【完結】【R18】あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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39.コノエ産業開発株式会社

杏子の勤め先

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 ノックをして総務部長室へ入ると、段ボール箱に荷物を詰める作業をしていた屋久蓑やくみの大葉たいようが、手を止めてこちらに視線を投げかけてきた。

 倍相ばいしょう岳斗がくとは、小さく吐息を落とすと、「突然なんですが、今から有給休暇を取らせて頂きたいのです」と単刀直入に用件を切り出した。さすがに業務中に突然〝今から〟だなんて、管理職に就いている岳斗が切り出すこと自体突飛な話だと思われたんだろう。

「やけに唐突だな。――理由を聞いても構わないか?」

 有給休暇は、普通取得理由を会社に告げる必要はない。そのことを踏まえた上であえて問い掛けてきたのであろう大葉たいように、岳斗は「杏子あんずちゃんが……美住みすみさんが職場で辛い目に遭っているようなので助けに行きたいんです」と答えた。

 実際、自分が行って助けになるかどうかは分からない。

 分からないけれど、そうせずにはいられないのだと言葉を重ねる岳斗に、大葉たいようは「彼女の勤め先は知っているのか?」と至極もっともな質問を投げかけてきた。

「彼女の勤め先は……僕の実父クソおやじの系列会社です」

 あれから何だかんだと理由をつけては杏子あんずとの逢瀬おうせを重ねてきた岳斗である。

 彼女とさまざまな会話をしていく中で杏子の勤め先が、かつて自分が見切りをつけて蹴り飛ばした会社『はなみやこグループ』傘下の会社だと分かった。

 はなみやこグループのことは実母・倍相ばいしょう真澄ますみの死後、実父・花京院かきょういん岳史たかふみのもと、従順なふりをして虎視眈々こしたんたんと反撃の機会をうかがっていた頃に基礎的な知識は叩き込まれている。

 やがては自分の後を継がせるつもりでいたのだろう。現在はなみやこグループを率いている花京院かきょういん岳史たかふみから教え込まれたそれらのことは、ハッキリ言って覚えていたくもないくだらないことばかりだ。だが、知識はどんな形で武器になる日がくるか分からない。そう考えて、岳斗がくとは父親と決別した後もはなみやこに関する情報のアップデートだけは欠かさず続けてきた。

 だから杏子あんずの勤め先を知ったとき、岳斗は何となく因縁いんねんめいたものを感じたのだ。けれど杏子自身がはなみやこ本社に勤務しているわけではないということで、彼女には特に何も告げてはいなかった。だが、その関連会社の社内で杏子がイヤな目に遭わされている、となれば話は別だ。

「はなみやこの代表取締役社長をしているクソ親父は……未だに自分を裏切った実の息子のことを諦めきれていないようで、しょっちゅう僕に連絡してきます。なので……」

 岳斗はそこでじっと屋久蓑やくみの大葉たいようを見詰めると声を低めた。
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