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03.満員電車/written by 鷹槻れん

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「あ、あの……」

 さっきより格段にパーソナルスペースが確保できた気がして。それは裏を返せば久遠寺くおんじくんが私のために頑張って空間を作ってくれているからに他ならないわけで。

 さ、さすがにこれは久遠寺くんに申し訳ない!

 私みたいな女子力皆無なウリ坊のために、女子達みんなの憧れの的な王子様に身体を張っていただくとか!

「ごめんね。迷惑かもしれないけど、僕ももうこれ以上動けなくて。少しだけ我慢してくれる?」

 少し屈むようにして私の耳もとに唇を近づけると、久遠寺くんが申し訳なさそうにそう言ってきて。
 見た目同様柔らかくて……その実しっかり男性なんだと思わせられる優しい声音が耳朶を打つ。

 いやいやいや!
 違うの、違うの!
 私が慌てちゃってるのはそういうことではなく!

「わ、ワタシのホーこそっ、こンなっ。ギャクに申し訳な、いねっス」

 間近に感じる久遠寺くんは、さすがにみんながキャーキャー言うだけあって、物凄く素敵で。

 気がつけば、私、自分でも何を言ってるの?って思うようなカタコトでしどろもどろな日本語で応対してしまっていた。本当、アナタ、外国の方ですか?状態。

 そもそも「申し訳ないねっす」って何! 「申し訳ないです」って言いたかったのに。

 と、直ぐ近くからクスクスと微かな笑い声が聞こえてきて、私は恐る恐る声の主――久遠寺くんを見上げた。

 久遠寺くおんじくん、りゅうちゃんほど長身ではないけれど、175cmはあるって本人から聞いたことがある。

 というのも、実は私たち、大学の同期でもあるけれど、実際の付き合いは高校生の頃からだから――。

 彼の身長は高1の学祭の時、その見た目の通り王子様役だった彼の衣装作りのため、採寸をした際に聞いたの。
 あ、ちなみにそのとき、私は裏方で……衣装係。

 今はもう少し高いかもしれないけど、こうして近くに立った感じからすると、隆ちゃんよりは小さく感じられるから……180cmはないかな?って思う。

「相変わらずだね、春川さん。……可愛い」

 そんな言葉とともにくすりと微笑まれて。私は満員電車の中だというのに久遠寺くんの周りにお花畑を垣間見たの。

 さすが王子様!

 隆ちゃんからは絶対に引き出せないような言葉をこんな状況――ぎゅうぎゅうの満員電車内――でサラリと爽やかに言えてしまうんだもの。

 でもね、王子様の「可愛い」は真に受けたら痛い目を見るやつだから、私、あえてそこには反応しない。
 多分だけどね、「面白い」の王子的変換なんだよ、これ。

「久遠寺くんに笑ってもらえて光栄です」

 小さくポツンとつぶやいたら、「うん」って、にっこり笑顔であっさり肯定された。

 ん?
 ちょっと待って?
 うん!?
 知らないだけで私、そんなに彼に笑われてしまってるの!?

 気がついたら私、じっと久遠寺くんの顔をみつめてしまっていた。
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