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22.玉ねぎが目にしみただけ
言い訳
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「今日は出先で役所に行く便があったので、婚姻届も提出しておきましたよ」
って。
今夜は親子丼でいいかな?なんて思いながら夕飯の支度をしていた私は、世間話のついでみたいにサラリと告げられたセリフに、思わず手が止まってしまう。
(えっと、今のって親子丼の作り方のレクチャーじゃないよね?)
などと頓珍漢なことを思う程度には混乱中で。
玉ねぎをスライスしていた手を止めて、私は思わず宗親さんを振り返った。
そうして数秒遅れて「え!?」と声を出して、切ったばかりの玉ねぎをまな板から払い落としてしまって、慌てて拾う。
いくら偽装とはいえ、婚姻届くらいは一緒に出しに行くものだと思っていたんだけどな?
「形式的なものですし、春凪の希望通り友引に提出したのですから構わないでしょう?」
呆気らかんと告げられて、カレンダーを見るよう促された私は、思考回路がショート寸前です。
宗親さんに指差された壁のカレンダーを見ると、今日の日付のところには、確かに「友引」と書かれていた。
いや、でもだからって。
私、今日出しに行くなんてこれっぽっちも思っていなかったですっ。
それに――。
宗親さんの仰った「形式的なもの」と言う言葉から、「偽装結婚だから」というニュアンスを強く意識させられた私は、自分でもそうだと認識して色々自粛していたくせに――いや、自粛していたからこそ?――にわかに悲しくなる。
視界がじんわり涙で霞んだのを、「たっ、玉ねぎが目にしみてきちゃいましたっ」とヘラリと笑って誤魔化して。
前に婚姻届を出すお日柄のことは聞かれたけれど、今日出しに行くだなんて宗親さん、会社を出る時にだって一言も言わなかったですよね?
私、何の心の準備も出来てやしないんですよ?
なのにもう籍だけは入ってしまったの?
私の預かり知らないところで?
何で?
結婚って……2人の問題じゃないの?
1人だけで決めちゃっていいの?
そんな面倒臭いことを思ってるって知ったら、宗親さん、私のこと偽装妻として失格だって……嫌になりますか?
とかアレコレ思ったら、どうしようもなく切なくなって、鼻の奥がツンと痛んで涙が次々に溢れ落ちるのを止められなくなった。
ダメだよ、春凪。
こんなところでこんな風に泣いたら、さすがに宗親さんに変に思われちゃう!
あぁ、でもっ。私いま、玉ねぎを切ってるところで本当に良かった。
宗親さん、この涙はね、玉ねぎが目にしみただけです。
それ以上の意味なんてないのです。
そう、貴方に言い訳できるから――。
って。
今夜は親子丼でいいかな?なんて思いながら夕飯の支度をしていた私は、世間話のついでみたいにサラリと告げられたセリフに、思わず手が止まってしまう。
(えっと、今のって親子丼の作り方のレクチャーじゃないよね?)
などと頓珍漢なことを思う程度には混乱中で。
玉ねぎをスライスしていた手を止めて、私は思わず宗親さんを振り返った。
そうして数秒遅れて「え!?」と声を出して、切ったばかりの玉ねぎをまな板から払い落としてしまって、慌てて拾う。
いくら偽装とはいえ、婚姻届くらいは一緒に出しに行くものだと思っていたんだけどな?
「形式的なものですし、春凪の希望通り友引に提出したのですから構わないでしょう?」
呆気らかんと告げられて、カレンダーを見るよう促された私は、思考回路がショート寸前です。
宗親さんに指差された壁のカレンダーを見ると、今日の日付のところには、確かに「友引」と書かれていた。
いや、でもだからって。
私、今日出しに行くなんてこれっぽっちも思っていなかったですっ。
それに――。
宗親さんの仰った「形式的なもの」と言う言葉から、「偽装結婚だから」というニュアンスを強く意識させられた私は、自分でもそうだと認識して色々自粛していたくせに――いや、自粛していたからこそ?――にわかに悲しくなる。
視界がじんわり涙で霞んだのを、「たっ、玉ねぎが目にしみてきちゃいましたっ」とヘラリと笑って誤魔化して。
前に婚姻届を出すお日柄のことは聞かれたけれど、今日出しに行くだなんて宗親さん、会社を出る時にだって一言も言わなかったですよね?
私、何の心の準備も出来てやしないんですよ?
なのにもう籍だけは入ってしまったの?
私の預かり知らないところで?
何で?
結婚って……2人の問題じゃないの?
1人だけで決めちゃっていいの?
そんな面倒臭いことを思ってるって知ったら、宗親さん、私のこと偽装妻として失格だって……嫌になりますか?
とかアレコレ思ったら、どうしようもなく切なくなって、鼻の奥がツンと痛んで涙が次々に溢れ落ちるのを止められなくなった。
ダメだよ、春凪。
こんなところでこんな風に泣いたら、さすがに宗親さんに変に思われちゃう!
あぁ、でもっ。私いま、玉ねぎを切ってるところで本当に良かった。
宗親さん、この涙はね、玉ねぎが目にしみただけです。
それ以上の意味なんてないのです。
そう、貴方に言い訳できるから――。
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