【完結】【R18】あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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47.采配

勝手な言い分

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「それでね、倍相ばいしょうくん。次はキミの番だ」

 恋人の一大事に腰を浮かせかけた屋久蓑やくみの大葉たいようを手と視線だけで制すると、土井恵介が今度は岳斗がくとをひたと見据えてくる。


 荒木あらき羽理うりのことに関しては自分も言いたいことは山ほどあったけれど、甥っ子の大葉たいようですら反論させてもらえなかったのだ。自分に何か言えるとは思えなくて……。だけどやっぱり荒木さんの直属の上司は自分だと思い直した岳斗である。

「あの……こちらを去る身で口出しするのはどうかとも思ったんですが、さすがにこれは財務経理課を預かってきた者として言わせてください。僕が居なくなる予定なのに、荒木さんまで……というのはどう考えても無謀です。もちろん法忍ほうにんさんも優秀な部下ですが、一人だけで回せるほどうちの課は処理量が少ないわけではありませんよ?」

 岳斗がそう言った途端、土井恵介がニヤリと笑った……ように見えた。

「まぁ、倍相ばいしょうくん。そう熱くならなくてもよくないかな?」

 実際にはさして表情を変えないまま、のほほんといった調子で岳斗をなだめると、土井社長がおもむろにスーツのふところへ手を入れて、白いものを取り出した。


「――で、ここからが本題。先日屋久蓑やくみの部長から預かった、キミのなんだけどね」

 社長からスッと机上に差し出された封書を見て、岳斗がくとは思わず動きを止めた。

「あの……」

「うん、キミの退職願だね」

 言われなくても封筒の表にそう書かれているのが岳斗にだって見える。というより岳斗自身が書いたものなのだから、今更そんな説明は必要ないだろう。

「実は僕はこれ、まだ中を見てないんだ」

 言って、土井社長が置いたばかりの封書を手に取ると、岳斗の目の前でビリリッと真っ二つに破り割いてしまう。

「あ、あのっ」

 何が何だか分からなくて思わず岳斗が手を伸ばしたと同時、土井恵介が今度こそニヤリと笑って言うのだ。

「で、今見てもらったように、僕はこれを受理するつもりはないから。倍相ばいしょうくんはこのままうちの財務経理課長でいて?」

 なんて勝手な言い分だろう。
 いくら社長でも社員の意向を無視し過ぎではないか。

 そう思った岳斗は、スッと表情を消すと感情を感じさせない目で土井恵介を見詰めた。

「そんなことをされても僕がここを去る意思に変わりはありません」

「どうして? キミはさっきも言ってくれたみたいにうちの財務経理課のことを誰よりも気に掛けてくれているのに……」

「それとこれとは話が別です」

「一緒だと思うんだけどな?」

「話になりませんね」

「そうかな? 例えば……なんだけど。美住みすみ杏子あんずさんをうちの財務経理課に引き抜くって言っても、同じことが言える?」
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