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三日間
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「え? あ、あのっ……」
いきなり上に圧し掛かるようにベッドへ押しつけられて、パティスは頬が一気に紅潮するのを感じた。
寝そべった折に、ブレイズの前髪がパティスの鼻先をくすぐって……それだけでパティスの身体は硬直する。
(この距離と、この体勢は心臓に悪すぎよーっ!)
そんなことを思い、一人ドキドキするパティスとは裏腹に、ブレイズは思いの外アッサリと彼女の上から身体を離した。
「急に起き上がったりするな。お前、三日も寝込んでたんだからな?」
しかし、さして間を空けずに告げられたその言葉を吟味すれば、ブレイズが自分の身を案じてくれていただけだと分かる。
そう、迂闊にもシチュエーションだけでときめいてしまったけれど、今の行動はこれといって他意はないものだったのだ。
「……ご、ごめんなさい」
とりあえず謝罪の言葉を口に載せてから、改めてブレイズの言葉を頭の中で反芻してみてハッとする。
「あの、今、三日も……って」
言わなかった? そう続けようとしたら、呆れ顔で睨まれた。
「そーだよ! 三日も寝込んでたんだよ、お前は!」
体調が悪いくせにウロウロするからだ、とか何とか言い募るブレイズに、パティスは至極当然の疑問を投げかける。
「でも……あの、どうして私が倒れたって分かったの?」
倒れたのが野原で、だとすれば、あの時ブレイズは傍に居なかった。なのにどうして?
そう、問いかければ
「ナスターが一緒だっただろ」
いちいち聞くな、と言いたげな口調でブレイズが返す。
「ナスター……?」
説明されても今一ピンと来ないのは、熱のせいかしら?
ぼんやりとそんなことを思いながら熱に潤んだ瞳でブレイズを見詰めたら、途端そっぽを向かれてしまった。
まるで自分と視線を合わせないための格好の小道具を見つけたかのような雰囲気で足元に落ちたタオルを拾い上げると、ブレイズはベッド近くのテーブルに向かった。
テーブル上には、パティスが毎朝洗顔に愛用している陶器の洗面器が置かれていた。
そこへかめの中から新鮮な水を移すと、その中にタオルを浸しながらブレイズが言う。
「忘れたのか。ナスターは使い魔だ」
パティスの方に背中を向けた状態のままタオルを絞り終え、
「余計なことは気にせず寝とけ」
額に今、綺麗にしたばかりのタオルを載せて、突き放すような口調で会話に終止符を打つ。
そんなブレイズを見上げるようにしてナスターが尻尾を振っているのが布団越しにちらりと見えた。
ブレイズに自分の危機を知らせてくれたのがナスターなんだとすれば、お礼を言わなきゃ。そう思って身体を起こしかけたら、その気配を察知したブレイズに睨まれる。
「ほら、目、つぶれ」
その視線に、仕方なく枕に頭を埋めると、
「頼むから心配かけてくれるな」
頬を撫でながら、聞き取れるか聞き取れないかの声量で、そうささやかれた。
いきなり上に圧し掛かるようにベッドへ押しつけられて、パティスは頬が一気に紅潮するのを感じた。
寝そべった折に、ブレイズの前髪がパティスの鼻先をくすぐって……それだけでパティスの身体は硬直する。
(この距離と、この体勢は心臓に悪すぎよーっ!)
そんなことを思い、一人ドキドキするパティスとは裏腹に、ブレイズは思いの外アッサリと彼女の上から身体を離した。
「急に起き上がったりするな。お前、三日も寝込んでたんだからな?」
しかし、さして間を空けずに告げられたその言葉を吟味すれば、ブレイズが自分の身を案じてくれていただけだと分かる。
そう、迂闊にもシチュエーションだけでときめいてしまったけれど、今の行動はこれといって他意はないものだったのだ。
「……ご、ごめんなさい」
とりあえず謝罪の言葉を口に載せてから、改めてブレイズの言葉を頭の中で反芻してみてハッとする。
「あの、今、三日も……って」
言わなかった? そう続けようとしたら、呆れ顔で睨まれた。
「そーだよ! 三日も寝込んでたんだよ、お前は!」
体調が悪いくせにウロウロするからだ、とか何とか言い募るブレイズに、パティスは至極当然の疑問を投げかける。
「でも……あの、どうして私が倒れたって分かったの?」
倒れたのが野原で、だとすれば、あの時ブレイズは傍に居なかった。なのにどうして?
そう、問いかければ
「ナスターが一緒だっただろ」
いちいち聞くな、と言いたげな口調でブレイズが返す。
「ナスター……?」
説明されても今一ピンと来ないのは、熱のせいかしら?
ぼんやりとそんなことを思いながら熱に潤んだ瞳でブレイズを見詰めたら、途端そっぽを向かれてしまった。
まるで自分と視線を合わせないための格好の小道具を見つけたかのような雰囲気で足元に落ちたタオルを拾い上げると、ブレイズはベッド近くのテーブルに向かった。
テーブル上には、パティスが毎朝洗顔に愛用している陶器の洗面器が置かれていた。
そこへかめの中から新鮮な水を移すと、その中にタオルを浸しながらブレイズが言う。
「忘れたのか。ナスターは使い魔だ」
パティスの方に背中を向けた状態のままタオルを絞り終え、
「余計なことは気にせず寝とけ」
額に今、綺麗にしたばかりのタオルを載せて、突き放すような口調で会話に終止符を打つ。
そんなブレイズを見上げるようにしてナスターが尻尾を振っているのが布団越しにちらりと見えた。
ブレイズに自分の危機を知らせてくれたのがナスターなんだとすれば、お礼を言わなきゃ。そう思って身体を起こしかけたら、その気配を察知したブレイズに睨まれる。
「ほら、目、つぶれ」
その視線に、仕方なく枕に頭を埋めると、
「頼むから心配かけてくれるな」
頬を撫でながら、聞き取れるか聞き取れないかの声量で、そうささやかれた。
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