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勘違い?
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「ねぇ、ブレイズ。いつまで彼女に勘違いさせておくつもり?」
シルバミの微かな笑い声を聞いて、最初パティスはそれを自分に対する嘲りのように感じた。
でも、次いで聞こえてきた溜め息交じりの、子供をあやすような声音に「おや?」と思う。
「……どういう意味だよ?」
そんなシルバミに、掴んでいたパティスの手を放したブレイズが、振り返りざま問い掛ける。
つい今し方まで強い力で掴まれていた腕をふいに開放されたパティスは、無意識にそこをさすった。
痛くはないけれど、薄っすらとブレイズの指の感触が残っていることに気付いたら、手を解かれたことが急に寂しく感じられた。
それで、パティスは思わず彼の姿を求めて顔を上げていた。
「まさか貴方、気付いてないの?」
ブレイズの肩越しに、シルバミの煌ららかな金髪が揺れて見える。
その光に誘われるように思わず彼女の顔を見遣ると、「呆れた……」とつぶやく困り顔があった。
「パティス。こんな男を好きになるなんて貴方、本当に可哀想……」
同情の念を禁じえない、と言った表情でパティスの視線を捉えたシルバミが、当然といった態度でブレイズの横を素通りして、パティスを抱きしめる。
そうしながら耳元で「悪乗りした私も悪かったんだけど……」と小声で付け加える。
「えっ? あ、あの……それってどういう……?」
驚いたのはパティスだ。いきなりこんな展開になるなんて露ほども思っていなかったのだから。
ビックリして彼女の腕の中で身じろぎながら、頭はフル回転でいま囁かれたばかりの意味深な台詞について考える。
「だから……何の話だよ!」
そんな二人を見遣ってブレイズがそう言ったのも無理はなかろう。
「だってそうじゃない。貴方がハッキリ態度に表さないから……彼女、色々思い悩んでこんなに苦しんでるのよ?」
パティスを抱きしめていた腕の力をそっと緩めると、まだ頬に薄っすらと残る涙の軌跡を指で軽くなぞって、シルバミが言う。
泣いてしまったことに気付かれていたというショックより、そんなシルバミの態度の方がパティスには衝撃だった。
「だから、何をだよ!」
シルバミをじっと見上げるような格好で固まってしまったパティスへちらりと視線を投げかけて、ブレイズが問う。
「ホント、貴方ってば呆れるくらい鈍感ね。じゃあ言ってあげる。例えば……貴方が私のところに足繁く通わなくちゃならなくなった理由から話したらどう?」
パティスを庇うようにブレイズとの間に立ちはだかったシルバミの、凛とした声音が響いた。
シルバミの微かな笑い声を聞いて、最初パティスはそれを自分に対する嘲りのように感じた。
でも、次いで聞こえてきた溜め息交じりの、子供をあやすような声音に「おや?」と思う。
「……どういう意味だよ?」
そんなシルバミに、掴んでいたパティスの手を放したブレイズが、振り返りざま問い掛ける。
つい今し方まで強い力で掴まれていた腕をふいに開放されたパティスは、無意識にそこをさすった。
痛くはないけれど、薄っすらとブレイズの指の感触が残っていることに気付いたら、手を解かれたことが急に寂しく感じられた。
それで、パティスは思わず彼の姿を求めて顔を上げていた。
「まさか貴方、気付いてないの?」
ブレイズの肩越しに、シルバミの煌ららかな金髪が揺れて見える。
その光に誘われるように思わず彼女の顔を見遣ると、「呆れた……」とつぶやく困り顔があった。
「パティス。こんな男を好きになるなんて貴方、本当に可哀想……」
同情の念を禁じえない、と言った表情でパティスの視線を捉えたシルバミが、当然といった態度でブレイズの横を素通りして、パティスを抱きしめる。
そうしながら耳元で「悪乗りした私も悪かったんだけど……」と小声で付け加える。
「えっ? あ、あの……それってどういう……?」
驚いたのはパティスだ。いきなりこんな展開になるなんて露ほども思っていなかったのだから。
ビックリして彼女の腕の中で身じろぎながら、頭はフル回転でいま囁かれたばかりの意味深な台詞について考える。
「だから……何の話だよ!」
そんな二人を見遣ってブレイズがそう言ったのも無理はなかろう。
「だってそうじゃない。貴方がハッキリ態度に表さないから……彼女、色々思い悩んでこんなに苦しんでるのよ?」
パティスを抱きしめていた腕の力をそっと緩めると、まだ頬に薄っすらと残る涙の軌跡を指で軽くなぞって、シルバミが言う。
泣いてしまったことに気付かれていたというショックより、そんなシルバミの態度の方がパティスには衝撃だった。
「だから、何をだよ!」
シルバミをじっと見上げるような格好で固まってしまったパティスへちらりと視線を投げかけて、ブレイズが問う。
「ホント、貴方ってば呆れるくらい鈍感ね。じゃあ言ってあげる。例えば……貴方が私のところに足繁く通わなくちゃならなくなった理由から話したらどう?」
パティスを庇うようにブレイズとの間に立ちはだかったシルバミの、凛とした声音が響いた。
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