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32.春凪の愚痴と宗親の本心

指輪をしてないのとMisokaに来なかったこと、何か関係ある?

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***

「あの、さ……ずっと気になってたんだけど。――いま指輪してないのと……今日Misokaミソカに来なかったのって……ひょっとして関連あったりする?」

 大分お酒が進んできて、みんなの気持ちがほぐれた頃、足利くんが恐る恐ると言った調子で話しかけてきて。

 北条ほうじょうくんが「おい」と彼をたしなめてくれる。

 武田たけだくんはと言うと、ゴロンと横になって、すやすやと眠ってしまっていた。

 真剣な表情で問うてくる足利くんを見て、一時の感情に駆られて指輪を外してこの場に来てしまったのは失策だったと気がついたけれど後の祭り。


 お酒の力も手伝って、私は「べちゅ宗親むねちかしゃんと喧嘩とかしらわけじゃないんれす」と呂律ろれつの回らない口調でフワフワと答えた。

「しゅっごく大切たいせちゅころ、……うしょちゅかれてらのが堪えたらけれ……」
(すっごく大切な事、嘘かれてたのが堪えただけで)

 ヘラッと笑ったつもりだったのに、涙がポロリとこぼれ落ちた。

「わー! ごめっ、柴田しばたさんっ! 俺が要らんこと聞いた!」

 それを見て足利くんが慌てて手を振り回して。

 北条くんが無言でティッシュを手渡してくれる。

 私がグスグス言いながらそれで涙を拭っている間、二人は何も言ってこなくて。

 ゴーッというエアコンの稼働音と、武田くんの「あ、そこ、もっと……」という謎の寝言だけが静かな室内に響いていた。

***

「おい、柴田しばた春凪はな。お前本当に大丈夫か?」

らなぁ~。大丈夫らいじょーぶれすよぉーっ」

 こすりすぎた目元がヒリヒリするけれど、平気。

 Vサインをしてみせたら床に放置していたスマートフォンがチカチカと光っているのが見えた。

 音もバイブもオフにしているけれど、着信通知のランプだけは生きているみたい。

 家を出た時、手にしていたのはスマートフォンだけ。
 お財布すら持って出ていなかった無一文の私は、服と一緒にほたるから渡された、お金入りのお財布一体型ポーチの中に、それをギューギュー押し込んだ。

 途端、北条くんが私の耳元に唇を寄せて、私にだけ聞こえる小声で
「なぁ、〝織田おりた課長〟に連絡しなくて良いのか……? 意地張って、後悔しても知らんぞ?」
 とささやき掛けてきて。

 私はびっくりして瞳を見開いてしまう。

「な……んれしょれを……」
(何でそれを)

 相手が織田おりた課長だなんて、私、一言も話してない……よ?

宗親むねちかなんて変わった名前、そうそうないからな」

 言われて、私、無意識に彼の名前を出していたんだと今更のように気付かされた。

「まぁ、俺しか気付いてなさそうだから安心しろ」

 向こうのほうで武田くんを起こそうと揺すっている足利くんにチラリと視線を流すと、北条くんが小さくフッと笑って。

 この人、本当すごいなぁ、敵にはしたくないぞーって、ぼんやりした頭でふわふわと思った。
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