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28.左手薬指のアレ
郷に入っては郷に従えとは言うけれど
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***
「極端な話、偽装結婚な訳ですし、シルバーリングだって私は満足なんですよぅ」
言って、カフェオレの入った愛用のナマケモノ柄マグカップをギュッと握って眉根を寄せたら、「偽装だからこそ形式が大事なんですよ?」と畳み掛けられてしまった。
またここでも宗親さんは「形から」。
婚姻届の提出の時に感じた切なさが胸の奥でチクリと疼く。
それで自然俯いてしまった私をチラリと見て、宗親さんも悪いと思ったのかな。
「春凪の言いたいことが分からない訳ではありませんよ? ただ、これ以下のものではうちの母が許してくれないんです」
とどこか困ったように言われてしまっては、渋々ながらもうなずくしかない。
宗親さんの表情を見て、織田家と柴田家の格の違いを思えば、「郷に入っては郷に従え」は、〝偽装妻〟として守るべき最低ラインだよねと思い直した私だ。
それでも、私は言わずにはいられない――。
「でっ、でしたらっ……。こっ、この中でもなるべくお安いのでっ」
さすがに七桁は有り得ないし、せめて一桁下げて欲しい。そうお願いしたのだけれど――。
宗親さんとウダウダ揉めているうちに、〝何故か〟葉月さんが訪問していらして、彼女が懇意にしておられる宝石店を紹介されてしまった。
宗親さんめ!
絶対お風呂の時とか……私が目を離していたうちに葉月さんに連絡を取ったに違いないの!
さすがにそうなると引っ込みがつかなくなって。
宗親さんは白々しくも「まぁ後手に回り過ぎましたし、せっかちな母からすると当然の流れでしょうね」と、困ったふりをしつつも、どこかしたり顔で続けるの。
「断ると後々が面倒なので、ここで購入しましょう」
そんな、退路を断たれる形での、ゆるっとした流されモード。
そもそもお義母さま、入籍も済ませた後の嫁に婚約指輪は必要ないとかおっしゃらないの!?とそこも引っかかってしまう。
葉月さんに直接聞くのは何だか憚られて、彼女が帰られた後で宗親さんにそう言ったら、「あの人も形から入る人ですから」って納得いくようないかないような微妙な答えを返された。
――形から、には順番は含まれないの?
などと思っている私に、宗親さんが追い討ちをかけてくる。
「極端な話、偽装結婚な訳ですし、シルバーリングだって私は満足なんですよぅ」
言って、カフェオレの入った愛用のナマケモノ柄マグカップをギュッと握って眉根を寄せたら、「偽装だからこそ形式が大事なんですよ?」と畳み掛けられてしまった。
またここでも宗親さんは「形から」。
婚姻届の提出の時に感じた切なさが胸の奥でチクリと疼く。
それで自然俯いてしまった私をチラリと見て、宗親さんも悪いと思ったのかな。
「春凪の言いたいことが分からない訳ではありませんよ? ただ、これ以下のものではうちの母が許してくれないんです」
とどこか困ったように言われてしまっては、渋々ながらもうなずくしかない。
宗親さんの表情を見て、織田家と柴田家の格の違いを思えば、「郷に入っては郷に従え」は、〝偽装妻〟として守るべき最低ラインだよねと思い直した私だ。
それでも、私は言わずにはいられない――。
「でっ、でしたらっ……。こっ、この中でもなるべくお安いのでっ」
さすがに七桁は有り得ないし、せめて一桁下げて欲しい。そうお願いしたのだけれど――。
宗親さんとウダウダ揉めているうちに、〝何故か〟葉月さんが訪問していらして、彼女が懇意にしておられる宝石店を紹介されてしまった。
宗親さんめ!
絶対お風呂の時とか……私が目を離していたうちに葉月さんに連絡を取ったに違いないの!
さすがにそうなると引っ込みがつかなくなって。
宗親さんは白々しくも「まぁ後手に回り過ぎましたし、せっかちな母からすると当然の流れでしょうね」と、困ったふりをしつつも、どこかしたり顔で続けるの。
「断ると後々が面倒なので、ここで購入しましょう」
そんな、退路を断たれる形での、ゆるっとした流されモード。
そもそもお義母さま、入籍も済ませた後の嫁に婚約指輪は必要ないとかおっしゃらないの!?とそこも引っかかってしまう。
葉月さんに直接聞くのは何だか憚られて、彼女が帰られた後で宗親さんにそう言ったら、「あの人も形から入る人ですから」って納得いくようないかないような微妙な答えを返された。
――形から、には順番は含まれないの?
などと思っている私に、宗親さんが追い討ちをかけてくる。
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