201 / 292
29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに
お前一人だけ
しおりを挟む
「その……、あれだ。お前、昨夜俺に、その、……あー、だっ、だ、……かれてくれただろ?」
「だ、……かれて……?」
大葉の言葉を何の気なしにオウム返ししてから、羽理はしどろもどろに告げられたそれが、『抱かれてくれた』だと認識したらしい。ぶわっと耳まで真っ赤にして、何故か背後にいる柚子たちを気にする素振りをする。
その不可解な行動に大葉がキョトンとしたら、
「あの、私の不調の原因……柚子お姉さま……気付いて、ました……」
とか言われて、一瞬遅れて羽理の言葉を理解した大葉は「まじか……」と盛大に溜め息を落とした。
あとで柚子から色々言われるのは必至だと諦めつつも、大葉はもう一人の姉――七味から言われたことを思い出す。
「まぁ、それはあれとして……その、……と、とにかく! お前が俺に全部委ねてくれたから……。だから俺もちゃんとけじめ付けなきゃいけないなって思ったんだ」
羽理に結婚を申し込んで承諾してもらって……そのまま彼女の〝初めて〟までもらってしまったのだ。伯父から持ち掛けられていた見合い話を宙ぶらりんにしておくのは、男として余りにも不誠実ではないか。
「今日会社へ行って社長に……っていうか伯父に会ったのは羽理にプロポーズしてOKもらえたって報告と、だから見合いは出来ないってハッキリ伝えるためだ」
「本当……?」
「ああ、本当だ。何なら今から恵介伯父さんに電話して確認してもらったって構わねぇよ。大体今日こんな格好をしたのだって、伯父さんに俺の本気を分かってもらうためだったし」
色々ありすぎて汗だくになってしまったからヨレヨレ感は否めない。けれど、スーツにきっちりネクタイまで締めた自分の姿を見下ろしたら、不意に羽理がギュウッとしがみ付いてきた。
スリスリと大葉の胸元におでこを擦りつけるようにしながら、「かっこいい」と言ってくれて――。
今まで大葉の手に怯えて隅の方へうずくまって震えていたように見えた仔猫が、やっと気を許してすり寄ってきてくれたような……そんな錯覚を覚えた大葉だ。当然のように甘えん坊な仔猫ちゃんに思いっきりハートを鷲掴みにされてしまう。
大葉は羽理の背中を片腕でギュウッと抱き締めると、思いっきり照れまくっている顔を見られないよう彼女の後頭部を自分の胸へ押さえつけるようにしながら言った。
「羽理。俺が甘やかしたいのも可愛がりたいのも……一生そばにいて欲しい、結婚して欲しいって思えるのも……お前一人だけだ。……愛してる」
「だ、……かれて……?」
大葉の言葉を何の気なしにオウム返ししてから、羽理はしどろもどろに告げられたそれが、『抱かれてくれた』だと認識したらしい。ぶわっと耳まで真っ赤にして、何故か背後にいる柚子たちを気にする素振りをする。
その不可解な行動に大葉がキョトンとしたら、
「あの、私の不調の原因……柚子お姉さま……気付いて、ました……」
とか言われて、一瞬遅れて羽理の言葉を理解した大葉は「まじか……」と盛大に溜め息を落とした。
あとで柚子から色々言われるのは必至だと諦めつつも、大葉はもう一人の姉――七味から言われたことを思い出す。
「まぁ、それはあれとして……その、……と、とにかく! お前が俺に全部委ねてくれたから……。だから俺もちゃんとけじめ付けなきゃいけないなって思ったんだ」
羽理に結婚を申し込んで承諾してもらって……そのまま彼女の〝初めて〟までもらってしまったのだ。伯父から持ち掛けられていた見合い話を宙ぶらりんにしておくのは、男として余りにも不誠実ではないか。
「今日会社へ行って社長に……っていうか伯父に会ったのは羽理にプロポーズしてOKもらえたって報告と、だから見合いは出来ないってハッキリ伝えるためだ」
「本当……?」
「ああ、本当だ。何なら今から恵介伯父さんに電話して確認してもらったって構わねぇよ。大体今日こんな格好をしたのだって、伯父さんに俺の本気を分かってもらうためだったし」
色々ありすぎて汗だくになってしまったからヨレヨレ感は否めない。けれど、スーツにきっちりネクタイまで締めた自分の姿を見下ろしたら、不意に羽理がギュウッとしがみ付いてきた。
スリスリと大葉の胸元におでこを擦りつけるようにしながら、「かっこいい」と言ってくれて――。
今まで大葉の手に怯えて隅の方へうずくまって震えていたように見えた仔猫が、やっと気を許してすり寄ってきてくれたような……そんな錯覚を覚えた大葉だ。当然のように甘えん坊な仔猫ちゃんに思いっきりハートを鷲掴みにされてしまう。
大葉は羽理の背中を片腕でギュウッと抱き締めると、思いっきり照れまくっている顔を見られないよう彼女の後頭部を自分の胸へ押さえつけるようにしながら言った。
「羽理。俺が甘やかしたいのも可愛がりたいのも……一生そばにいて欲しい、結婚して欲しいって思えるのも……お前一人だけだ。……愛してる」
21
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる