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18.勝算がおありなのですか?
お母さんよ?
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***
実家への訪問から2週間近く経った頃。
お風呂上がり、半袖にハーフパンツのパジャマ姿で、リビングの宗親さんから離れて自室で涼んでいたら、携帯が鳴った。
部屋には入居したばかりの頃にはなかった扇風機が増えていて。
それは梅雨入りして間もない頃、宗親さんが必要でしょう?と部屋に持ってきて下さったものだ。
もちろんあてがわれた部屋にはエアコンだってちゃんと完備されていたけれど、それはそれとして扇風機の存在はすごくありがたくて。
薄桃色を基調に、送風部の内周だけが差し色のように白色の羽なし扇風機は、別に必要ないだろうに丸型の頭部にウサギの耳が付いた可愛らしいデザインだった。
明らかにわざわざ私の好みそうなものを新調して下さったようにしか思えなかったのに、何故か箱無しの裸ん坊で説明書とリモコンをビニール袋に入れられて私の手元にやってきたその扇風機を受け取りながら、私の頭の中は疑問符で満載だった。
時を同じくしてリビングにも羽なしのスタイリッシュな扇風機が出ていたけれど、そちらは白とシルバーを基調とした落ち着いたものだったから、やっぱり明らかにピンクのは私仕様だよね?と思って。
もし新調して下さったんだとしたら、何だか申し訳なく思って。「もしかしてわざわざ買って下さったんですか?」とお聞きしたら「まさか。妹からのお下がりですよ?」とか……本当ですか?
可愛い割にしっかりとした風量のある扇風機の風に当たりながらじゃ、風の音が通話の邪魔かな?とスイッチを切ってスマートフォンの画面に視線を落とす。
番号だけが通知されているところを見ると、未登録の相手だ。
私、基本的には未知の番号からの着信には出ない主義だったけれど、不動産屋さんとの連絡ミスからの家なき子の記憶がまだ生々しく心の傷として残っていたから、警戒しながらも通話ボタンを押した。
「――もしもし?」
出たと同時、
『……春凪ちゃん? ああ、よかった! 知らない番号からだから出てくれないかとドキドキしちゃった!』
とやけに気さくな感じで女性に名を呼ばれて。
私は一瞬電話の相手が誰だかピンとこなくて、携帯を耳に当てたまま黙り込んだ。
と、
『え? もしかして分からないのっ? お母さんよ?』
キョトンとした声音で言われて「えっ。お母さん!?」と思わず大きな声になってしまう。
普段固定電話からかかってくるときの、どこか抑圧された雰囲気の声音とは余りに違う弾んだ様子に、声は似ているけれど別人だと勝手に脳が認識したみたい。
お母さんは『春凪ちゃん、耳が痛いわ』って笑ってから、『葉月さんのお勧めでお母さんとおばあちゃん一緒に、携帯デビューしたの』と続けて。
――……葉月さん?
一瞬お母さんが誰の話をしているのか分からなくて、私はスマートフォンを手に記憶の引き出しを模索する。
実家への訪問から2週間近く経った頃。
お風呂上がり、半袖にハーフパンツのパジャマ姿で、リビングの宗親さんから離れて自室で涼んでいたら、携帯が鳴った。
部屋には入居したばかりの頃にはなかった扇風機が増えていて。
それは梅雨入りして間もない頃、宗親さんが必要でしょう?と部屋に持ってきて下さったものだ。
もちろんあてがわれた部屋にはエアコンだってちゃんと完備されていたけれど、それはそれとして扇風機の存在はすごくありがたくて。
薄桃色を基調に、送風部の内周だけが差し色のように白色の羽なし扇風機は、別に必要ないだろうに丸型の頭部にウサギの耳が付いた可愛らしいデザインだった。
明らかにわざわざ私の好みそうなものを新調して下さったようにしか思えなかったのに、何故か箱無しの裸ん坊で説明書とリモコンをビニール袋に入れられて私の手元にやってきたその扇風機を受け取りながら、私の頭の中は疑問符で満載だった。
時を同じくしてリビングにも羽なしのスタイリッシュな扇風機が出ていたけれど、そちらは白とシルバーを基調とした落ち着いたものだったから、やっぱり明らかにピンクのは私仕様だよね?と思って。
もし新調して下さったんだとしたら、何だか申し訳なく思って。「もしかしてわざわざ買って下さったんですか?」とお聞きしたら「まさか。妹からのお下がりですよ?」とか……本当ですか?
可愛い割にしっかりとした風量のある扇風機の風に当たりながらじゃ、風の音が通話の邪魔かな?とスイッチを切ってスマートフォンの画面に視線を落とす。
番号だけが通知されているところを見ると、未登録の相手だ。
私、基本的には未知の番号からの着信には出ない主義だったけれど、不動産屋さんとの連絡ミスからの家なき子の記憶がまだ生々しく心の傷として残っていたから、警戒しながらも通話ボタンを押した。
「――もしもし?」
出たと同時、
『……春凪ちゃん? ああ、よかった! 知らない番号からだから出てくれないかとドキドキしちゃった!』
とやけに気さくな感じで女性に名を呼ばれて。
私は一瞬電話の相手が誰だかピンとこなくて、携帯を耳に当てたまま黙り込んだ。
と、
『え? もしかして分からないのっ? お母さんよ?』
キョトンとした声音で言われて「えっ。お母さん!?」と思わず大きな声になってしまう。
普段固定電話からかかってくるときの、どこか抑圧された雰囲気の声音とは余りに違う弾んだ様子に、声は似ているけれど別人だと勝手に脳が認識したみたい。
お母さんは『春凪ちゃん、耳が痛いわ』って笑ってから、『葉月さんのお勧めでお母さんとおばあちゃん一緒に、携帯デビューしたの』と続けて。
――……葉月さん?
一瞬お母さんが誰の話をしているのか分からなくて、私はスマートフォンを手に記憶の引き出しを模索する。
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