上 下
26 / 40
勘違い?

-

しおりを挟む
「ねぇ、ブレイズ。いつまで彼女に勘違いさせておくつもり?」

 シルバミの微かな笑い声を聞いて、最初パティスはそれを自分に対するあざけりのように感じた。
 でも、次いで聞こえてきた溜め息交じりの、子供をあやすような声音に「おや?」と思う。

「……どういう意味だよ?」

 そんなシルバミに、掴んでいたパティスの手を放したブレイズが、振り返りざま問い掛ける。

 つい今し方まで強い力で掴まれていた腕をふいに開放されたパティスは、無意識にそこをさすった。

 痛くはないけれど、薄っすらとブレイズの指の感触が残っていることに気付いたら、手を解かれたことが急に寂しく感じられた。

 それで、パティスは思わず彼の姿を求めて顔を上げていた。

「まさか貴方、気付いてないの?」

 ブレイズの肩越しに、シルバミのきらららかな金髪が揺れて見える。

 その光に誘われるように思わず彼女の顔を見遣ると、「呆れた……」とつぶやく困り顔があった。


「パティス。こんな男を好きになるなんて貴方、本当に可哀想……」

 同情の念を禁じえない、と言った表情でパティスの視線をとらえたシルバミが、当然といった態度でブレイズの横を素通りして、パティスを抱きしめる。

 そうしながら耳元で「悪乗りした私も悪かったんだけど……」と小声で付け加える。


「えっ? あ、あの……それってどういう……?」

 驚いたのはパティスだ。いきなりこんな展開になるなんてつゆほども思っていなかったのだから。

 ビックリして彼女の腕の中で身じろぎながら、頭はフル回転でいま囁かれたばかりの意味深いみしんな台詞について考える。

「だから……何の話だよ!」

 そんな二人を見遣ってブレイズがそう言ったのも無理はなかろう。

「だってそうじゃない。貴方がハッキリ態度に表さないから……彼女、色々思い悩んでこんなに苦しんでるのよ?」

 パティスを抱きしめていた腕の力をそっと緩めると、まだ頬に薄っすらと残る涙の軌跡を指で軽くなぞって、シルバミが言う。
 泣いてしまったことに気付かれていたというショックより、そんなシルバミの態度の方がパティスには衝撃だった。

「だから、何をだよ!」

 シルバミをじっと見上げるような格好で固まってしまったパティスへちらりと視線を投げかけて、ブレイズが問う。

「ホント、貴方ってば呆れるくらい鈍感ね。じゃあ言ってあげる。例えば……貴方が私のところに足繁あししげく通わなくちゃならなくなった理由から話したらどう?」

 パティスをかばうようにブレイズとの間に立ちはだかったシルバミの、凛とした声音が響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで

みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める 婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様 私を愛してくれる人の為にももう自由になります

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

処理中です...