上 下
54 / 55
19.打算的なこたえ/written by 鷹槻れん

3

しおりを挟む
 私は助けを求めるようにえっちゃんを見て。えっちゃんに困ったような顔でフイッと視線を逸らされて、ギュッと胸の奥が苦しくなる。

 小さい頃からずっとずっと大好きだったりゅうちゃんの好きな人は男の人で、せっかく大学で仲良くなったお友達ともこんな形でギクシャクしちゃうなんて!

 私、なんでこんなに何もかもうまくいかないんだろう?

 もう、疲れちゃった……。
 いっそのこと、誰でもいいから寄りかかってしまいたい。
 柚弦ゆづるくんはそんな私でも……いい?

 こんな打算的な気持ちで柚弦くんにOKを出すのは卑怯だよね。
 でも。
 みんなの前でごめんなさいって断るよりはいいんじゃないかな。

 私は小さな身体に乗っかった、ちっぽけな脳みそで一生懸命最善策を模索して。

 そうして、決めた――。


「お願い、します」

 途端、柚弦くんに再度ギュッと抱きしめられて、すぐ耳元で「あぁ……本当に……? 萌々ももちゃん、ありがとう……!」って、とっても嬉しそうにつぶやかれた。

 楓馬ふうまくんに、「おめでとう」って声をかけられながら、私はぼんやりと視線の端にえっちゃんの姿を探す。

「ゆ、づる、くん……」

 ややしてポツン、と。えっちゃんが柚弦ゆづるくんの名前を呼んで。
 柚弦くんが私を腕の中に抱きしめたまま、首だけをえっちゃんの方へ向ける気配がした。
 私はそんな2人を見上げて、何も言えなくて小さく息を呑む。

「あなたが好きなのって、本当に萌々ももちゃん、なの?」

 探るように落とされた言葉に、柚弦くんがしっかりとうなずいて。

「うん……そうなんだ。実は僕、高校の時からずっと萌々ちゃんしか見てなくて。……でも、ごめんね。最初からそうはっきり伝えるべきだった」

 ――他に女の子は一人しかいないから、あれだけでも十分伝わると思ってて……。

 どこか申し訳なさそうに、けれども私の肩を抱く手にしっかりと力を込めて、柚弦くんがえっちゃんを見つめた。

「そ、だよ、ね。私、柚弦くんからちゃんと聞かされてた、もんね」

 えっちゃんが、柚弦くんの言葉を受けて、まるで自分に言い聞かせるみたいにそう言って。

 それから私と柚弦ゆづるくんをじっと見つめてから、かしこまったみたいに背筋を伸ばして言うの。

「おめでとう、柚弦くん、萌々ももちゃん。私、ちゃんと2人を応援する……から」

 今にも泣きそうな顔でそんな風に言われたら私っ。

「えっちゃ……」
 言いながら柚弦くんの腕を振りほどいてえっちゃんに手を伸ばそうとしたら、それより先に楓馬ふうまくんが動いた。


「きょ、今日はもう! ここで解散にしない? 俺、えっちゃんを送っていくから……。柚弦は萌々ちゃんと、な?」

 言うなり呆然と立ち尽くしたままのえっちゃんの手を引いて、楓馬くんがズンズン歩き出してしまう。

 私は伸ばしかけた手をギュッと握って、そんな2人を見送って。


 2人の姿が夜の闇にぼんやり霞んで見えなくなった頃、すぐ頭上から柚弦くんの声がかかった。

「ねぇ萌々ちゃん、もう少しだけ。――君の時間、もらってもいい?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

ヤンデレ男に拐われ孕まセックスされるビッチ女の話

イセヤ レキ
恋愛
※こちらは18禁の作品です※ 箸休め作品です。 表題の通り、基本的にストーリーなし、エロしかありません。 全編に渡り淫語だらけです、綺麗なエロをご希望の方はUターンして下さい。 地雷要素多めです、ご注意下さい。 快楽堕ちエンドの為、ハピエンで括ってます。 ※性的虐待の匂わせ描写あります。 ※清廉潔白な人物は皆無です。 汚喘ぎ/♡喘ぎ/監禁/凌辱/アナル/クンニ/放尿/飲尿/クリピアス/ビッチ/ローター/緊縛/手錠/快楽堕ち

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

処理中です...