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17.わけも分からないままトントン拍子?
肩書きなんてなくても
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宗親さんに言わせると、社長の息子だからといって、その会社のトップの席が必ずしも約束されているわけではないらしい。
現に、自分と同じ役職の名刺を持つ人間がもうひとりいて、副社長としての業務は今現在、ほぼその人がこなしているらしい。
そう述べた後で、宗親さんは堂々と胸を張った。
「けれど、僕はその座も――、もちろんトップの座も他者に譲る気はさらさらないのです」
ただ、今のままの自分では知識不足なことも、経験不足なことも重々承知しているのだと彼は申し添えて。
「だから僕は我が社の慣例に従い、他の取締役たちを黙らせる力をつけるため、現在外部の会社で研鑽を積んでいる最中なんです」
そこで一旦言葉を止めると、宗親さんは私に視線を流した。
「僕はこの研修期間中に、父から責任ある大人の男として〝家庭を築くための伴侶を得る〟ことも言い渡されていました」
もちろん無理なら見合いも視野に入れることはやぶさかではないと考えていたのだが、わたしと出会ってその必要はなくなりました、とにっこり微笑まれて。
「僕が共に人生を歩んでいくパートナーとして、春凪さん以外の女性は有り得ないと確信しています」
そううちの父に話す宗親さんの横顔は、嘘偽りだらけの言葉にまみれているはずなのに、凛乎たる有様で本当にカッコ良かったの。
ハッタリでも何でも、父を納得させるだけの気迫が宗親さんにはあって――。
いつだったか、宗親さんが自信たっぷりに、「僕は割と人たらしの才能もありますから、そちらの親御さんにも確実に気に入られる自信があります」と豪語なさったのは、伊達じゃなかったんだと身をもって実感した。
「時に宗親くん。そちらのご両親は……その、うちの娘が貴方と結婚することをお許し下さっているのでしょうか?」
初見の時の偉そうな態度とは一変。
どこか宗親さんに媚びへつらうような物言いをする父に、私は胸のうちでひとり密かに嘆息をする。
分かっていたけれど、この人は本当に人をステータスでしか判断が出来ないんだなって思ってガッカリしてしまう。
宗親さんは肩書きなんてなくても凄い人なのに。
もしも宗親さんが一介のサラリーマンだったら、父は――というより祖父も――彼との結婚を許してはくれないんだろうな。
「父にはこれから紹介する段取りですが、母と春凪さんは既に面識があります。少なくとも母親は彼女のことを気に入ってくれていますし、僕も春凪さん以外の女性と入籍するつもりはありませんので必ず説得してみせます」
宗親さんは父の値踏みするような視線にも何ら動じることなく背筋をピンと伸ばしてにこやかに微笑んだ。
その上で続けるの。
「正式に話がまとまり次第、次回はうちの両親とともにご挨拶に伺おうと思います」
大会社の社長が、一介の田舎娘のためにこんな僻地まで出向いてくると聞かされた父は、それだけで舞い上がってしまったみたい。
「いやっ、それではお忙しいのに申し訳がない。こちらのけじめとしてその際はそちらが都合の良い場所までうちが出向いて顔合わせといきましょう」
父の物言いに微かな引っ掛かりを感じた私は、幼い頃から言われ続けてきたことを思い出してにわかに不安になる。
それと同時、自分の半分ほどしか生きていないであろう宗親さんに、父がヘコヘコと頭を下げる様を見るのは何だか滑稽にも思えて。
父の背後に黙って控えている母が、私の方を見て口の端に小さく笑みを浮かべたのを私、見逃さなかったよ?
現に、自分と同じ役職の名刺を持つ人間がもうひとりいて、副社長としての業務は今現在、ほぼその人がこなしているらしい。
そう述べた後で、宗親さんは堂々と胸を張った。
「けれど、僕はその座も――、もちろんトップの座も他者に譲る気はさらさらないのです」
ただ、今のままの自分では知識不足なことも、経験不足なことも重々承知しているのだと彼は申し添えて。
「だから僕は我が社の慣例に従い、他の取締役たちを黙らせる力をつけるため、現在外部の会社で研鑽を積んでいる最中なんです」
そこで一旦言葉を止めると、宗親さんは私に視線を流した。
「僕はこの研修期間中に、父から責任ある大人の男として〝家庭を築くための伴侶を得る〟ことも言い渡されていました」
もちろん無理なら見合いも視野に入れることはやぶさかではないと考えていたのだが、わたしと出会ってその必要はなくなりました、とにっこり微笑まれて。
「僕が共に人生を歩んでいくパートナーとして、春凪さん以外の女性は有り得ないと確信しています」
そううちの父に話す宗親さんの横顔は、嘘偽りだらけの言葉にまみれているはずなのに、凛乎たる有様で本当にカッコ良かったの。
ハッタリでも何でも、父を納得させるだけの気迫が宗親さんにはあって――。
いつだったか、宗親さんが自信たっぷりに、「僕は割と人たらしの才能もありますから、そちらの親御さんにも確実に気に入られる自信があります」と豪語なさったのは、伊達じゃなかったんだと身をもって実感した。
「時に宗親くん。そちらのご両親は……その、うちの娘が貴方と結婚することをお許し下さっているのでしょうか?」
初見の時の偉そうな態度とは一変。
どこか宗親さんに媚びへつらうような物言いをする父に、私は胸のうちでひとり密かに嘆息をする。
分かっていたけれど、この人は本当に人をステータスでしか判断が出来ないんだなって思ってガッカリしてしまう。
宗親さんは肩書きなんてなくても凄い人なのに。
もしも宗親さんが一介のサラリーマンだったら、父は――というより祖父も――彼との結婚を許してはくれないんだろうな。
「父にはこれから紹介する段取りですが、母と春凪さんは既に面識があります。少なくとも母親は彼女のことを気に入ってくれていますし、僕も春凪さん以外の女性と入籍するつもりはありませんので必ず説得してみせます」
宗親さんは父の値踏みするような視線にも何ら動じることなく背筋をピンと伸ばしてにこやかに微笑んだ。
その上で続けるの。
「正式に話がまとまり次第、次回はうちの両親とともにご挨拶に伺おうと思います」
大会社の社長が、一介の田舎娘のためにこんな僻地まで出向いてくると聞かされた父は、それだけで舞い上がってしまったみたい。
「いやっ、それではお忙しいのに申し訳がない。こちらのけじめとしてその際はそちらが都合の良い場所までうちが出向いて顔合わせといきましょう」
父の物言いに微かな引っ掛かりを感じた私は、幼い頃から言われ続けてきたことを思い出してにわかに不安になる。
それと同時、自分の半分ほどしか生きていないであろう宗親さんに、父がヘコヘコと頭を下げる様を見るのは何だか滑稽にも思えて。
父の背後に黙って控えている母が、私の方を見て口の端に小さく笑みを浮かべたのを私、見逃さなかったよ?
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