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46.トレード
まだ早いです
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倍相課長が自分と同じように婚外子だったことにも驚かされた羽理だったけれど、彼の話は例え片親とはいえ実の母から愛されてここまで立派に育て上げてもらった自分とは比べものにならないくらい大変なものだったのだと思い知らされた。
結局のところ倍相課長は、決死の覚悟で決別した実の父親に再度絡め取られることを選択してでも、美住さんを守ろうとしたのだと知った羽理は、ポロポロと涙を落とした。
「法忍さんには一身上の都合で土恵を辞めなきゃいけなくなったとしか話してないんだ。だから申し訳ないんだけどこのことは荒木さんと大葉さんと僕だけの秘密にしてもらえると嬉しいなって思うんだけど……いいかな?」
ポケットティッシュを差し出しながら、問い掛けてきた倍相課長に、羽理は「大葉も……倍相か、ちょ、の生い立ちのこととか、知ってる、んですか?」と聞いていた。
「うん、大葉さんとはこうなる前に色々あって僕のバックボーンを話さなきゃいけなかったんだ。だから今回の退職についても大葉さんだけはいま荒木さんに話したのと同じ内容を把握してくれてる」
その答えに、羽理はちょっとだけホッとしたのだ。
倍相課長から聞かされた内容は一人で抱えるには重過ぎて。でも仁子には話せないと知ってしんどかったから。
話す話さないは別にしても、同じ情報を大葉と共有できていると思えるだけで心が随分と救われた。
その上で思ったのだ。
(ここまでしたのだから、倍相課長の恋も自分たちみたいに報われて欲しいな)
と。
そこでふとあることを思い出した羽理は、
「ちょっと待っていてください」
そう言い置いて、自席へ駆け戻った。
「羽理?」
目を真っ赤にした仁子に一度だけコクッと頷いてみせると、羽理はカバンの中から財布を乱暴に取り出した。
それを手に会議室へ戻るなり、「荒木さん?」と小首を傾げる倍相課長の前で、ゴソゴソと財布に取り付けられた飾りを外す。
「倍相課長……あの、これ……」
そうして差し出した羽理の手には、つい先日大葉から返してもらってペアになったばかりの居間猫神社の縁結びのお守りが乗っかっていた。
***
「勝手にごめんなさい」
大葉の顔を見るなりガバッと頭を下げて、倍相課長へ二人の仲を取り持ってくれたお守りをあげたのだと話した羽理に、大葉はどこか納得がいったように「あー、それでか」とつぶやいた。
「大葉?」
もしやあのお守りを手放したことで早くも何か災いが!? とソワソワした羽理に、大葉がどこか照れくさそうに猫のキーホルダーを差し出した。
「あの、これ……」
もしやいきなり渡されてつい受け取ってしまったものの、実は迷惑で。でも羽理に直接返せなかった倍相課長が、大葉へお守りを差し戻してきたのかと思った羽理だったのだけれど……。
よく見ると、慣れ親しんだものとはちょっぴりデザインが違っていた。
「岳斗から渡された。お前から縁結びのお守りをもらったから、代わりにコレを俺らにって」
どうやらお守りのトレードを提案されたらしい。
何故かギュッと握ったままそのお守りを手放してくれない大葉に、「あの……?」と小首を傾げたら、「えっと、これ、岳斗たちにはまだ早かったらしくてな。それで……、その、俺たちにってことだったんだが……」と、どこか煮え切らない。
「どういう意味ですか? 見せてくれなきゃ分かんないです」
言って、羽理が大葉からそのお守りを取り上げたら、夢中になるあまり、大葉を押し倒してしまっていた。
だが、今はそんなことどうだっていいと思ってしまった羽理は、大葉の上へ馬乗りになったまま、やっとのことで大葉の手から奪い取ったお守りへと視線を落として――。
「え? 何これ……。子宝……祈願?」
