168 / 366
22.玉ねぎが目にしみただけ
たまには離れてみるのも
しおりを挟む
「柴田さん、この見積書の作成頼めますか? ――僕は午後からあちこち回ってこないといけないので」
婚姻届のことから数日が過ぎた頃。
職場で宗親さんが、珍しく別行動の旨を告げていらした。
何か困ったことがあってもすぐには助けられないけれど大丈夫ですか?と言外に含ませてくる宗親さんに、そう言えばたった半日とはいえ、丸っきり一人にされるのは入社以来初めてだったぁ~!と気付かされてドキドキする。
いつもならどこに出掛ける折にも付いてくるように言われてばかりだったのに、本当珍しい。
きっと、そんな思いが顔に出てしまっていたんだと思う。
「もしかして寂しいんですか? ――ハナ」
不意に距離をグイッと削られて、耳元を掠めそうな距離、囁くようにそう問われた私は、突然耳を侵食してきた低音イケボに慌てて耳を押さえて真っ赤になった。
プライベートと違い、職場ではちゃんと苗字で呼び合っているのに、わざと「春凪」と呼ばれたことにも心臓をバクバクさせられて。
そんな私の様子を瞳を細めて楽しそうにご覧になる宗親さんに、「絶対揶揄われたぁ~!」と理解した。
「寂しいわけありまてん!」
でっ、出だししくじった上に噛んだっ!
恥ずかしぃーっ!!
宗親さんの意地悪への怒りと、たったそれだけのことにいとも容易く翻弄されてしまう自分の不甲斐なさに感情が昂り過ぎてしまったみたい。
決まり悪さに涙目になって、それでも負けたくない一心で宗親さんを睨みながら「つっ、常とは違う指示をなさるから……そのっ、へっ、変に思っただけです!」としどろもどろになりながらも何とか言い募ったら、「冗談ですよ」と腹黒スマイルでサラリといなされる。
その上で、「いま頼んだ見積書、本当に急ぎなんです。明日の朝イチで使いたいので」と肩をポンと叩かれて。
「頼りにしています」
そう付け加えられて柔らかな眼差しを向けられた私は、宗親さんから仕事の上で少しは信頼され始めたのかな?と嬉しくなる。
それで、ムスッとしていたのも忘れてパァッと笑顔になった。
「お任せください。織田課長!」
手渡された資料を手にガッツポーズをしてみせたらクスッと笑われて、その笑顔に「絶対チョロいって思われた!」って、今更ながらに赤面する。
あーん、私のバカ!
職場では(職場でも)頼りにしまくりの織田課長の不在は不安だけど、家でも職場でもずっと一緒なんだもん。
たまにはこうして離れてみるのも大事だよね?
そう自分に言い聞かせた。
婚姻届のことから数日が過ぎた頃。
職場で宗親さんが、珍しく別行動の旨を告げていらした。
何か困ったことがあってもすぐには助けられないけれど大丈夫ですか?と言外に含ませてくる宗親さんに、そう言えばたった半日とはいえ、丸っきり一人にされるのは入社以来初めてだったぁ~!と気付かされてドキドキする。
いつもならどこに出掛ける折にも付いてくるように言われてばかりだったのに、本当珍しい。
きっと、そんな思いが顔に出てしまっていたんだと思う。
「もしかして寂しいんですか? ――ハナ」
不意に距離をグイッと削られて、耳元を掠めそうな距離、囁くようにそう問われた私は、突然耳を侵食してきた低音イケボに慌てて耳を押さえて真っ赤になった。
プライベートと違い、職場ではちゃんと苗字で呼び合っているのに、わざと「春凪」と呼ばれたことにも心臓をバクバクさせられて。
そんな私の様子を瞳を細めて楽しそうにご覧になる宗親さんに、「絶対揶揄われたぁ~!」と理解した。
「寂しいわけありまてん!」
でっ、出だししくじった上に噛んだっ!
恥ずかしぃーっ!!
宗親さんの意地悪への怒りと、たったそれだけのことにいとも容易く翻弄されてしまう自分の不甲斐なさに感情が昂り過ぎてしまったみたい。
決まり悪さに涙目になって、それでも負けたくない一心で宗親さんを睨みながら「つっ、常とは違う指示をなさるから……そのっ、へっ、変に思っただけです!」としどろもどろになりながらも何とか言い募ったら、「冗談ですよ」と腹黒スマイルでサラリといなされる。
その上で、「いま頼んだ見積書、本当に急ぎなんです。明日の朝イチで使いたいので」と肩をポンと叩かれて。
「頼りにしています」
そう付け加えられて柔らかな眼差しを向けられた私は、宗親さんから仕事の上で少しは信頼され始めたのかな?と嬉しくなる。
それで、ムスッとしていたのも忘れてパァッと笑顔になった。
「お任せください。織田課長!」
手渡された資料を手にガッツポーズをしてみせたらクスッと笑われて、その笑顔に「絶対チョロいって思われた!」って、今更ながらに赤面する。
あーん、私のバカ!
職場では(職場でも)頼りにしまくりの織田課長の不在は不安だけど、家でも職場でもずっと一緒なんだもん。
たまにはこうして離れてみるのも大事だよね?
そう自分に言い聞かせた。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる