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44.人事異動
役職なんて関係ない
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だが実際にはあれから本日にいたるまでの数日間は、最低限の引き継ぎを大葉にして、『あとのことはよろしくお願いします』と託すための期間だった。
羽理には申し訳ない形での告白になってしまったけれども、ある意味これ以外のタイミングを大葉は思いつけなかったのだ。
羽理の様子を見て、本当に岳斗がいなくなることを気付いていなかったんだなと思った大葉は、だからこそ、と拳を握りしめた。
***
「それで社長」
わざわざ〝伯父さん〟ではなく〝社長〟と呼び掛けたのには大葉なりの理由がある。
そう呼んだだけで恵介伯父が一瞬で〝土恵商事の社長〟の顔になるからだ。それを確認して、大葉は一度ふぅっと息を吐き出すと、口を開いた。
「倍相課長が不在になると財務経理課には大きな穴があきます。その状態で、俺は副社長に就任することはできません」
「大、葉?」
不意に大葉からギュッと手を握られた羽理は、すぐそばで真っすぐ土井恵介を見据える大葉の横顔を見詰めた。
「それはどういう意味かな?」
「財務経理課に新しい課長が着任するまで、俺にその役目を任せて頂きたいのです」
新しい財務経理課長を内部から選出するにせよ、外部から連れてくるにせよ、すぐのことにはならないだろう。大葉は、その隙間を自分に埋めさせて欲しいと申し出たのだ。
「けどそれじゃあ」
「副社長はもともと土恵にはないポストです。そこを埋めることにこだわって、日々の業務が滞る方が問題ありだと思いませんか?」
大葉の言葉に、倍相課長と屋久蓑部長を一気に失うと思っていた羽理は(もしかして大葉とはまだ一緒のフロアにいられる?)と思ってつい社長を凝視する目に懇願の色を滲ませてしまう。
「荒木さん、キミもたいちゃ……屋久蓑部長がもうしばらくは総務部長でいてくれる方がいいの? 副社長夫人の方が良くない?」
その視線を汲まれたんだろう。突然土井社長から矛先を向けられた羽理は、一瞬ビクッと身体を震わせて……すぐ横の大葉を見遣った。すぐさま大葉から大丈夫という風にうなずかれた羽理は「私は大葉のお嫁さんになりたいんです! 彼の役職なんて関係ありません!」と、ハッキリ意思表示をした。
羽理には申し訳ない形での告白になってしまったけれども、ある意味これ以外のタイミングを大葉は思いつけなかったのだ。
羽理の様子を見て、本当に岳斗がいなくなることを気付いていなかったんだなと思った大葉は、だからこそ、と拳を握りしめた。
***
「それで社長」
わざわざ〝伯父さん〟ではなく〝社長〟と呼び掛けたのには大葉なりの理由がある。
そう呼んだだけで恵介伯父が一瞬で〝土恵商事の社長〟の顔になるからだ。それを確認して、大葉は一度ふぅっと息を吐き出すと、口を開いた。
「倍相課長が不在になると財務経理課には大きな穴があきます。その状態で、俺は副社長に就任することはできません」
「大、葉?」
不意に大葉からギュッと手を握られた羽理は、すぐそばで真っすぐ土井恵介を見据える大葉の横顔を見詰めた。
「それはどういう意味かな?」
「財務経理課に新しい課長が着任するまで、俺にその役目を任せて頂きたいのです」
新しい財務経理課長を内部から選出するにせよ、外部から連れてくるにせよ、すぐのことにはならないだろう。大葉は、その隙間を自分に埋めさせて欲しいと申し出たのだ。
「けどそれじゃあ」
「副社長はもともと土恵にはないポストです。そこを埋めることにこだわって、日々の業務が滞る方が問題ありだと思いませんか?」
大葉の言葉に、倍相課長と屋久蓑部長を一気に失うと思っていた羽理は(もしかして大葉とはまだ一緒のフロアにいられる?)と思ってつい社長を凝視する目に懇願の色を滲ませてしまう。
「荒木さん、キミもたいちゃ……屋久蓑部長がもうしばらくは総務部長でいてくれる方がいいの? 副社長夫人の方が良くない?」
その視線を汲まれたんだろう。突然土井社長から矛先を向けられた羽理は、一瞬ビクッと身体を震わせて……すぐ横の大葉を見遣った。すぐさま大葉から大丈夫という風にうなずかれた羽理は「私は大葉のお嫁さんになりたいんです! 彼の役職なんて関係ありません!」と、ハッキリ意思表示をした。
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