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14.接点なんていくらでも作れるはずなんだ

トップシークレット

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 それに、きっと彼女はここからそう遠くない範囲に住んでいる。

 タクシーなんかを拾って来店するのを見掛けたことがないし、当たり前だけど飲酒運転をするような子にも思えない。

 徒歩圏内に住んでいる気安さから、ここの常連になっていると考えるのが妥当な筋だろう。


 実際、この辺りは近くに大きな大学があって、そこの学生があちこちに住んでいるような地域だ。

 僕が目を付けた子も、どうやらそこの学生みたいだし。


 何かをきっかけにあの子の家でも分かれば、偶然を装って「こんにちは」なんて言うのも出来るんだが。

 そんなことを思いながら、まぁそう都合よく物事が運ぶこともないか、と思い直して。


 とりあえず『Misokaミソカ』での接点を保ち続けられるようにしておくのが大事だ。

 そう思った僕は、学生の身分の彼女がここへ足繁く通い続けることが出来るよう、を明智に頼んで随分前に手配済みだ。

 学生というのは〝学割〟と言えば、ある程度裏から金額に関して都合よくアレコレ手を回しても不自然にならないのとか、本当に有り難い。



「問題はどう声を掛けるか、なんですが」

 あの子のことはこの店で幾度となく見掛けているけれど、ひとりで来ているのは見たことがない。

 明智あけちが言う彼氏連れの時もさることながら、それ以外でもショートカットのお姉さん気質な友人と飲んでいる風で。

 どこかでひとりになってくれたら話しかけやすいけれど、さすがに連れがいるとなるとタイミングが計りづらい。


 こちらも2人連れとかならともかく……1対2ではが悪いんですよね。

 いざとなったら明智あけちを巻き込むのもありだろうか。

 一瞬そんなことを思ってしまってから、でも場所を提供してもらう手前、出来れば独力で何とかしたいところですよね、と思い直す。


 そう思っていた矢先だった。


 うちの就職試験を彼女が受け、最終候補者の中の1人として残っていると知ったのは。



***


 履歴書の中、リクルートスーツに身を包み、いつものほんわりした雰囲気とは違った硬い表情で写った写真。
 それに記載された彼女の名前を見た瞬間、僕の妹と対になったようなその名に、運命的なものを感じたと言ったら言い過ぎだろうか。

 確かにバーで彼女が「ハナ」と呼ばれていたことは知っていた。
 だけどそれが、あんな風変わりな字を当てて読ませるだなんて、誰が想像出来る?

 妹の名が同じ様に変わった字面で構成されているのを棚に上げて、僕は今までその可能性に微塵も思い至っていなかった。

 ――こんなの、運命としか考えられないじゃないか。

 そう信じた僕が、すぐさま社長に掛け合って、彼女のことをどうしても自分の部署に引き抜きたいと話したのは、ここだけの話だ。

 うちの父と懇意こんいにしている雇われ先の社長が、その息子で……ゆくゆくはそこの跡取りになることが分かっている僕の提案を無下むげにすることはないだろうと知った上で、僕は権力を行使した。

 それ程までして、手中に収めたいと思ったのだ。

 ――柴田しばた春凪はなという女の子のことを。


 いつか正直にそう話せる日が来たならば、キミはどんな反応をするんだろう?

 契約で縛るような真似をしてまで自分のことを妻にめとろうとするような男、気持ちが悪いって思うかな?


 だから……。
 この気持ちは、春凪はなには絶対に知られてはいけない。

 僕が彼女のことを本気で愛しているということは、僕の中でトップシークレットになった。
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