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40.噂話
相応しくない
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「けど……逆に美住さんはドンくさいですよね!」
ササオについて話していた時とは一転。ククッと嬉しげに取り巻きの一人が笑ったら、それに同調するようにもう一人も「それです。たった数段で足、捻挫して動けなくなっちゃうとか! どんだけ運動神経にぶいの!? って笑っちゃいました」と、あからさまに意地の悪い微笑みを浮かべる。
「安井さんの彼氏だって知っていながら笹尾さんに言い寄るとか……身の程知らずなことするからバチが当たったんでしょうね」
「けど、悪いことしたくせに被害者面してわざとらしく足引きずって歩くの、見ててイライラしません?」
「分かるぅー!」
取り巻きたちの言葉を満足そうに聞きながら、ヤスイが「けど……雄介ったら自分が酷い目に遭わされたくせにあの女の怪我を気にするのよ。優しいのは彼の魅力だけど……彼女としては何かモヤモヤするのよねー」と眉根を寄せる。その芝居掛かった表情の作り方に、岳斗は物凄い嫌悪感を覚えた。それと同時、ササオにヤスイという組み合わせはある意味お似合いだな……と納得する。
小さく吐息を落とした岳斗は、そっとその場を離れた。
――こんなところに僕の可愛い杏子ちゃんは相応しくない。
そう確信しながら。
***
岳斗は正直、コノエ産業開発の内部がここまで腐っているとは思っていなかった。
ここに至るまでの道のりを思い返して、我知らず吐息が漏れる。いや正直なところ、それにも増して腹立たしさで腸が煮えくり返っている。
(ちょっと頭冷やした方がいいかな)
今のまま杏子の前へ姿を現したら、自分が物凄く醜い顔をしていそうな気がして、岳斗はたまたま目についたレストルームへ逃げ込んだ。
幸い中には誰もいなかったので、手洗い場で顔を軽く洗ってからいつも持ち歩いているハンカチで水気を拭うと、鏡に映る自分の顔を確認して、両手で顔を挟み込むようにして頬をぱちぱち叩いて気合いを入れ直す。そうしながら心の中で『よし!』とつぶやいて、鏡の中の自分へ向けてニコッと微笑む練習をしてから、そこをあとにした。
目指す経理課はトイレとは目と鼻の先。斜め前方に見えた。
(あ。あいつら……)
と、岳斗が見詰める先、先ほど給湯室でくだらない噂話をしていた三人が経理課内へ入って行く後ろ姿が見えて、岳斗は思わず舌打ちしそうになる。『いけない、いけない』ともう一度深呼吸をして気持ちを落ち着け直した岳斗は、(こんな環境にいる杏子ちゃんは、きっと心が休まらないだろうな)と思って……。チクリと胸の奥を刺されたような気持ちになった。
ササオについて話していた時とは一転。ククッと嬉しげに取り巻きの一人が笑ったら、それに同調するようにもう一人も「それです。たった数段で足、捻挫して動けなくなっちゃうとか! どんだけ運動神経にぶいの!? って笑っちゃいました」と、あからさまに意地の悪い微笑みを浮かべる。
「安井さんの彼氏だって知っていながら笹尾さんに言い寄るとか……身の程知らずなことするからバチが当たったんでしょうね」
「けど、悪いことしたくせに被害者面してわざとらしく足引きずって歩くの、見ててイライラしません?」
「分かるぅー!」
取り巻きたちの言葉を満足そうに聞きながら、ヤスイが「けど……雄介ったら自分が酷い目に遭わされたくせにあの女の怪我を気にするのよ。優しいのは彼の魅力だけど……彼女としては何かモヤモヤするのよねー」と眉根を寄せる。その芝居掛かった表情の作り方に、岳斗は物凄い嫌悪感を覚えた。それと同時、ササオにヤスイという組み合わせはある意味お似合いだな……と納得する。
小さく吐息を落とした岳斗は、そっとその場を離れた。
――こんなところに僕の可愛い杏子ちゃんは相応しくない。
そう確信しながら。
***
岳斗は正直、コノエ産業開発の内部がここまで腐っているとは思っていなかった。
ここに至るまでの道のりを思い返して、我知らず吐息が漏れる。いや正直なところ、それにも増して腹立たしさで腸が煮えくり返っている。
(ちょっと頭冷やした方がいいかな)
今のまま杏子の前へ姿を現したら、自分が物凄く醜い顔をしていそうな気がして、岳斗はたまたま目についたレストルームへ逃げ込んだ。
幸い中には誰もいなかったので、手洗い場で顔を軽く洗ってからいつも持ち歩いているハンカチで水気を拭うと、鏡に映る自分の顔を確認して、両手で顔を挟み込むようにして頬をぱちぱち叩いて気合いを入れ直す。そうしながら心の中で『よし!』とつぶやいて、鏡の中の自分へ向けてニコッと微笑む練習をしてから、そこをあとにした。
目指す経理課はトイレとは目と鼻の先。斜め前方に見えた。
(あ。あいつら……)
と、岳斗が見詰める先、先ほど給湯室でくだらない噂話をしていた三人が経理課内へ入って行く後ろ姿が見えて、岳斗は思わず舌打ちしそうになる。『いけない、いけない』ともう一度深呼吸をして気持ちを落ち着け直した岳斗は、(こんな環境にいる杏子ちゃんは、きっと心が休まらないだろうな)と思って……。チクリと胸の奥を刺されたような気持ちになった。
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