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36.乃子との約束
必ず幸せにすると誓います
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結局何だかんだとグダグダながらも、乃子たちが用意してくれていた茶請け菓子『月から落ちてきた卵』とお茶を前に、大葉はやっと本題へ入れそうな流れになった。
「月たま、子供の頃から大好きなんですっ」
羽理がニコニコしながら手にしたまぁるい洋菓子は、ふわふわのカステラ生地の中にたっぷりのカスタードクリームと刻み和栗が入った地元の銘菓らしい。
「屋久蓑さんもどうぞ」
乃子に言われて、とりあえずは無難に茶へと手を伸ばした大葉だ。ひとくち口を湿らせる程度に含んだお茶は、この日のために用意してくれたんだろうか? 仄かに甘みを感じる美味しい緑茶だった。
「月たま、大葉も食べて? 美味しいよ?」
「甘いもんがお嫌いじゃなけりゃ、どうぞ」
羽理と初にダブルで菓子を勧められて、素直に手に取り包みを解くと、薄クリーム色のしっとりとしたまぁるいフワフワ生地が現れた。
見た目の割にずっしりと重いそれを軽く食むと、すぐさまカスタードに到達する。
(うまいな)
思わずその後パクパクッとふたくちでぺろりと月たまを平らげてしまった大葉は「ね? 美味しいでしょう?」という羽理の弾んだ声にハッとした。
(いかん、つい……)
グッとテーブル下、皆からは死角になった位置で拳を握りしめて気持ちを切り替えると、大葉は座っていた座布団からスッと降りて畳の上へ直に正座し直した。
「大葉……?」
そんな大葉の様子に羽理が二つ目の月たまを手に小首を傾げる。
大葉はそんな羽理をちらりと見詰めると一度深く息を吐き出してから、テーブルを挟んだ向かい側に座る乃子と初に真摯なまなざしを向けた。
「――本日はお忙しい中、お時間を頂き有難うございます」
それは、本来ならば玄関を入ってすぐ。名乗りと同時に告げるはずだった言葉だ。色々ありすぎてグダグダになってしまったが、大葉はそのセリフを場の空気を仕切り直すのに使った。
「実は今日こちらへお伺いしたのは、羽理さんと結婚を前提とした同棲のお許しを頂きたくてのことです。羽理さんを必ず幸せにすると誓います! お願いです。どうか、羽理さんとの同棲と結婚をお許し頂けないでしょうか?」
言うと同時、深く深く頭を下げた大葉を見て、羽理も慌てて「お願いします」と頭を下げる気配がする。
大葉は畳を見詰めたまま、羽理が自分と同じ気持ちで足並みをそろえてくれたことにじーんとしたのだけれど。
「もぉ、うーちゃん、そういうことはお菓子を置いてから言うものよ?」
クスクスと乃子が笑う声がして、大葉はうつむいたまま(え?)と思った。
「だってぇ……大葉がいきなり大事な話、切り出すんだもん!」
羽理としては、手にしたばかりの月たまをどうしていいか迷ったらしい。
「そういう締まらんところがりっちゃんらしゅうてええの」
ガハハと豪快な笑い声とともに、「そもそもわしゃあ乃子を孕ませた相手から何の挨拶も貰ぉちょらん身じゃけん」と吐息を落とした初が、「こうやってわざわざ挨拶に来てくれたっちゅうだけでわしは大賛成なんじゃが。乃子はどうかいの?」と娘を見詰めた。
「私も……反対する理由はないです」
乃子の言葉に、「じゃあ」と顔を上げた大葉だったのだけれど。
すぐさま「ただ……」と続けられて、にわかに緊張で身体を固くした。
「ただ……絶対にこの子を裏切らないと約束して下さい。散々期待させて捨てるのだけは絶対に無しです。もし……そんなことをなさったら、私は地の底まで貴方を追い掛けて息の根を止めますから」
