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42.みんなまとめて地獄へ送ってあげる
自分で認めちゃってますよ?
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その様子がさらに安井やその取り巻き、そうして「いい加減にしないと警備員を呼びますよ!」と岳斗へ決死の脅しをかけている中村経理課長、果ては取り巻きに呼び寄せられて仕方なく愛想笑いを浮かべて「亜矢奈、どうしたの?」と恋人を気遣うふりをしながらこちらへ近付いてきた笹尾にストレスを与えることは計算づくだ。
岳斗はそんな面々を春風駘蕩たる悪意を感じさせない視線で見詰めると、唇に手を当てて〝静かに〟とジェスチャーで周囲のざわめきを鎮めてから、おもむろに再生ボタンを押す。
***
【あれさぁ、亜矢奈が来なかったら怪我させられたのをネタに美住さんのこと、落とせてた気がするんだよね、俺】
岳斗が手にしたスマートフォンから、フロア内に大音量でそんな音声が流れ始めて、笹尾が目をこぼれ落ちんばかりに見開いたのが分かった。
岳斗はその変化にわざと気付かないふりをして再生を続ける。
【笹尾さん、悪い男っすねー。正直階段から落ちたのだって実はデモンストレーションだったんじゃないっすか?】
笹尾、とハッキリ名前が出たことで、前のセリフが笹尾のものだと特定されたのを察知した人間たちが「え? 笹尾さん、美住さんに言い寄られたって言ってたけど……違うの?」とか「もしかして階段から落ちたっていうのも自作自演?」と囁き合う声が聞え始める。
「お、おい、お前! こんな盗み録り、いつの間にしたんだよ! 卑怯にも程があんだろ!」
周りのざわめきに顔を真っ赤にして岳斗へにじり寄ってきた笹尾の手が、岳斗の手にしたスマートフォンへと伸びてくる。それをパシッと叩き落とす形で躱すと、岳斗は勢い余ってよろめいた笹尾の腕を掴んで自分の方へ引き寄せると、笹尾の耳元……彼にだけ聞える声音で囁いた。
「ササオさん、自分で〝盗み録り〟って認めちゃってますよ? いま気が立ってらっしゃるみたいですし、冷静じゃない状態で下手な騒ぎ方をすると、罪を次々と肯定することになりかねません。ほら、みんなが見てますよ? 言動には気を付けて?」
楽しげにクスクス笑う岳斗の手元で、再生は現在進行形でなおも続いている。
【あんな上の方から落っこちてほとんど怪我してないって……落ち方うますぎっしょ。怪し過ぎますって】
志波のクスクス笑う声に続くように、【いや、俺だって全く無傷ってわけじゃねぇぞ?】と笹尾が言い訳する声がして、【それだってみんなに騒がれたから怪しまれないよう怪我したってことにしただけで……実際は痛くもなんともないんでしょう?】と笹尾を揶揄う声が聞えてくる。
そこに至る頃には、周りから「笹尾さん、最低」とか、「美住さん、完全に被害者じゃん」という声が聞こえ始めていて。
岳斗の背後で杏子が息を呑む気配がする。きっと、こんな風に自分の無実が証明されるだなんて思っていなくて、頭が現状についていけていないんだろう。
所在なげに胸前でギュッと握られたままの杏子の手が震えているのに気が付いた岳斗は、思わず彼女の手をあいている方の手でそっと包み込んだ。
岳斗はそんな面々を春風駘蕩たる悪意を感じさせない視線で見詰めると、唇に手を当てて〝静かに〟とジェスチャーで周囲のざわめきを鎮めてから、おもむろに再生ボタンを押す。
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【あれさぁ、亜矢奈が来なかったら怪我させられたのをネタに美住さんのこと、落とせてた気がするんだよね、俺】
岳斗が手にしたスマートフォンから、フロア内に大音量でそんな音声が流れ始めて、笹尾が目をこぼれ落ちんばかりに見開いたのが分かった。
岳斗はその変化にわざと気付かないふりをして再生を続ける。
【笹尾さん、悪い男っすねー。正直階段から落ちたのだって実はデモンストレーションだったんじゃないっすか?】
笹尾、とハッキリ名前が出たことで、前のセリフが笹尾のものだと特定されたのを察知した人間たちが「え? 笹尾さん、美住さんに言い寄られたって言ってたけど……違うの?」とか「もしかして階段から落ちたっていうのも自作自演?」と囁き合う声が聞え始める。
「お、おい、お前! こんな盗み録り、いつの間にしたんだよ! 卑怯にも程があんだろ!」
周りのざわめきに顔を真っ赤にして岳斗へにじり寄ってきた笹尾の手が、岳斗の手にしたスマートフォンへと伸びてくる。それをパシッと叩き落とす形で躱すと、岳斗は勢い余ってよろめいた笹尾の腕を掴んで自分の方へ引き寄せると、笹尾の耳元……彼にだけ聞える声音で囁いた。
「ササオさん、自分で〝盗み録り〟って認めちゃってますよ? いま気が立ってらっしゃるみたいですし、冷静じゃない状態で下手な騒ぎ方をすると、罪を次々と肯定することになりかねません。ほら、みんなが見てますよ? 言動には気を付けて?」
楽しげにクスクス笑う岳斗の手元で、再生は現在進行形でなおも続いている。
【あんな上の方から落っこちてほとんど怪我してないって……落ち方うますぎっしょ。怪し過ぎますって】
志波のクスクス笑う声に続くように、【いや、俺だって全く無傷ってわけじゃねぇぞ?】と笹尾が言い訳する声がして、【それだってみんなに騒がれたから怪しまれないよう怪我したってことにしただけで……実際は痛くもなんともないんでしょう?】と笹尾を揶揄う声が聞えてくる。
そこに至る頃には、周りから「笹尾さん、最低」とか、「美住さん、完全に被害者じゃん」という声が聞こえ始めていて。
岳斗の背後で杏子が息を呑む気配がする。きっと、こんな風に自分の無実が証明されるだなんて思っていなくて、頭が現状についていけていないんだろう。
所在なげに胸前でギュッと握られたままの杏子の手が震えているのに気が付いた岳斗は、思わず彼女の手をあいている方の手でそっと包み込んだ。
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