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41.見る目がないのはどっち?
お願い、降ろして?
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「……岳斗さん?」
戸惑いながらも岳斗の視線の先を見詰めた杏子は、息を呑む。
いつの間に経理課から出てきんだろうか?
岳斗のことで頭がいっぱいで全然気付けなかったけれど、二人の行く手を阻むように、木坂、古田、安井の三人が立ちはだかっていた。
「どこのどなたかは存じませんけれど……貴方の腕の中の彼女、優しくすると損をしますわよ?」
ややして、岳斗の変化にも気付かないみたいに、そう告げたのは安井で……。それに同調するように「そうよ、そうよ! その人はいい男とみると色目を使う淫乱女ですもの!」と告げたのは古田、「その足だってわざとらしく引きずってますけど……実際は自業自得なんですよ?」と鼻で笑ったのは木坂だった。
それでも杏子を降ろそうとしない岳斗に苛ついたのか、安井があからさまに溜め息を吐いた。
「貴方、お綺麗なお顔をしてらっしゃいますけど、女性を見る目がないみたいですね!」
杏子は自分のせいで岳斗まで悪く言われてしまったことがただただ申し訳なくて……ギュッと身体をちぢこめるようにして「岳斗さん、お願い。降ろして……?」と声を震わせるしか出来なくて――。
いまさら杏子が岳斗から離れたからといって、彼女らがすんなり立ち去るとは思えなかったけれど、少なくとも現状のままよりは非難の矛先が自分に戻ってくるだけマシだろう。
だが、岳斗は杏子の言葉を黙殺すると、「何の根拠があってそんなことを言うの? 仮にも君たちは彼女の同僚だよね? 僕よりずっと長く一緒にいるはずなのに見る目がないのはどっち? 少なくとも僕は彼女のことをとても誠実で素敵な女性だと思ってるんだけど?」と三人に問い掛ける。
岳斗に顔向け出来なくてオロオロと震える杏子を支える岳斗の腕は、何の迷いもないみたいにガッチリと杏子を包み込んで離さない。
杏子はこれ以上安井たちから岳斗に酷い言葉を投げ掛けられたくなくて、消え入りたい気持ちになった。
どうせ三人は、笹尾とのことを持ち出して、杏子が如何にしたたかな女かを説明するはずだ。それが事実とはかけ離れた情報だとしても、彼女らにしてみれば、笹尾から聞かされた話こそが真実なのだから容赦はないだろう。
そんな杏子を擁護し続ければ、きっと岳斗だって攻撃対象にされてしまう。
「岳斗さん、私……一人でも大丈夫なので」
それで懸命に岳斗へ語り掛けたのだけれど……。
戸惑いながらも岳斗の視線の先を見詰めた杏子は、息を呑む。
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「どこのどなたかは存じませんけれど……貴方の腕の中の彼女、優しくすると損をしますわよ?」
ややして、岳斗の変化にも気付かないみたいに、そう告げたのは安井で……。それに同調するように「そうよ、そうよ! その人はいい男とみると色目を使う淫乱女ですもの!」と告げたのは古田、「その足だってわざとらしく引きずってますけど……実際は自業自得なんですよ?」と鼻で笑ったのは木坂だった。
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「貴方、お綺麗なお顔をしてらっしゃいますけど、女性を見る目がないみたいですね!」
杏子は自分のせいで岳斗まで悪く言われてしまったことがただただ申し訳なくて……ギュッと身体をちぢこめるようにして「岳斗さん、お願い。降ろして……?」と声を震わせるしか出来なくて――。
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だが、岳斗は杏子の言葉を黙殺すると、「何の根拠があってそんなことを言うの? 仮にも君たちは彼女の同僚だよね? 僕よりずっと長く一緒にいるはずなのに見る目がないのはどっち? 少なくとも僕は彼女のことをとても誠実で素敵な女性だと思ってるんだけど?」と三人に問い掛ける。
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