乃子の真剣なまなざしに、大葉は「お約束します」と答えて、再度深々と頭を下げる。
そんな大葉の横で、猫神様を真っ白にしたみたいな毛皮が、「おめでとう」と祝福するみたいにニャニャーンと鳴いた。
「月たま、子供の頃から大好きなんですっ」
羽理がニコニコしながら手にしたまぁるい洋菓子は、ふわふわのカステラ生地の中にたっぷりのカスタードクリームと刻み和栗が入った地元の銘菓らしい。
「屋久蓑さんもどうぞ」
乃子に言われて、とりあえずは無難に茶へと手を伸ばした大葉だ。ひとくち口を湿らせる程度に含んだお茶は、この日のために用意してくれたんだろうか? 仄かに甘みを感じる美味しい緑茶だった。
「月たま、大葉も食べて? 美味しいよ?」
「甘いもんがお嫌いじゃなけりゃ、どうぞ」
羽理と初にダブルで菓子を勧められて、素直に手に取り包みを解くと、薄クリーム色のしっとりとしたまぁるいフワフワ生地が現れた。
見た目の割にずっしりと重いそれを軽く食むと、すぐさまカスタードに到達する。
(うまいな)
思わずその後パクパクッとふたくちでぺろりと月たまを平らげてしまった大葉は「ね? 美味しいでしょう?」という羽理の弾んだ声にハッとした。
(いかん、つい……)
グッとテーブル下、皆からは死角になった位置で拳を握りしめて気持ちを切り替えると、大葉は座っていた座布団からスッと降りて畳の上へ直に正座し直した。
「大葉……?」
そんな大葉の様子に羽理が二つ目の月たまを手に小首を傾げる。
大葉はそんな羽理をちらりと見詰めると一度深く息を吐き出してから、テーブルを挟んだ向かい側に座る乃子と初に真摯なまなざしを向けた。
「――本日はお忙しい中、お時間を頂き有難うございます」
それは、本来ならば玄関を入ってすぐ。名乗りと同時に告げるはずだった言葉だ。色々ありすぎてグダグダになってしまったが、大葉はそのセリフを場の空気を仕切り直すのに使った。
「実は今日こちらへお伺いしたのは、羽理さんと結婚を前提とした同棲のお許しを頂きたくてのことです。羽理さんを必ず幸せにすると誓います! お願いです。どうか、羽理さんとの同棲と結婚をお許し頂けないでしょうか?」
言うと同時、深く深く頭を下げた大葉を見て、羽理も慌てて「お願いします」と頭を下げる気配がする。
大葉は畳を見詰めたまま、羽理が自分と同じ気持ちで足並みをそろえてくれたことにじーんとしたのだけれど。
「もぉ、うーちゃん、そういうことはお菓子を置いてから言うものよ?」
クスクスと乃子が笑う声がして、大葉はうつむいたまま(え?)と思った。
「だってぇ……大葉がいきなり大事な話、切り出すんだもん!」
羽理としては、手にしたばかりの月たまをどうしていいか迷ったらしい。
「そういう締まらんところがりっちゃんらしゅうてええの」
ガハハと豪快な笑い声とともに、「そもそもわしゃあ乃子を孕ませた相手から何の挨拶も貰ぉちょらん身じゃけん」と吐息を落とした初が、「こうやってわざわざ挨拶に来てくれたっちゅうだけでわしは大賛成なんじゃが。乃子はどうかいの?」と娘を見詰めた。
「私も……反対する理由はないです」
乃子の言葉に、「じゃあ」と顔を上げた大葉だったのだけれど。
すぐさま「ただ……」と続けられて、にわかに緊張で身体を固くした。
「ただ……絶対にこの子を裏切らないと約束して下さい。散々期待させて捨てるのだけは絶対に無しです。もし……そんなことをなさったら、私は地の底まで貴方を追い掛けて息の根を止めますから」
乃子の真剣なまなざしに、大葉は「お約束します」と答えて、再度深々と頭を下げる。
そんな大葉の横で、猫神様を真っ白にしたみたいな毛皮が、「おめでとう」と祝福するみたいにニャニャーンと鳴いた。
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