書かれた文字を読んだ羽理は、自分が組み敷く形になった大葉を見下ろして真っ赤になる。
「俺はいつでも構わないぞ?」
下から大葉にグッと腰を抱えられて、羽理は「私達にもまだ早いです~!」と叫んでいた。
結局のところ倍相課長は、決死の覚悟で決別した実の父親に再度絡め取られることを選択してでも、美住さんを守ろうとしたのだと知った羽理は、ポロポロと涙を落とした。
「法忍さんには一身上の都合で土恵を辞めなきゃいけなくなったとしか話してないんだ。だから申し訳ないんだけどこのことは荒木さんと大葉さんと僕だけの秘密にしてもらえると嬉しいなって思うんだけど……いいかな?」
ポケットティッシュを差し出しながら、問い掛けてきた倍相課長に、羽理は「大葉も……倍相か、ちょ、の生い立ちのこととか、知ってる、んですか?」と聞いていた。
「うん、大葉さんとはこうなる前に色々あって僕のバックボーンを話さなきゃいけなかったんだ。だから今回の退職についても大葉さんだけはいま荒木さんに話したのと同じ内容を把握してくれてる」
その答えに、羽理はちょっとだけホッとしたのだ。
倍相課長から聞かされた内容は一人で抱えるには重過ぎて。でも仁子には話せないと知ってしんどかったから。
話す話さないは別にしても、同じ情報を大葉と共有できていると思えるだけで心が随分と救われた。
その上で思ったのだ。
(ここまでしたのだから、倍相課長の恋も自分たちみたいに報われて欲しいな)
と。
そこでふとあることを思い出した羽理は、
「ちょっと待っていてください」
そう言い置いて、自席へ駆け戻った。
「羽理?」
目を真っ赤にした仁子に一度だけコクッと頷いてみせると、羽理はカバンの中から財布を乱暴に取り出した。
それを手に会議室へ戻るなり、「荒木さん?」と小首を傾げる倍相課長の前で、ゴソゴソと財布に取り付けられた飾りを外す。
「倍相課長……あの、これ……」
そうして差し出した羽理の手には、つい先日大葉から返してもらってペアになったばかりの居間猫神社の縁結びのお守りが乗っかっていた。
***
「勝手にごめんなさい」
大葉の顔を見るなりガバッと頭を下げて、倍相課長へ二人の仲を取り持ってくれたお守りをあげたのだと話した羽理に、大葉はどこか納得がいったように「あー、それでか」とつぶやいた。
「大葉?」
もしやあのお守りを手放したことで早くも何か災いが!? とソワソワした羽理に、大葉がどこか照れくさそうに猫のキーホルダーを差し出した。
「あの、これ……」
もしやいきなり渡されてつい受け取ってしまったものの、実は迷惑で。でも羽理に直接返せなかった倍相課長が、大葉へお守りを差し戻してきたのかと思った羽理だったのだけれど……。
よく見ると、慣れ親しんだものとはちょっぴりデザインが違っていた。
「岳斗から渡された。お前から縁結びのお守りをもらったから、代わりにコレを俺らにって」
どうやらお守りのトレードを提案されたらしい。
何故かギュッと握ったままそのお守りを手放してくれない大葉に、「あの……?」と小首を傾げたら、「えっと、これ、岳斗たちにはまだ早かったらしくてな。それで……、その、俺たちにってことだったんだが……」と、どこか煮え切らない。
「どういう意味ですか? 見せてくれなきゃ分かんないです」
言って、羽理が大葉からそのお守りを取り上げたら、夢中になるあまり、大葉を押し倒してしまっていた。
だが、今はそんなことどうだっていいと思ってしまった羽理は、大葉の上へ馬乗りになったまま、やっとのことで大葉の手から奪い取ったお守りへと視線を落として――。
「え? 何これ……。子宝……祈願?」
書かれた文字を読んだ羽理は、自分が組み敷く形になった大葉を見下ろして真っ赤になる。
「俺はいつでも構わないぞ?」
下から大葉にグッと腰を抱えられて、羽理は「私達にもまだ早いです~!」と叫んでいた。
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