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30.失恋のその先

出会い

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(陽が落ちても結構暑いなぁ)

 汗ばんだシャツが身体に張り付くのを、胸元をつまんで空気を取り込みながら荒木あらきさんの家の近くの神社まで来たら、小柄な女性が道端にうずくまっているのが見えた。

 その人影の背格好が、何となく部下の荒木羽理に似ているように思えて、彼女に電話が繋がらなかったことも後押しした岳斗が、『もしかして荒木さん?』とソワソワしながら近付いてみれば、髪の長さが少し違う。

 知り合いじゃないにしても、大人の女性が、道端で四つん這いになったまま動けないなんて普通のことじゃない。

「ねぇキミ。暗くなってきてるのに……女の子がこんな人通りの少ないところに一人で居たら危ないよ? ――もしかして……気分でも悪いの?」

 別に荒木あらきさんでないならば、素知らぬ顔をして通り過ぎても岳斗がくとには何の影響もなかった。だが、何故か妙にそのままにしておけない気がしてしまった。

 岳斗は、基本的に女性があまり好きではない。

 いつも自分の容姿ばかりに惹きつけられて、勝手にこうに違いないと幻想を抱いて、イメージが違ったと言っては勝手に幻滅する。

 いい加減自分の中身を見てくれない、見てくればかりを気にする女性たちには辟易へきえきしていたし、そんな人たち相手に真摯しんしに応対できるほど出来た人間ではない。

 知らない女性に関わるのはそういうリスクを上げることに他ならないから基本的には避けていた岳斗だったのだが。

 自分では、つい声を掛けずにはいられなかった。

 そうして、振り返った彼女の顔を見た瞬間、岳斗は思わず息を呑んだ。

(あ、やばい。この子、めちゃ好みのタイプだ)

 荒木羽理と初めましてをした時に似た感覚に包まれて、岳斗は引き寄せられるように彼女のかたわらにひざを付いていた。

「大丈夫? 怪我したの?」

 すぐそばに寄ったから気付いたけれど、彼女はひざから血を流していた。

「立てる?」

「あ、あの……」

 しかも泣いていたのか、愛らしいアーモンドアイを縁取るまつ毛が涙に濡れているから。岳斗がくとは思い切り庇護欲ひごよくを掻き立てられた。

「ああ、ごめんね。いきなり知らない男に声掛けられたりしたら怖いよね。――えっと……僕はこういう者だよ」

 とりあえずそれがどのくらい役に立つかは分からないけれど、身元を明かす意味も込めていつも持ち歩いている名刺を差し出したら、目の前の女の子は条件反射で受け取ってしまったそれに視線を落とすなり、
「あ、あのっ、……ごめんなさい! 私、今、お名刺を持っていないんです……」
 と申し訳なさそうに眉根を寄せる。

「ああ、そんなこと」

 別に仕事として名刺を差し出したわけじゃない。

 泣き濡れた目をしているというのに、どこかクソ真面目でズレた言動をした目の前の女の子への好感度が、さらにグンと上昇したのを感じた岳斗だ。
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