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34.次はお前の親御さんだと思うんだ
いや、違うだろ!
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「ほら、今日は猫吸いしに行くだけですし」
当然のように続けられた言葉に、大葉は「ん!?」と聞き返さずにはいられない。
「羽理。お前、今なんて……」
「え? 猫吸いをしに……」
「いや、違うだろ!」
「え!?」
キョトンとする羽理に、「今日はお前との結婚の挨拶と……同棲の許しを請いに行くのがメインだぞ!?」と眉根を寄せたら、「きゃー、どうしましょう! 私、お母さんにそんな風に話してません!」とか。
「いや、じゃあ何て言ったんだ!」
ソワソワしながら聞けば、
「えっと……『お付き合いをしている男性が〝毛皮〟のにおいを嗅ぎたいって言うので、連れて行ってもいい?』って聞きました」
羽理があっけらかんとそんな言葉を返してくるから、大葉は思わず「それだと俺、すっげぇ変な男じゃないか!」と言わずにはいられなかったのだが。
「えっ。でもお母さんもお婆ちゃんも『猫好きに悪い人はいない。是非来てもらいなさい』ってめっちゃ乗り気でしたよ?」
返された羽理の言葉に、大葉が(この親にしてこの子ありなのか?)と思ったのは、致し方ないだろう。
***
大葉が羽理の実家への手土産に用意したのは、糯米〝滋賀羽二重糯〟を使用した香ばしい皮と、瓶入りのマスカルポーネチーズクリーム、同じく瓶入りの北海道産大納言小豆使用の粒あんがセットになった『あんころポーネ最中』だ。皮と中身が各々別々になっていることで、賞味期限が常温保存で三〇日間と長いのが良い。
羽理から、お母様もおばあ様も粒あん入りの最中が大好物で、チーズもお好きだと情報を得たから間違いはないだろう。二人は割とスタイリッシュで、和洋折衷のお菓子も大好きなのだと羽理が自信満々に教えてくれたのも決め手になった。
***
「これ、どこで買ったんですか?」
羽理が興味を持つであろうことは織り込み済み。
大葉は手土産用とは別に、自宅用も手配していたのだが、案の定というべきか。
自宅用を前に、「味見しておこうか」と誘い掛けたら目をキラキラさせた羽理にそう問い掛けられた。
「京都の老舗の贈答菓子なんだが、通販で翌日には届けてくれるってあったからそれを利用してみた」
木曜の昼休みに、羽理から『いつでも訪問OKです』というメッセージをもらうなりすぐに手配したのだが、金曜の昼過ぎには会社へ送られてきてホッと一息ついた大葉である。
「金曜に屋久蓑部長宛の荷物が届いてましたけど、アレがソレですか?」
「ああ」
家ではぽやんとしている印象が強い羽理だが、やはり会社では冴えているらしい。
大葉は、羽理の鋭い指摘にドキッとしてしまった。
「会社宛てに私的な荷物送っちゃうとかいけないんだぁー。公私混同反対」
そんなこと思っていないだろうに、羽理が珍しく意地悪に非難してくるのが可愛くて、「時間指定出来なかったんだ。大目に見てくれ」と言いながら、大葉はすぐに反撃を思い付いた。
「けど……そうだなぁ。羽理がそれを気にするってんなら……。残念だがこっちの自宅用に買ったのは会社のみんなへ配ろう」
ククッと笑ってそう告げた途端、羽理が「大目に見ます!」と、すぐさま意見を翻した。
そんなこんなで昨夜のうちにいくつか羽理と食べてみたのだが、とても美味しかった。
自分たちで中に餡やクリームチーズを詰めないといけないのは面倒とも思えるが、考えようによってはチーズと粒あんの比率を自分好みにカスタマイズできていい。
「お母さんもおばあちゃんもこういうひと手間掛けるの好きなので喜ぶと思います」
