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29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

お前一人だけ

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「その……、あれだ。お前、昨夜俺に、その、……あー、だっ、だ、……かれてくれただろ?」

「だ、……かれて……?」

 大葉たいようの言葉を何の気なしにオウム返ししてから、羽理うりはしどろもどろに告げられたそれが、『抱かれてくれた』だと認識したらしい。ぶわっと耳まで真っ赤にして、何故か背後にいる柚子ゆずたちを気にする素振りをする。

 その不可解な行動に大葉たいようがキョトンとしたら、
「あの、私の不調の原因……柚子お姉さま……気付いて、ました……」
 とか言われて、一瞬遅れて羽理の言葉を理解した大葉たいようは「まじか……」と盛大に溜め息を落とした。

 あとで柚子から色々言われるのは必至だと諦めつつも、大葉たいようはもう一人の姉――七味ななみから言われたことを思い出す。

「まぁ、それはあれとして……その、……と、とにかく! お前が俺に全部ゆだねてくれたから……。だから俺もちゃんとけじめ付けなきゃいけないなって思ったんだ」

 羽理に結婚を申し込んで承諾しょうだくしてもらって……そのまま彼女の〝初めて〟までもらってしまったのだ。伯父から持ち掛けられていた見合い話を宙ぶらりんにしておくのは、男として余りにも不誠実ではないか。

「今日会社へ行って社長に……っていうか伯父に会ったのは羽理にプロポーズしてOKもらえたって報告と、だから見合いは出来ないってハッキリ伝えるためだ」

「本当……?」

「ああ、本当だ。何なら今から恵介伯父さんに電話して確認してもらったって構わねぇよ。大体今日こんな格好をしたのだって、伯父さんに俺の本気を分かってもらうためだったし」

 色々ありすぎて汗だくになってしまったからヨレヨレ感は否めない。けれど、スーツにきっちりネクタイまで締めた自分の姿を見下ろしたら、不意に羽理がギュウッとしがみ付いてきた。

 スリスリと大葉たいようの胸元におでこを擦りつけるようにしながら、「かっこいい」と言ってくれて――。

 今まで大葉たいようの手におびえて隅の方へうずくまって震えていたように見えた仔猫が、やっと気を許してすり寄ってきてくれたような……そんな錯覚を覚えた大葉たいようだ。当然のように甘えん坊な仔猫ちゃんに思いっきりハートを鷲掴わしづかみにされてしまう。

 大葉たいようは羽理の背中を片腕でギュウッと抱き締めると、思いっきり照れまくっている顔を見られないよう彼女の後頭部を自分の胸へ押さえつけるようにしながら言った。

「羽理。俺が甘やかしたいのも可愛がりたいのも……一生そばにいて欲しい、結婚して欲しいって思えるのも……お前一人だけだ。……愛してる」
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