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41.見る目がないのはどっち?
キミがヤスイさんか
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「杏子ちゃんは何も悪いことなんてしてないんだから、堂々としていればいい」
岳斗は安井たちに掛ける声とは全然違う、柔らかな口調で杏子に語りかけてくると、「僕に任せて?」と杏子を抱く腕にほんのちょっと力を込めてきた。そうして杏子の足を気遣いながらそっと床へ降ろしてくれると、「悪いけどちょっとだけここに立っていてくれる?」と小首を傾げてみせた。その上で念押しするように「いーい? 絶対に僕の後ろから出ちゃ駄目だよ?」とウインクをするのだ。
杏子は岳斗に降ろして欲しいと望んでいたけれど、いざそうされるとちょっぴり心許なくて、同時に岳斗に甘えるようなことを思ってしまった自分がイヤになった。
杏子を手放してフリーになった岳斗は、まるで気持ちを切り替えるみたいにふぅっと息を吐き出すと、杏子を庇うように安井らとの間に立ちはだかる。
その上で、彼の背中を見詰めるしか出来ない杏子が、思わず身をすくませてしまうくらい冷え冷えとした声音で安井に問い掛けるのだ。
「さて、三人の中のボスはキミだという認識で合ってる?」
***
岳斗は偉そうにワンワンまくし立ててきたクールビューティー風の女性にターゲットを定めると、あえてニコッと微笑みかけた。
「ぼ、ボスだなんて……、わ、私はただ……美住さんから大事な彼氏が酷い目に遭わされた当事者ってだけで……べ、別にそんな大それたものじゃ……」
ちょっと笑い掛けただけでこれ。さっきまでの勢いはどこへやら。頬を染めながら岳斗を見つめてくるその女の態度は、呆れてしまうくらい精彩を欠いていた。
「ふーん。大事な彼氏が、ねぇ……」
岳斗が意味深に〝大事な彼氏〟のところを強調したら、「な、何よ、貴方! 安井さんと笹尾さんを侮辱するつもり!?」と、配下の一人が果敢にも岳斗へ盾突いてくる。
(こっちのは杏子ちゃんに足を掛けたヤツじゃないな。名前は知らないけど)
杏子をわざと転ばせようとしたのはもう一人の方だが、岳斗にとってはどちらでも変わりはない。正直同じ人間として捉えるのも虫唾が走るし、そんな三人の名前なんてどうでもいい。だが、主犯格の〝ヤスイ〟とやらのフルネームを明確にしておくことだけは、今からすることに必要だった。
「そっか、キミがヤスイさんか。ひょっとして下の名はアヤナ?」
岳斗が白々しくそう告げると、安井が瞳を見開いた。
「どうして私の名前を知っていますの?」
本人は動揺を隠しているつもりだろうが、黒目が所在なく揺らめいている。
「あー、それはね――」
岳斗は安井たちに掛ける声とは全然違う、柔らかな口調で杏子に語りかけてくると、「僕に任せて?」と杏子を抱く腕にほんのちょっと力を込めてきた。そうして杏子の足を気遣いながらそっと床へ降ろしてくれると、「悪いけどちょっとだけここに立っていてくれる?」と小首を傾げてみせた。その上で念押しするように「いーい? 絶対に僕の後ろから出ちゃ駄目だよ?」とウインクをするのだ。
杏子は岳斗に降ろして欲しいと望んでいたけれど、いざそうされるとちょっぴり心許なくて、同時に岳斗に甘えるようなことを思ってしまった自分がイヤになった。
杏子を手放してフリーになった岳斗は、まるで気持ちを切り替えるみたいにふぅっと息を吐き出すと、杏子を庇うように安井らとの間に立ちはだかる。
その上で、彼の背中を見詰めるしか出来ない杏子が、思わず身をすくませてしまうくらい冷え冷えとした声音で安井に問い掛けるのだ。
「さて、三人の中のボスはキミだという認識で合ってる?」
***
岳斗は偉そうにワンワンまくし立ててきたクールビューティー風の女性にターゲットを定めると、あえてニコッと微笑みかけた。
「ぼ、ボスだなんて……、わ、私はただ……美住さんから大事な彼氏が酷い目に遭わされた当事者ってだけで……べ、別にそんな大それたものじゃ……」
ちょっと笑い掛けただけでこれ。さっきまでの勢いはどこへやら。頬を染めながら岳斗を見つめてくるその女の態度は、呆れてしまうくらい精彩を欠いていた。
「ふーん。大事な彼氏が、ねぇ……」
岳斗が意味深に〝大事な彼氏〟のところを強調したら、「な、何よ、貴方! 安井さんと笹尾さんを侮辱するつもり!?」と、配下の一人が果敢にも岳斗へ盾突いてくる。
(こっちのは杏子ちゃんに足を掛けたヤツじゃないな。名前は知らないけど)
杏子をわざと転ばせようとしたのはもう一人の方だが、岳斗にとってはどちらでも変わりはない。正直同じ人間として捉えるのも虫唾が走るし、そんな三人の名前なんてどうでもいい。だが、主犯格の〝ヤスイ〟とやらのフルネームを明確にしておくことだけは、今からすることに必要だった。
「そっか、キミがヤスイさんか。ひょっとして下の名はアヤナ?」
岳斗が白々しくそう告げると、安井が瞳を見開いた。
「どうして私の名前を知っていますの?」
本人は動揺を隠しているつもりだろうが、黒目が所在なく揺らめいている。
「あー、それはね――」
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