぎ慣れたマリン系の香りが肺を満たして、私は戸惑いに固まってしまう。
「お邪魔しました」
言って、足利くんに手を振ったら、「北条、お前送り狼になるなよ?」と足利くんが私の横に立つ北条くんを睨んで。
「文句があるなら眠りこけて起きない武田に言え」
と睨み返されていた。
結局揺すってもペチペチ叩いても半覚醒にもならない武田くんは、足利くんの家に泊まることになって。
結果私は北条くんと二人きり。彼にほたるの住むアパートまで送ってもらうことになってしまった。
お暇すると言う間際になって、北条くんはどこかに電話を掛けていて。
もしかして彼女さんが家で彼の帰りを待っているのかな?とソワソワする。
「あにょ、私ひとりれもちゃんと帰れましゅよ?」
ビシッ!と敬礼しながら言ったら、逆にふらついて北条くんに支えられてしまう。
うー。申し訳ないっ。
と思ったのも束の間、
「フリーでもない女の肩を抱く趣味はない。シャキッと立て!」
キッ!と睨みつけられて私は「はい! しゅみましぇ……っ」と慌てて北条くんから離れた。
恋人でもない女性に触れることはいけないことだと思っているらしい硬派な北条くんに、私はふらつくたびに叱咤激励と言う名のスパルタ教育を受けています。
「――ったく、この調子じゃあ下まで降りるのも一苦労だろうが」
えー。エレベーターで降りるだけだもーん。
階段じゃないから平気ですよーだ!
なんて心の中で一人毒付いているなんて、怖くて言えません。
ブツブツ言いながら、さっきから北条くんがスマホをしきりに気にしているのが気になって。
「誰かとお約束れもあるんれしゅか?」
だとしたら、私のことは構わずそっちを優先して欲しい。
「本当、私は大丈夫れすのれ、早く行ってあげれくらしゃい」
言ったら、はぁ~っと盛大に溜め息をつかれてしまった。
うっ。酔っ払いですみません。
でも、思いのほか頭ははっきりしてるんですよ?
本当です。
そう思って北条くんを恨めしげに見上げたところでエレベーターが来て。
私は壁に身体をずりずりこすり付けながら箱内に乗り込んだ。
「壁掃除でもするつもりか」
私が箱に入るのを見届けた北条くんが、嫌味を言いながらもエレベーターに入ってきて一階ボタンを押してくれる。
足利くんの部屋は六階だったから、エレベーターがないとキツイだろうなぁと、それよりもっともっと高い上層階に住んでいるくせに、そんなことを思ってしまう。
(あ、でも。もうあそこにはいられないんだ)
そう思ったら、何となく寂しくなって鼻の奥がツンと痛んだ。
ジワリと滲んできた涙を誤魔化すように鼻を啜ったと同時に一階に着いたエレベーターの扉が開いて。
北条くんが、ドアが閉まらないように「開」ボタンを押してくれているのを横目に見ながら、「有難う」と言いながら外に出た。
歩いた振動で、ポロリと涙がこぼれ落ちて、北条くんに背中を向けていてよかったって思っていたら。
「――春凪っ!」
不意にすぐそばから幻聴が聞こえてきて、私は「へっ?」と間の抜けた声を出す。
でも――。
ギューッと苦しいくらいに私を抱きしめてくるこの腕は、幻覚ではないような……?
鼻水出ちゃう、とか思いながらスンッと吸い込んだ空気と一緒に、嗅ぎ慣れたマリン系の香りが肺を満たして、私は戸惑いに固まってしまう。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ただいま冷徹上司を調・教・中!
伊吹美香
恋愛
同期から男を寝取られ棄てられた崖っぷちOL
久瀬千尋(くぜちひろ)28歳
×
容姿端麗で仕事もでき一目置かれる恋愛下手課長
平嶋凱莉(ひらしまかいり)35歳
二人はひょんなことから(仮)恋人になることに。
今まで知らなかった素顔を知るたびに、二人の関係は近くなる。
意地と恥から始まった(仮)恋人は(本)恋人になれるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる