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2.通りすがりのハンサムさん
本当に関係ないといいね
しおりを挟む「春凪?」
私とその男の人のやりとりに、横からほたるが怪訝そうに声をかけてきた。けれど、それにも返事が出来ないぐらい私、心臓が壊れそうに早鐘を打っていて。
まさに崖っぷち状態、ド・ストライクの魅力に落っこちる寸前の私に、追い討ちをかけるように彼が言うの。
「何にしても男はキミの元カレみたいなヤツばかりじゃない。そんなくだらない男にフラれたぐらいで自暴自棄になるなんて、もったいないと思いませんか? ――ついでに老婆心承知で言わせてもらいます。これ以上悪酔いして醜態をさらす前に今日は解散したほうがいいんじゃないですか?」
大人の男性だなぁという噛んで含めるような物言いに、私はグッと言葉に詰まる。
だって、いちいちごもっともなんだもん!
でも。
「――あ、貴方には……関係ない、ですっ」
せめてもの抵抗に、と頑張って彼の方を見て、睨みつけるようにしてしどろもどろで何とかそう反論したのだけれど。
その人は私の顔をじっと見つめて薄く微笑むと、「本当に関係ないといいね」と意味深な言葉を残して去っていった。
***
「な、なんだったの、今のっ!」
彼が会計を済ませてバーを出て行ったのを見届けて、私はプシューッと空気が抜けた風船みたいにテーブルに突っ伏しながらそう悪態をつく。
「でも春凪、今の人に一目惚れだったでしょう?」
クスッと笑って問いかけられて、私は「ちょっ、そ、んなことっ」〝ない〟って必死に否定しようとして。
じっと私を見つめてくるほたるの表情を見て、長い付き合いの彼女は何もかもお見通しなんだ、と観念する。
ほぅっと小さく吐息を落としながら、「……あります、落ちました、一目惚れです」とまるで自分に言い聞かせるように陥落宣言をした。
でもだからと言って、私はあの人の名前はおろか、勤め先や住んでいる所を知っているわけではない。
たった1回、たまたまバーで隣席に座っただけの……通りすがりのハンサムさん。
また今日みたいな偶然が起こらない限り、もう2度と会うことはないと思う。
……すごく残念だけど。
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