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29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

嘘偽らざる気持ち

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「さっきの俺の言葉、聞いてたか? 俺は……羽理うりにしか興味ない。見合い相手だったらしい彼女は確かに幼い頃を知ってる子だけど、ホントにそれだけなんだ。今更言い寄られた所で何とも思わないし、好みのタイプだって言われてもピンとこねぇ」

 そこまで言って、大葉たいようはずっと黙ったままの羽理をくるりと自分の方へ向き直させると、両腕に手を添えるように彼女を捕まえたまま、じっと羽理の顔を見下ろした。

 涙で泣き濡れたアーモンドアイは、大葉たいようが如何に羽理のことを傷付けたのかを如実に物語っているようで、胸がチクチクと痛む。

 でもそれと同じくらい、愛する羽理の心を、自分がこんなにも揺さぶることが出来たんだと思うと嬉しくもあって。


「本当……?」

 そんな、愛しくてたまらない羽理にうるんとした瞳で見詰められた大葉たいようは、「当たり前だろ」と即答した。

「見合いの話をしていなかったのも、隠そうとして黙ってたわけじゃねぇよ。うちの社長が俺の身内だってお前が知ってると思わなかったから……ただ単に要らん心配を掛けたくなかっただけだ。黙って見合いして、あわよくば羽理と見合い相手とに二股掛けてやろうとか……そんな七面倒しちめんどうくさいことは思ってねぇから」

 じっと真摯しんしなまなざしで羽理を見下ろせば、ややして大葉たいようの言葉に羽理がこくんと素直にうなずいてくれる。その愛らしい仕草にどうしても我慢出来なくなった大葉たいようは、羽理の頭頂部に吸い寄せられるように唇を押し当てて「ホント可愛いな……」とつぶやかずにはいられなかった。

 脈絡のない大葉たいようからの言動に、羽理がソワソワと戸惑うのを見下ろしながら、大葉たいよう実家ここへたどり着くまでの道すがら、羽理に告げねばと思っていたことを全部言おう! と思う。

「もともと見合い話自体、きてすぐ必要ないって突っぱねてたんだ。それを伯父がどうしてもって引き下がらなくて書類を押し付けられてたんだけどな。忙しさにかまけて机ん中に放りっぱなしになってた。けど――」

「けど?」

「羽理にプロポーズしてOKもらえて……その、……だ、……」

「だ……?」

 サラリと嬉しかった気持ちを言ってしまおうと思ったのに、猫みたいにまぁるくて綺麗な羽理うりの目で見上げられたら、言葉がつっかえてしまった。そのせいで昨夜のことをやたら意識してしまった大葉たいようは、見下ろした羽理の髪の毛の隙間からちらりと見えた首筋の鬱血痕キスマークに、〝面映おもはゆボルテージ〟が振り切れてしまう。
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