【完結】【R18】好みの彼に弱みを握られていますっ!

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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29.目立ち過ぎて困ります

抜かってました!

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***

「ただいま」

 ひゃー! 帰ってきた!

「お帰りなさい」

 本当は玄関先まで走って行って、カバンとか上着とか甲斐甲斐しく受け取る新妻を演じたいけれど……さすがに偽装の身でそれは重すぎるかな?とグッと我慢して。

 付け合わせに作ったスナップエンドウとちくわのバター醤油を小鉢に移して食卓に並べながら、私はその衝動と必死に闘った。


宗親むねちかさん、今日は晩酌なさるかな?)

 ビールだったら私も一緒にご相伴になろう!
 おつまみは、宗親むねちかさんが冷蔵庫の奥に仕舞い込んでいる胡椒の入った〝ケーゼレベレンペッパーチーズ〟がいいな♥

 そんなことを思っていたら、指輪を付けるのが後手に回ってしまった。


 宗親むねちかさんは帰宅するなり私の左手薬指をチラリと見て、「春凪はな、どうして指輪、外してるの?」と聞いてくる。

(ぐっ。抜かってました、すみません!)


 心ではそう思ったけれど、指輪より先に食卓を見て?とも思ってしまって、「水仕事したり、生モノ触ったりしてたんですものっ。付けとけませんよ」なんて憎まれ口を叩いてみたり。

 何せ百五十万円もする指輪です。
 そうじゃなくても私、炊事のときは指輪は外しておきたい派。


「もしかして春凪はな。会社の給湯室でコーヒー淹れたりするときも外してたり?」

 途端少し声を低めて聞かれて、「さすがにそこまでは」と答えたら満足そうな腹黒スマイルを浮かべられた。

「――でしたら結構です」

 何が結構なのかは存じ上げませんが、洗い物するときはポケットに仕舞ってますよ?と密やかに付け加える。


 宗親むねちかさんの視線が痛くていそいそと指輪を指にはめながら、お昼過ぎに九階のリラクゼーションルーム付近であった出来事を思い出した私は、ぷぅっと頬を膨らませて宗親むねちかさんに物申した。

 それが、本章冒頭の「宗親むねちかさんっ! 目立ち過ぎて会社でめちゃくちゃ気にされまくっちゃうんですけどっ」というセリフです。



***



 夜。

 宗親むねちかさんとソファーに横並びに座って。

 ビールが注がれたグラスを手にソワソワしてしまうのは、今夜は明らかに宗親むねちかさんが座る位置が物凄ぉーく私に近いと感じるから。

 ソファーの肘掛ひじかけから自分までの距離と、自分と宗親むねちかさんとの隙間を目測しながら、私は落ち着かない気持ちで大好物のチーズ――ケーゼレベレンペッパーチーズ――に手を伸ばした。
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