お母さんなんかはチーズ増量とか色々遊んじゃいそうです、と嬉しそうに付け加える羽理を助手席に、大葉は羽理の実家へと愛車エキュストレイルを走らせた。
当然のように続けられた言葉に、大葉は「ん!?」と聞き返さずにはいられない。
「羽理。お前、今なんて……」
「え? 猫吸いをしに……」
「いや、違うだろ!」
「え!?」
キョトンとする羽理に、「今日はお前との結婚の挨拶と……同棲の許しを請いに行くのがメインだぞ!?」と眉根を寄せたら、「きゃー、どうしましょう! 私、お母さんにそんな風に話してません!」とか。
「いや、じゃあ何て言ったんだ!」
ソワソワしながら聞けば、
「えっと……『お付き合いをしている男性が〝毛皮〟のにおいを嗅ぎたいって言うので、連れて行ってもいい?』って聞きました」
羽理があっけらかんとそんな言葉を返してくるから、大葉は思わず「それだと俺、すっげぇ変な男じゃないか!」と言わずにはいられなかったのだが。
「えっ。でもお母さんもお婆ちゃんも『猫好きに悪い人はいない。是非来てもらいなさい』ってめっちゃ乗り気でしたよ?」
返された羽理の言葉に、大葉が(この親にしてこの子ありなのか?)と思ったのは、致し方ないだろう。
***
大葉が羽理の実家への手土産に用意したのは、糯米〝滋賀羽二重糯〟を使用した香ばしい皮と、瓶入りのマスカルポーネチーズクリーム、同じく瓶入りの北海道産大納言小豆使用の粒あんがセットになった『あんころポーネ最中』だ。皮と中身が各々別々になっていることで、賞味期限が常温保存で三〇日間と長いのが良い。
羽理から、お母様もおばあ様も粒あん入りの最中が大好物で、チーズもお好きだと情報を得たから間違いはないだろう。二人は割とスタイリッシュで、和洋折衷のお菓子も大好きなのだと羽理が自信満々に教えてくれたのも決め手になった。
***
「これ、どこで買ったんですか?」
羽理が興味を持つであろうことは織り込み済み。
大葉は手土産用とは別に、自宅用も手配していたのだが、案の定というべきか。
自宅用を前に、「味見しておこうか」と誘い掛けたら目をキラキラさせた羽理にそう問い掛けられた。
「京都の老舗の贈答菓子なんだが、通販で翌日には届けてくれるってあったからそれを利用してみた」
木曜の昼休みに、羽理から『いつでも訪問OKです』というメッセージをもらうなりすぐに手配したのだが、金曜の昼過ぎには会社へ送られてきてホッと一息ついた大葉である。
「金曜に屋久蓑部長宛の荷物が届いてましたけど、アレがソレですか?」
「ああ」
家ではぽやんとしている印象が強い羽理だが、やはり会社では冴えているらしい。
大葉は、羽理の鋭い指摘にドキッとしてしまった。
「会社宛てに私的な荷物送っちゃうとかいけないんだぁー。公私混同反対」
そんなこと思っていないだろうに、羽理が珍しく意地悪に非難してくるのが可愛くて、「時間指定出来なかったんだ。大目に見てくれ」と言いながら、大葉はすぐに反撃を思い付いた。
「けど……そうだなぁ。羽理がそれを気にするってんなら……。残念だがこっちの自宅用に買ったのは会社のみんなへ配ろう」
ククッと笑ってそう告げた途端、羽理が「大目に見ます!」と、すぐさま意見を翻した。
そんなこんなで昨夜のうちにいくつか羽理と食べてみたのだが、とても美味しかった。
自分たちで中に餡やクリームチーズを詰めないといけないのは面倒とも思えるが、考えようによってはチーズと粒あんの比率を自分好みにカスタマイズできていい。
「お母さんもおばあちゃんもこういうひと手間掛けるの好きなので喜ぶと思います」
お母さんなんかはチーズ増量とか色々遊んじゃいそうです、と嬉しそうに付け加える羽理を助手席に、大葉は羽理の実家へと愛車エキュストレイルを走らせた。
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