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31-2.その頃の宗親
どう考えても春凪らしくない
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【side:宗親】
今日は家に帰っても春凪がいないと思うと、会社を後にするのがいつも以上に遅くなってしまった。
どの道やることは山積みだ。
社に残って仕事に集中していれば、時間が経つのが早い。
家に帰って春凪のいない部屋でぼんやり過ごすよりはマシな気がしたのだ。
「雨……?」
会社を出ると、いつの間に降り出したんだろう?
あちこちに水溜りが出来ていた。
今は霧雨みたいなものしか降っていないけれど、この感じからすると一時は結構降ったのかな?
(春凪は濡れたりせずに店に入れただろうか)
ほとんど無意識に、そんなことを思ってしまった。
もうすっかり真っ暗になった街を通り抜けて、マンションに帰り着いてみると、自宅前の共有廊下に何かが落ちていて、その見慣れた色に僕はおや?と思う。
拾い上げてみると、それはレモン色とグレイのツートンカラーの布地に、コック帽を被った居眠りナマケモノが描かれたデザインのエプロンだった。
(どう考えてもこれ、うちの春凪のですよね)
こんな特殊なデザインのエプロン、そうそう誰も彼もが持っているとは思えない。
胸騒ぎを覚えた僕は、エプロンを手にしたまま急いで玄関を開けて。
上がりかまちのところに無造作に小箱が落ちているのに気がついた。
(これ、今日届く予定だった……?)
開けてみるまでもなく、送り状の品名のところに「マグカップ」と書かれていたから、本日到着予定になっていたペアマグカップだと分かる。
春凪はこれを受け取るために僕より早く帰宅したはずだった。
確か宅配の受け取りに印鑑がいると春凪からメッセージがあって。
スマートフォンを取り出して春凪とのやり取りを開いてみると、送受信があったのは三時間ぐらい前だった。
「春凪?」
さすがに同期会の集合時間も過ぎているし、家には居ないだろうなと思いながらも胸騒ぎがして呼びかけずには居られない。
廊下を抜けてキッチンに入ると、キッチンカウンターの上にサバの味噌煮込みなどがまるで定食屋のそれみたいにトレイの上に綺麗に並べられていて。
汁椀だけは伏せて置かれていた。
ふんわりラップが掛けられたそのそばに、『お鍋の中にお味噌汁があります。味噌煮はレンジでチンして温めてくださいね。ハナ』というメモまで置かれていて、春凪の気遣いに愛しさが込み上げる。
僕のことは気にしなくていいよと言っても、こんな風に何品も僕のために春凪が手料理を作ってくれたんだと思うと、胸の奥がじんわり温かくなった。
それと同時、落ちていたエプロンや、玄関先に無造作に転がっていた宅配物への胸騒ぎが強くなって。
だってこんなの、どう考えても〝春凪らしくない〟じゃないか。
「春凪?」
再度呼びかけながらテレビのあるリビングに行って――、僕は思わず息を呑んだ。
(な、んでコレがここに……?)
開けっぱなしになった、キャビネットの引き出し。
僕はテレビの上の、とメッセージを入れたはずなのに、背の低い春凪は無意識に下を開けてしまったのか。
もしもに備えてすぐには見つからないよう、上にクリップや画鋲などを入れておいたはずなのに、それらを取り払って、春凪はこの書類を見つけてしまったということだろうか。
キャビネット前に無造作に落とされた【婚姻届】を見て、僕はその場に立ち尽くした。
提出したと嘘をついたこの書類がここにあるのを見つけて、春凪はどんな気持ちになったんだろう。
ひょっとして……僕に裏切られたと思った?
だからこそ、春凪はこんな風におかしな状態で、部屋を出て行ってしまったんじゃないだろうか。
「春凪……誤解です」
小さくつぶやいて、僕は飛び出すように部屋を後にした。
Misokaに行けば、春凪を捕まえられるだろうか――。
今日は家に帰っても春凪がいないと思うと、会社を後にするのがいつも以上に遅くなってしまった。
どの道やることは山積みだ。
社に残って仕事に集中していれば、時間が経つのが早い。
家に帰って春凪のいない部屋でぼんやり過ごすよりはマシな気がしたのだ。
「雨……?」
会社を出ると、いつの間に降り出したんだろう?
あちこちに水溜りが出来ていた。
今は霧雨みたいなものしか降っていないけれど、この感じからすると一時は結構降ったのかな?
(春凪は濡れたりせずに店に入れただろうか)
ほとんど無意識に、そんなことを思ってしまった。
もうすっかり真っ暗になった街を通り抜けて、マンションに帰り着いてみると、自宅前の共有廊下に何かが落ちていて、その見慣れた色に僕はおや?と思う。
拾い上げてみると、それはレモン色とグレイのツートンカラーの布地に、コック帽を被った居眠りナマケモノが描かれたデザインのエプロンだった。
(どう考えてもこれ、うちの春凪のですよね)
こんな特殊なデザインのエプロン、そうそう誰も彼もが持っているとは思えない。
胸騒ぎを覚えた僕は、エプロンを手にしたまま急いで玄関を開けて。
上がりかまちのところに無造作に小箱が落ちているのに気がついた。
(これ、今日届く予定だった……?)
開けてみるまでもなく、送り状の品名のところに「マグカップ」と書かれていたから、本日到着予定になっていたペアマグカップだと分かる。
春凪はこれを受け取るために僕より早く帰宅したはずだった。
確か宅配の受け取りに印鑑がいると春凪からメッセージがあって。
スマートフォンを取り出して春凪とのやり取りを開いてみると、送受信があったのは三時間ぐらい前だった。
「春凪?」
さすがに同期会の集合時間も過ぎているし、家には居ないだろうなと思いながらも胸騒ぎがして呼びかけずには居られない。
廊下を抜けてキッチンに入ると、キッチンカウンターの上にサバの味噌煮込みなどがまるで定食屋のそれみたいにトレイの上に綺麗に並べられていて。
汁椀だけは伏せて置かれていた。
ふんわりラップが掛けられたそのそばに、『お鍋の中にお味噌汁があります。味噌煮はレンジでチンして温めてくださいね。ハナ』というメモまで置かれていて、春凪の気遣いに愛しさが込み上げる。
僕のことは気にしなくていいよと言っても、こんな風に何品も僕のために春凪が手料理を作ってくれたんだと思うと、胸の奥がじんわり温かくなった。
それと同時、落ちていたエプロンや、玄関先に無造作に転がっていた宅配物への胸騒ぎが強くなって。
だってこんなの、どう考えても〝春凪らしくない〟じゃないか。
「春凪?」
再度呼びかけながらテレビのあるリビングに行って――、僕は思わず息を呑んだ。
(な、んでコレがここに……?)
開けっぱなしになった、キャビネットの引き出し。
僕はテレビの上の、とメッセージを入れたはずなのに、背の低い春凪は無意識に下を開けてしまったのか。
もしもに備えてすぐには見つからないよう、上にクリップや画鋲などを入れておいたはずなのに、それらを取り払って、春凪はこの書類を見つけてしまったということだろうか。
キャビネット前に無造作に落とされた【婚姻届】を見て、僕はその場に立ち尽くした。
提出したと嘘をついたこの書類がここにあるのを見つけて、春凪はどんな気持ちになったんだろう。
ひょっとして……僕に裏切られたと思った?
だからこそ、春凪はこんな風におかしな状態で、部屋を出て行ってしまったんじゃないだろうか。
「春凪……誤解です」
小さくつぶやいて、僕は飛び出すように部屋を後にした。
Misokaに行けば、春凪を捕まえられるだろうか――。
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