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10.アレもコレも布石

お酒を盛られた理由

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 腹黒スマイルがこれほど板についた振る舞いができる人も珍しいのではないかと思ってしまった。



 その腹黒宗親むねちかさんが、「ところで今夜はどうしますか?」と再度聞いていらした。

 泊まりで決定みたいな言い方をしていたはずなのに、もしかして他の選択肢もありですか?

 そう思った私は、

「い、家に帰りたい……ですっ」

 無駄かも、と思いながらも一か八かで言ってみたところで、折り悪しく宗親むねちかさんのスマホが鳴って。

 宗親むねちかさんは画面を確認するなりニヤリとした。


春凪はな、もう一仕事してもらったらタクシーで家まで送ります。貴女の車も僕が責任を持ってアパートまで届けましょう。――頑張れますか?」

 聞かれて、私はわけが分からなくてキョトンとして。

「どう、いう……意味ですか?」

 恐る恐る聞いたら、

「実はね、ここに向かう前、母から後でマンションここに寄るとメッセージが入っていたんです」

 そこで手にしたスマホを私に意識させるようにこねくり回して。

「母は僕と春凪はなの関係を疑ってるみたいだってお話ししましたよね?」

 ずいっと私の方に身を乗り出すと、顔をじっと見つめてくる。

 ち、近いです、宗親むねちかさんっ。

 急に削られた距離にドギマギしながら思わず身を引こうとした私に、まるで追い討ちをかけるみたいに、

「――で、あんなことがあった後、僕が面倒がらずにキミと一緒にいるか確認したいんだと思いますよ?」

 こともなげにサラリと言ってから、「だったら仲がいいところを見せつけてやろうじゃありませんか」と不敵に微笑むの。

 そういえばお店の駐車場で、宗親むねちかさんがスマホを見て眉間にしわを寄せていらしたのを思い出す。

 息子である宗親むねちかさんの性格を熟知しておられる葉月さんは、宗親むねちかさんが利害関係だけで繋がっている相手に対して、かなりドライだと言うのをご存知らしい。

 だからこそ、宗親むねちかさんはそれを逆手に取るためにも、私を簡単に帰すわけにはいかなかったんだ。

 今更のようにそう思い至った私は、だからって、とムスッとしてしまう。

 簡単には帰らせないためみたいにお酒を盛られたのは、何だか信頼されてないみたいで心外だった。
 言ってくだされば、素面しらふでだって、ちゃんとお役目は果たしたのに。


 それで、非難がましい気持ちを込めて、

「あ、あのっ、私、お酒……っ」

 そこまで言ったところで宗親むねちかさんと視線が合ってしまって、「貴方にますよ!?」という、1番訴えたかったところが尻すぼまりになってしまった。


〝昼間っからお酒を飲むような女の子を、気に入る親御さんがいらっしゃるとは思えないのですが?〟

 ってところに繋げたかったのに……私のバカっ。
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