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8.それって絶対計画的犯行ですよね?
ゆっくりでいいですからね
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ソワソワしながらお尻を浮かせたり付けたりを繰り返していたら、織田課長が「何も手伝う必要はありませんからね」とこちらに背中を向けたまま言ってくる。
――ちょっ、何で分かったんですかっ。後ろにも目がついてるみたいでめっちゃ怖いんですけどっ。
思いながら、「で、でもっ」と、尚も言い募ろうとしたら、「来客があって、おもてなしをするのは家主の仕事でしょう?」といなされる。
それで仕方なく浮かしかけた腰をソファにつけておとなしく待ってはいるものの、織田課長が言うと〝ホスト〟が別の意味に聞こえてザワザワするな、とか思ってしまう。
せっかく座り心地のいいソファなのに、背もたれに背を預けて深く座るとかは到底無理で、今にも落っこちそうなくらい浅く浅く腰掛けて両膝の間が開かないよう、斜めに下ろして揃えた足にグッと力を込める。
――ああ、これ、面接の時の椅子の腰掛け方だ。絶対疲れるやつ。
そんなことを思っていたら、珈琲の良い香りがし始めて、ややして「どうぞ」と、ソファ前に置かれたネストテーブルに湯気の燻るコーヒーカップが2つ置かれた。
白っぽい大理石調天板のローテーブルに、違和感なく溶け込む、耐熱ガラス製と思われる、透明なコーヒーカップ。
何これ、何これ! カップまでスタイリッシュとかっ。
可愛い癒し系絵柄で描かれた、パステルタッチのナマケモノイラストのマグカップを愛用している私は、容器が透き通っていると言うだけで落ち着かない。
私がいつもカフェラテばかりを飲んでいるからかな。
私の前に置かれたものには少量の珈琲に、たっぷりのミルクが注がれているようで、かなりのところ白っぽい茶色だった。
逆に、少し離れた位置に置かれた織田課長のものはブラックに見えるので、「おもてなしする」という言葉も満更嘘というわけではなかったのかも知れない。
私のことなんて全然興味がないのかと思いきや、こんな風に結構見られてる?と感じるようなことをされて……それがなんだか凄くくすぐったいの。
「わざわざ気遣っていただいて有難うございます」と前置きしてから、「いただきます」とカップを手に取って、ふと思い出す。
そう言えば、お代わりで買ったアイスカフェラテ、ほとんど飲まずにカフェを出てしまった。
もったいないことをしたな、作ってくれた方に申し訳ないな、という思いで自然眉根が寄ってしまう。
「話しにくいことならゆっくりでいいですからね?」
それを、そう判断したらしい織田課長にそんな風に言われて、私は慌てて首を振った。
「ち、違うんですっ。――そのことはそんなに話しにくいわけじゃなくてっ」
情けなくはあるけれど、織田課長には、陥没乳首という最大の秘密を知られていることを思えば、そんなに大したことじゃない。
――ちょっ、何で分かったんですかっ。後ろにも目がついてるみたいでめっちゃ怖いんですけどっ。
思いながら、「で、でもっ」と、尚も言い募ろうとしたら、「来客があって、おもてなしをするのは家主の仕事でしょう?」といなされる。
それで仕方なく浮かしかけた腰をソファにつけておとなしく待ってはいるものの、織田課長が言うと〝ホスト〟が別の意味に聞こえてザワザワするな、とか思ってしまう。
せっかく座り心地のいいソファなのに、背もたれに背を預けて深く座るとかは到底無理で、今にも落っこちそうなくらい浅く浅く腰掛けて両膝の間が開かないよう、斜めに下ろして揃えた足にグッと力を込める。
――ああ、これ、面接の時の椅子の腰掛け方だ。絶対疲れるやつ。
そんなことを思っていたら、珈琲の良い香りがし始めて、ややして「どうぞ」と、ソファ前に置かれたネストテーブルに湯気の燻るコーヒーカップが2つ置かれた。
白っぽい大理石調天板のローテーブルに、違和感なく溶け込む、耐熱ガラス製と思われる、透明なコーヒーカップ。
何これ、何これ! カップまでスタイリッシュとかっ。
可愛い癒し系絵柄で描かれた、パステルタッチのナマケモノイラストのマグカップを愛用している私は、容器が透き通っていると言うだけで落ち着かない。
私がいつもカフェラテばかりを飲んでいるからかな。
私の前に置かれたものには少量の珈琲に、たっぷりのミルクが注がれているようで、かなりのところ白っぽい茶色だった。
逆に、少し離れた位置に置かれた織田課長のものはブラックに見えるので、「おもてなしする」という言葉も満更嘘というわけではなかったのかも知れない。
私のことなんて全然興味がないのかと思いきや、こんな風に結構見られてる?と感じるようなことをされて……それがなんだか凄くくすぐったいの。
「わざわざ気遣っていただいて有難うございます」と前置きしてから、「いただきます」とカップを手に取って、ふと思い出す。
そう言えば、お代わりで買ったアイスカフェラテ、ほとんど飲まずにカフェを出てしまった。
もったいないことをしたな、作ってくれた方に申し訳ないな、という思いで自然眉根が寄ってしまう。
「話しにくいことならゆっくりでいいですからね?」
それを、そう判断したらしい織田課長にそんな風に言われて、私は慌てて首を振った。
「ち、違うんですっ。――そのことはそんなに話しにくいわけじゃなくてっ」
情けなくはあるけれど、織田課長には、陥没乳首という最大の秘密を知られていることを思えば、そんなに大したことじゃない。
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