245 / 342
37.家族になりたい
頼むから頑張ってくれ!
しおりを挟む
「何で会社じゃなくて社長のご自宅なんでしょう?」
呼び出し先が社長室でも一介の平社員に過ぎない自分には十分プレッシャーなのに……と瞳を揺らせながら、羽理が普通なら縁なんてない社長宅に呼び出されたことを不審に思って落ち着かないのだと眉根を寄せた。
疑問符満載ではあるものの、待ち合わせの時刻もある。納得のいかない様子で恵介伯父の家へ向かう支度をしながら、羽理がソワソワと大葉を見つめてくるから。
大葉はそんな彼女の頭をポンポンとやわらかく撫でると、「親族としてなんか話したいことがあるからじゃねぇかな?」と小さく吐息を落とした。
「親族として……」
大葉の言葉を吟味するみたいに舌の上で転がした羽理が、
「だったら……大葉のご両親がいらっしゃる屋久蓑家で、の方が良かったんじゃないですかね?」
そりゃそうだよな? という至極真っ当な質問を投げかけてくる。
親族、と言っても恵介は所詮伯父なのだ。両親が健在で……なおかつ彼らとの関係も良好な甥っ子の結婚に関して、伯父が単独で何か言ってくるのはちょっぴりおかしい。会社絡みの話というならばまだしも……と羽理が思ったのも無理はないだろう。
そんな羽理に、大葉は観念したように「恵介伯父さん、今、うちの実家、出禁くらってるから」と白状した。
「えっ?」
美住杏子に、『アンちゃんはたいちゃんの好みのタイプだと思う』だのなんだのと要らないことを言って、変に杏子を期待させて傷付けた恵介伯父は、妹である大葉の母・果恵からこっぴどく叱られたのだ。
自分が連絡するまで顔を見せるなと妹から言われて、この世の終わりかと思うくらい意気消沈していた恵介伯父を知っている大葉は、我知らず苦笑する。
「杏……、じゃなくてえっと……、俺の見合い相手だった美住さん……の件で伯父さん、色々やらかしててさ」
羽理の前で、幼少期にそう呼んでいたからといって、そのまま下の名で呼び続けるのはよくないかな? と思った大葉が、〝杏子〟と呼びそうになったのを寸でのところで言い換えたら、羽理が「杏子さんで構いませんよ?」と吐息を落とした。
「……変に気遣われる方が何か嫌ですし」
羽理の言い分ももっともだと思った大葉だったけれど、杏子に懸想している岳斗のことを思うと、やはり線引きは必要だと思って。
「ほら、俺たちはよくても岳斗がイヤかも知んねぇだろ?」
倍相課長の名を出したら、羽理が「ああ、それもそうですね」と受けてから、思案顔をする。
「杏子さんは……大葉のこと、ちゃんと諦められたんでしょうか?」
ややして不安気に落とされた羽理の言葉に、大葉は心の中、(頼むから頑張ってくれ、倍相岳斗!)と念を送らずにはいられなかった。
呼び出し先が社長室でも一介の平社員に過ぎない自分には十分プレッシャーなのに……と瞳を揺らせながら、羽理が普通なら縁なんてない社長宅に呼び出されたことを不審に思って落ち着かないのだと眉根を寄せた。
疑問符満載ではあるものの、待ち合わせの時刻もある。納得のいかない様子で恵介伯父の家へ向かう支度をしながら、羽理がソワソワと大葉を見つめてくるから。
大葉はそんな彼女の頭をポンポンとやわらかく撫でると、「親族としてなんか話したいことがあるからじゃねぇかな?」と小さく吐息を落とした。
「親族として……」
大葉の言葉を吟味するみたいに舌の上で転がした羽理が、
「だったら……大葉のご両親がいらっしゃる屋久蓑家で、の方が良かったんじゃないですかね?」
そりゃそうだよな? という至極真っ当な質問を投げかけてくる。
親族、と言っても恵介は所詮伯父なのだ。両親が健在で……なおかつ彼らとの関係も良好な甥っ子の結婚に関して、伯父が単独で何か言ってくるのはちょっぴりおかしい。会社絡みの話というならばまだしも……と羽理が思ったのも無理はないだろう。
そんな羽理に、大葉は観念したように「恵介伯父さん、今、うちの実家、出禁くらってるから」と白状した。
「えっ?」
美住杏子に、『アンちゃんはたいちゃんの好みのタイプだと思う』だのなんだのと要らないことを言って、変に杏子を期待させて傷付けた恵介伯父は、妹である大葉の母・果恵からこっぴどく叱られたのだ。
自分が連絡するまで顔を見せるなと妹から言われて、この世の終わりかと思うくらい意気消沈していた恵介伯父を知っている大葉は、我知らず苦笑する。
「杏……、じゃなくてえっと……、俺の見合い相手だった美住さん……の件で伯父さん、色々やらかしててさ」
羽理の前で、幼少期にそう呼んでいたからといって、そのまま下の名で呼び続けるのはよくないかな? と思った大葉が、〝杏子〟と呼びそうになったのを寸でのところで言い換えたら、羽理が「杏子さんで構いませんよ?」と吐息を落とした。
「……変に気遣われる方が何か嫌ですし」
羽理の言い分ももっともだと思った大葉だったけれど、杏子に懸想している岳斗のことを思うと、やはり線引きは必要だと思って。
「ほら、俺たちはよくても岳斗がイヤかも知んねぇだろ?」
倍相課長の名を出したら、羽理が「ああ、それもそうですね」と受けてから、思案顔をする。
「杏子さんは……大葉のこと、ちゃんと諦められたんでしょうか?」
ややして不安気に落とされた羽理の言葉に、大葉は心の中、(頼むから頑張ってくれ、倍相岳斗!)と念を送らずにはいられなかった。
11
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~
花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】
この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。
2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて……
そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。
両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!?
「夜のお相手は、他の女性に任せます!」
「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」
絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの?
大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ!
私は私の好きにさせてもらうわ!
狭山 聖壱 《さやま せいいち》 34歳 185㎝
江藤 香津美 《えとう かつみ》 25歳 165㎝
※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる