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31.メッセージ
変なメッセージをしてきたのは岳斗の方だろ?
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『大葉さん、あなたのお見合い相手だった女性、僕が口説かせて頂いても問題ありませんよね?』
大葉から手渡されたスマートフォンの画面に表示された内容を目で追った羽理は、差出人が〝倍相岳斗〟なことを確認して小さく息を呑んだ。
「あ、あの……、これって……」
「俺にもよく分かんねぇけど……多分杏子のことだと思う」
杏子のことを指しているとしか思えない内容もさることながら、ちょっと前まで羽理のことを好きだと言っていたはずの倍相岳斗の変わり身の早さに、大葉自身驚かされたのだ。
確かに岳斗は、羽理が大葉と恋仲になっていると知って身を引くとは言っていたし、何なら応援だってしてくれると約束してくれた。しかしそれだって今朝部長室で詰めた話だから、羽理はその辺りのやり取りを詳しくは知らないはずなのだ。
少し前まで岳斗から好きだと言われていた羽理が、岳斗からのこのメールを見たらどう思うだろう? と考えたら、杏子のことを示唆している内容もさることながら、羽理至上主義の大葉としては、何となくそちらも気になってしまった。
それで、羽理にこのメールを見せるべきか否かちょっぴり迷ったのだけれど――。
そこで信号が青になって、大葉は羽理の反応を気にしつつも車を発進させる。
「えっと……杏子さんと倍相課長って……」
「多分面識はなかったと思う」
だからこそ、大葉はこのメッセージを見た瞬間、わけが分からなくて「はっ!?」と口走ってしまったのだ。
でももしかしたら年齢が同年代だし同級生だったりしたんだろうか? とも思って。
「とりあえず考えてても答えなんて出ねぇし、マンションに着いたら電話してみるよ」
小さく吐息を落としながらそう告げた大葉に、羽理が恐る恐ると言った様子で「あの……」とつぶやいた。前方を見詰めたまま「ん?」と先を促したら「どちらに?」と不安そうな声が返る。
一瞬『どういう意味だ?』と思った大葉だったのだけれど、すぐにピンときた。
「倍相岳斗の方に決まってるだろ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。――正直杏子の方は電話番号すら知らん」
大葉の言葉に羽理が明らかにホッとした様子で肩の力を抜く。その様が、心底愛しく思えた大葉である。
実際、杏子の携帯番号なんて大葉は知らないし、もしかしたら渡されていた資料――釣書――には書いてあったのかもしれないけれど、中を確認していないのだからそれすら不明だ。
恵介伯父に聞けば、杏子の連絡先なんてすぐに分かるだろうが、そこまでする義理はない。
「変なメッセージをしてきたのは岳斗の方だろ? だからそっちに聞くよ」
何気なくそう付け加えたら、「あの……、大葉」と羽理がそっと大葉の太ももに触れてくるから。その小さな手指の感触に大葉はドキドキと胸を跳ねさせた。だが、それと同時――。
「いつの間に倍相課長と、下の名で呼び合うような仲良しさんになられたんですか?」
羽理から、至極ごもっともな質問が投げ掛けられた。
***
大葉から手渡されたスマートフォンの画面に表示された内容を目で追った羽理は、差出人が〝倍相岳斗〟なことを確認して小さく息を呑んだ。
「あ、あの……、これって……」
「俺にもよく分かんねぇけど……多分杏子のことだと思う」
杏子のことを指しているとしか思えない内容もさることながら、ちょっと前まで羽理のことを好きだと言っていたはずの倍相岳斗の変わり身の早さに、大葉自身驚かされたのだ。
確かに岳斗は、羽理が大葉と恋仲になっていると知って身を引くとは言っていたし、何なら応援だってしてくれると約束してくれた。しかしそれだって今朝部長室で詰めた話だから、羽理はその辺りのやり取りを詳しくは知らないはずなのだ。
少し前まで岳斗から好きだと言われていた羽理が、岳斗からのこのメールを見たらどう思うだろう? と考えたら、杏子のことを示唆している内容もさることながら、羽理至上主義の大葉としては、何となくそちらも気になってしまった。
それで、羽理にこのメールを見せるべきか否かちょっぴり迷ったのだけれど――。
そこで信号が青になって、大葉は羽理の反応を気にしつつも車を発進させる。
「えっと……杏子さんと倍相課長って……」
「多分面識はなかったと思う」
だからこそ、大葉はこのメッセージを見た瞬間、わけが分からなくて「はっ!?」と口走ってしまったのだ。
でももしかしたら年齢が同年代だし同級生だったりしたんだろうか? とも思って。
「とりあえず考えてても答えなんて出ねぇし、マンションに着いたら電話してみるよ」
小さく吐息を落としながらそう告げた大葉に、羽理が恐る恐ると言った様子で「あの……」とつぶやいた。前方を見詰めたまま「ん?」と先を促したら「どちらに?」と不安そうな声が返る。
一瞬『どういう意味だ?』と思った大葉だったのだけれど、すぐにピンときた。
「倍相岳斗の方に決まってるだろ」
「本当に?」
「ああ、本当だ。――正直杏子の方は電話番号すら知らん」
大葉の言葉に羽理が明らかにホッとした様子で肩の力を抜く。その様が、心底愛しく思えた大葉である。
実際、杏子の携帯番号なんて大葉は知らないし、もしかしたら渡されていた資料――釣書――には書いてあったのかもしれないけれど、中を確認していないのだからそれすら不明だ。
恵介伯父に聞けば、杏子の連絡先なんてすぐに分かるだろうが、そこまでする義理はない。
「変なメッセージをしてきたのは岳斗の方だろ? だからそっちに聞くよ」
何気なくそう付け加えたら、「あの……、大葉」と羽理がそっと大葉の太ももに触れてくるから。その小さな手指の感触に大葉はドキドキと胸を跳ねさせた。だが、それと同時――。
「いつの間に倍相課長と、下の名で呼び合うような仲良しさんになられたんですか?」
羽理から、至極ごもっともな質問が投げ掛けられた。
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