216 / 292
31.メッセージ
変なメッセージをしてきたのは岳斗の方だろ?
しおりを挟む
『大葉さん、あなたのお見合い相手だった女性、僕が口説かせて頂いても問題ありませんよね?』
大葉から手渡されたスマートフォンの画面に表示された内容を目で追った羽理は、差出人が〝倍相岳斗〟なことを確認して小さく息を呑んだ。
「あ、あの……、これって……」
「俺にもよく分かんねぇけど……多分杏子のことだと思う」
杏子のことを指しているとしか思えない内容もさることながら、ちょっと前まで羽理のことを好きだと言っていたはずの倍相岳斗の変わり身の早さに、大葉自身驚かされたのだ。
確かに岳斗は、羽理が大葉と恋仲になっていると知って身を引くとは言っていたし、何なら応援だってしてくれると約束してくれた。しかしそれだって今朝部長室で詰めた話だから、羽理はその辺りのやり取りを詳しくは知らないはずなのだ。
少し前まで岳斗から好きだと言われていた羽理が、岳斗からのこのメールを見たらどう思うだろう? と考えたら、杏子のことを示唆している内容もさることながら、羽理至上主義の大葉としては、何となくそちらも気になってしまった。
それで、羽理にこのメールを見せるべきか否かちょっぴり迷ったのだけれど――。
そこで信号が青になって、大葉は羽理の反応を気にしつつも車を発進させる。
「えっと……杏子さんと倍相課長って……」
「多分面識はなかったと思う」
だからこそ、大葉はこのメッセージを見た瞬間、わけが分からなくて「はっ!?」と口走ってしまったのだ。
でももしかしたら年齢が同年代だし同級生だったりしたんだろうか? とも思って。
「とりあえず考えてても答えなんて出ねぇし、マンションに着いたら電話してみるよ」
小さく吐息を落としながらそう告げた大葉に、羽理が恐る恐ると言った様子で「あの……」とつぶやいた。前方を見詰めたまま「ん?」と先を促したら「どちらに?」と不安そうな声が返る。
一瞬『どういう意味だ?』と思った大葉だったのだけれど、すぐにピンときた。
「倍相岳斗の方に決まってるだろ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。――正直杏子の方は電話番号すら知らん」
大葉の言葉に羽理が明らかにホッとした様子で肩の力を抜く。その様が、心底愛しく思えた大葉である。
実際、杏子の携帯番号なんて大葉は知らないし、もしかしたら渡されていた資料――釣書――には書いてあったのかもしれないけれど、中を確認していないのだからそれすら不明だ。
恵介伯父に聞けば、杏子の連絡先なんてすぐに分かるだろうが、そこまでする義理はない。
「変なメッセージをしてきたのは岳斗の方だろ? だからそっちに聞くよ」
何気なくそう付け加えたら、「あの……、大葉」と羽理がそっと大葉の太ももに触れてくるから。その小さな手指の感触に大葉はドキドキと胸を跳ねさせた。だが、それと同時――。
「いつの間に倍相課長と、下の名で呼び合うような仲良しさんになられたんですか?」
羽理から、至極ごもっともな質問が投げ掛けられた。
***
大葉から手渡されたスマートフォンの画面に表示された内容を目で追った羽理は、差出人が〝倍相岳斗〟なことを確認して小さく息を呑んだ。
「あ、あの……、これって……」
「俺にもよく分かんねぇけど……多分杏子のことだと思う」
杏子のことを指しているとしか思えない内容もさることながら、ちょっと前まで羽理のことを好きだと言っていたはずの倍相岳斗の変わり身の早さに、大葉自身驚かされたのだ。
確かに岳斗は、羽理が大葉と恋仲になっていると知って身を引くとは言っていたし、何なら応援だってしてくれると約束してくれた。しかしそれだって今朝部長室で詰めた話だから、羽理はその辺りのやり取りを詳しくは知らないはずなのだ。
少し前まで岳斗から好きだと言われていた羽理が、岳斗からのこのメールを見たらどう思うだろう? と考えたら、杏子のことを示唆している内容もさることながら、羽理至上主義の大葉としては、何となくそちらも気になってしまった。
それで、羽理にこのメールを見せるべきか否かちょっぴり迷ったのだけれど――。
そこで信号が青になって、大葉は羽理の反応を気にしつつも車を発進させる。
「えっと……杏子さんと倍相課長って……」
「多分面識はなかったと思う」
だからこそ、大葉はこのメッセージを見た瞬間、わけが分からなくて「はっ!?」と口走ってしまったのだ。
でももしかしたら年齢が同年代だし同級生だったりしたんだろうか? とも思って。
「とりあえず考えてても答えなんて出ねぇし、マンションに着いたら電話してみるよ」
小さく吐息を落としながらそう告げた大葉に、羽理が恐る恐ると言った様子で「あの……」とつぶやいた。前方を見詰めたまま「ん?」と先を促したら「どちらに?」と不安そうな声が返る。
一瞬『どういう意味だ?』と思った大葉だったのだけれど、すぐにピンときた。
「倍相岳斗の方に決まってるだろ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。――正直杏子の方は電話番号すら知らん」
大葉の言葉に羽理が明らかにホッとした様子で肩の力を抜く。その様が、心底愛しく思えた大葉である。
実際、杏子の携帯番号なんて大葉は知らないし、もしかしたら渡されていた資料――釣書――には書いてあったのかもしれないけれど、中を確認していないのだからそれすら不明だ。
恵介伯父に聞けば、杏子の連絡先なんてすぐに分かるだろうが、そこまでする義理はない。
「変なメッセージをしてきたのは岳斗の方だろ? だからそっちに聞くよ」
何気なくそう付け加えたら、「あの……、大葉」と羽理がそっと大葉の太ももに触れてくるから。その小さな手指の感触に大葉はドキドキと胸を跳ねさせた。だが、それと同時――。
「いつの間に倍相課長と、下の名で呼び合うような仲良しさんになられたんですか?」
羽理から、至極ごもっともな質問が投げ掛けられた。
***
11
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる