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10.成り行きとはいえ/written by 市瀬雪
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【side:如月隆之介】
今日も今日とて酒が入っているので、移動は電車。最寄りの駅から実家まで欠伸をしながら歩き、何も考えず実家の扉を開けたら、玄関に兄貴の靴があって――。
げっ、と思った俺は、ワンピースのベルトだけとって、そそくさを家を後にした。
(つか、何でいるんだよ……)
いつもなら仕事の日に違いないはずなのに。
兄貴の勤務先は年末年始を覗いて年中無休だが、兄貴の休みは定休だった。実際、今までだってその日を避けて帰省していれば、顔を合わせることはなかったのだ。
そのせいで、最近ではいちいち母親への確認もしなくなっていた。それが仇となった。
「いつになったらうちで働く気になるんだ?」
早く家を出ようと、急くように靴を履いていたとき、背後から声がした。
俺は振り返らずに、「今んとこその気はねぇなぁ」とだけ答えた。
「相変わらず親不孝なヤツだな」
リビングの入り口に身体を凭れかけさせ、口端を僅かに引き上げているさまが目に浮かぶ。
俺は振り返らないまま、
「親孝行は兄貴に任せるよ」
とだけ残して、家を出た。
***
何気なく視線を巡らせた先には、駅前のスーパー。その出入り口から、よろよろと出てきた小柄な女の姿を目に留め、俺は小さく瞬いた。
(萌々……?)
……つーか、どう見ても買いすぎじゃね? あいつ自分のキャパってもんを知らねぇの?
第一声でそうツッコミたくなるほどの荷物を抱えていた萌々は、早々にきつそうな顔をしながらも、そのまま家の方へと歩き出そうとしているところだった。
俺は自分の荷物に目を移し、それが背中に回したボディバッグと、片手に提げていた小さな紙袋だけなのを確認すると、溜息をつきながら彼女の元へと足を向けた。
「なんだ、今夜は肉じゃがか?」
肉じゃがなんて久しく食ってねぇな。
思いながら声をかけると、萌々が弾かれたように背筋を伸ばした。
そのどこか挙動不審な様子に、俺はふと先日行ったレストランでのことを思い出す。
今日も今日とて酒が入っているので、移動は電車。最寄りの駅から実家まで欠伸をしながら歩き、何も考えず実家の扉を開けたら、玄関に兄貴の靴があって――。
げっ、と思った俺は、ワンピースのベルトだけとって、そそくさを家を後にした。
(つか、何でいるんだよ……)
いつもなら仕事の日に違いないはずなのに。
兄貴の勤務先は年末年始を覗いて年中無休だが、兄貴の休みは定休だった。実際、今までだってその日を避けて帰省していれば、顔を合わせることはなかったのだ。
そのせいで、最近ではいちいち母親への確認もしなくなっていた。それが仇となった。
「いつになったらうちで働く気になるんだ?」
早く家を出ようと、急くように靴を履いていたとき、背後から声がした。
俺は振り返らずに、「今んとこその気はねぇなぁ」とだけ答えた。
「相変わらず親不孝なヤツだな」
リビングの入り口に身体を凭れかけさせ、口端を僅かに引き上げているさまが目に浮かぶ。
俺は振り返らないまま、
「親孝行は兄貴に任せるよ」
とだけ残して、家を出た。
***
何気なく視線を巡らせた先には、駅前のスーパー。その出入り口から、よろよろと出てきた小柄な女の姿を目に留め、俺は小さく瞬いた。
(萌々……?)
……つーか、どう見ても買いすぎじゃね? あいつ自分のキャパってもんを知らねぇの?
第一声でそうツッコミたくなるほどの荷物を抱えていた萌々は、早々にきつそうな顔をしながらも、そのまま家の方へと歩き出そうとしているところだった。
俺は自分の荷物に目を移し、それが背中に回したボディバッグと、片手に提げていた小さな紙袋だけなのを確認すると、溜息をつきながら彼女の元へと足を向けた。
「なんだ、今夜は肉じゃがか?」
肉じゃがなんて久しく食ってねぇな。
思いながら声をかけると、萌々が弾かれたように背筋を伸ばした。
そのどこか挙動不審な様子に、俺はふと先日行ったレストランでのことを思い出す。
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