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30.失恋のその先
イタズラ心
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今日は自分の部署――財務経理課――の部下・荒木羽理が有給休暇で休みだった。
体調不良と言うことだったが、前の日に彼女を見舞っていた倍相岳斗としては思うところがなかったわけじゃない。
(あの後なにがあったかなんて聞かなかったけど……まぁ恋人同士がひとつ屋根の下となれば……お察しだよね)
朝、屋久蓑大葉と話しながらそんなことを考えたのを思い出す。
荒木さんに罪はないけれど、明日には是非とも回復していて欲しい。
そのためにも帰り際、屋久蓑部長に『今日はほどほどにして下さいね?』と軽く釘を刺そうと思っていたのに、終業後所用があって出かけている間に彼は帰ってしまっていた。
大葉、今朝は珍しく遅刻してきていたし、今までの〝屋久蓑部長〟の働き方を思えば、その分――いや、ともするとそれ以上に残業するものだと思っていたのだが、どうやら考えが甘かったらしい。
(家に残して来てる荒木さんが心配だったんでしょうけど)
何だか今までの〝屋久蓑部長〟のイメージとかけ離れ過ぎていて、ちょっと笑ってしまった岳斗だ。
何にせよ、いつもなら法忍仁子と荒木羽理が手分けしてこなしている仕事の大半を法忍さん一人に任せてしまったため、今日は岳斗もそのサポートで結構大変だったのだ。
(荒木さん、前の日にも早退しちゃってたしね)
結果的に法忍さんに物凄い負担を強いてしまった気がして、少し労おうと声を掛けたら「じゃあ夕飯をおごって欲しいです」と言われた。
法忍仁子のことだ。てっきりどこか外食へ連れて行って欲しいと言うのかと思いきや、疲れているから家でのんびり食べたいと言われて、フレンチのテイクアウトをねだられた。
法忍さんにそれを買ってあげて現地解散してから一人帰社してみれば、終業から一時間も経っていないというのに屋久蓑大葉は退社した後だった。
いつもならそれで諦めるところだが、二日連続で見舞いに来ましたなんて言って荒木さんのアパートを訪問したら、大葉さんがどんな反応をするかな? とかちょっとしたイタズラ心が芽生えてしまった。
岳斗は先日みたく荒木羽理の家まで出向いて、二人の間にほんのちょっぴり水を差してやろうと思ったのだけれど――。一応荒木さんには訪問する旨を連絡しておこうと電話をかけてみたら、電源が切れているんだろうか? そんなアナウンスが流れるばかりで一向に繋がらない。
(まさかまた大葉さんと揉めた?)
ふと嫌な予感がした岳斗だったけれど、上司だからか、そんな疑問をぶつけるために大葉へ電話するのは何となく気が引けて。とりあえず荒木さん家へ行ってみようと思った。
***
そんなこんなで愛車に乗ったまま、一度は荒木羽理のアパート前まで来てみた岳斗だったけれど、過日思いのほか長々と路上駐車をしてしまったことを思い出した。
(あれはよくなかったよね)
そう思って、今日は荒木さんのアパート近くのコインパーキングへ車を停めて散歩がてら、歩くことにした。
体調不良と言うことだったが、前の日に彼女を見舞っていた倍相岳斗としては思うところがなかったわけじゃない。
(あの後なにがあったかなんて聞かなかったけど……まぁ恋人同士がひとつ屋根の下となれば……お察しだよね)
朝、屋久蓑大葉と話しながらそんなことを考えたのを思い出す。
荒木さんに罪はないけれど、明日には是非とも回復していて欲しい。
そのためにも帰り際、屋久蓑部長に『今日はほどほどにして下さいね?』と軽く釘を刺そうと思っていたのに、終業後所用があって出かけている間に彼は帰ってしまっていた。
大葉、今朝は珍しく遅刻してきていたし、今までの〝屋久蓑部長〟の働き方を思えば、その分――いや、ともするとそれ以上に残業するものだと思っていたのだが、どうやら考えが甘かったらしい。
(家に残して来てる荒木さんが心配だったんでしょうけど)
何だか今までの〝屋久蓑部長〟のイメージとかけ離れ過ぎていて、ちょっと笑ってしまった岳斗だ。
何にせよ、いつもなら法忍仁子と荒木羽理が手分けしてこなしている仕事の大半を法忍さん一人に任せてしまったため、今日は岳斗もそのサポートで結構大変だったのだ。
(荒木さん、前の日にも早退しちゃってたしね)
結果的に法忍さんに物凄い負担を強いてしまった気がして、少し労おうと声を掛けたら「じゃあ夕飯をおごって欲しいです」と言われた。
法忍仁子のことだ。てっきりどこか外食へ連れて行って欲しいと言うのかと思いきや、疲れているから家でのんびり食べたいと言われて、フレンチのテイクアウトをねだられた。
法忍さんにそれを買ってあげて現地解散してから一人帰社してみれば、終業から一時間も経っていないというのに屋久蓑大葉は退社した後だった。
いつもならそれで諦めるところだが、二日連続で見舞いに来ましたなんて言って荒木さんのアパートを訪問したら、大葉さんがどんな反応をするかな? とかちょっとしたイタズラ心が芽生えてしまった。
岳斗は先日みたく荒木羽理の家まで出向いて、二人の間にほんのちょっぴり水を差してやろうと思ったのだけれど――。一応荒木さんには訪問する旨を連絡しておこうと電話をかけてみたら、電源が切れているんだろうか? そんなアナウンスが流れるばかりで一向に繋がらない。
(まさかまた大葉さんと揉めた?)
ふと嫌な予感がした岳斗だったけれど、上司だからか、そんな疑問をぶつけるために大葉へ電話するのは何となく気が引けて。とりあえず荒木さん家へ行ってみようと思った。
***
そんなこんなで愛車に乗ったまま、一度は荒木羽理のアパート前まで来てみた岳斗だったけれど、過日思いのほか長々と路上駐車をしてしまったことを思い出した。
(あれはよくなかったよね)
そう思って、今日は荒木さんのアパート近くのコインパーキングへ車を停めて散歩がてら、歩くことにした。
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