上 下
195 / 233
29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに

再びのフォーリンラブ

しおりを挟む
「……っ!」

 そんなことを思いながら、父親に差し出されたL判サイズより一回りくらい大きい二つ折り台紙を半ばしぶしぶ開いてみた杏子あんずは、思わず言葉を失ったのだ。

(やだっ。何これ……。たいくん、こんなハンサムになってるだなんて、私、聞いてない!)

 思い出の中の大葉たいようも確かに物凄く浮世離れした美形で、幼心おさなごころに『こんな人と結婚したい!』と思ったのを覚えている。

 実際、『アン、おっきくなったらたいくんのおヨメしゃになる!』と宣言して、彼のお姉さんたちからワイワイと騒ぎ立てられたのは三歳か、四歳のときだったか。
 お姉さま方二人によって、お姫様に仕立てられた杏子の横へ王子様に見立てられた大葉たいようが据えられたのは、その言葉の影響が大きかった。

 結局〝たいくん〟は一度も杏子の求愛にうなずいてくれたことはなかったのだけれど――。

 考えてみれば、小学校にも上がっていないような小さな女の子から好き好き言われた大葉たいようは、さぞや困ったことだろう。

 幼い頃の六歳差は、大人になってからのそれより遥かに大きい。
 でも、今ならもしかしたら――。

 土井さんが自分との見合いを二つ返事で受け入れてくれたというのなら、きっとたいくんは今、フリーなのだ。

 杏子は大葉たいようの写真を見て、子供の頃のイメージを崩すことなく……いや、むしろ何億倍もカッコよくて優しそうなイケメンへと成長した〝初恋の君〟に、一瞬にしてもう一度心奪われたのだった。


***


 土井恵介に、杏子あんずの父、美住みすみ大地だいちが釣書を渡して二ヶ月余りが過ぎた。

 その間、杏子はいつ先方から見合いの日取りなどが打診されてくるかとソワソワして過ごした。
 断られるならばきっと、書類を渡してすぐにそういう話があるはずだろうし、それがないということは、大葉たいようが忙しくてなかなか日取りの調整がつかないということなんだろう。
 何でも父親の話によると、たいくん――こと屋久蓑やくみの大葉たいようは、伯父である土井恵介が経営する会社で、〝ナニヤラ部長様〟をやっているということだったから、平社員と違って忙しいに違いない。

「ねぇ、美住さん、聞いてる?」
 勤め先で、同僚らとランチしているときにそんなことを言われる頻度ひんどが増して、気持ちがそぞろでいけない、と思うことが多くなってきた頃――。

 仕事後、カバンに仕舞い込んでいた携帯電話を取り出してみると、父からの着信に混ざって見知らぬ番号からの着信履歴と、『美住杏子さんのお電話ですか? 土井恵介です。またこちらからご連絡致します』という留守番電話が残っていた。

(やっとたいくんとのお見合いの日取りについての連絡がきたんだ!)

 待ちに待った土井恵介からの連絡に、杏子は父へ折り返すよりも先にメッセージを残してくれていた土井恵介の方へ電話を掛けようと心に決める。録音にはあちらから折り返すとあったけれど、待ちきれなかったのだ。

 とはいえ、相手は大会社の社長様。忙しくて出てくれないかも? とソワソワしたのだけれど、コール数回で無事に繋がってホッとする。

『――もしもし、アンちゃん? ごめんね、折り返してくれたんだね』

 電話口から聴こえてきた柔らかな土井恵介の声に、杏子は緊張に震えながらも「はい、あ、杏子です。そのっ、お電話を頂いていたので、待ちきれずに掛け直してしまいました。……えっと、今、お時間大丈夫ですか?」と問い掛けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽りの婚姻

迷い人
ファンタジー
ルーペンス国とその南国に位置する国々との長きに渡る戦争が終わりをつげ、終戦協定が結ばれた祝いの席。 終戦の祝賀会の場で『パーシヴァル・フォン・ヘルムート伯爵』は、10年前に結婚して以来1度も会話をしていない妻『シヴィル』を、祝賀会の会場で探していた。 夫が多大な功績をたてた場で、祝わぬ妻などいるはずがない。 パーシヴァルは妻を探す。 妻の実家から受けた援助を返済し、離婚を申し立てるために。 だが、妻と思っていた相手との間に、婚姻の事実はなかった。 婚姻の事実がないのなら、借金を返す相手がいないのなら、自由になればいいという者もいるが、パーシヴァルは妻と思っていた女性シヴィルを探しそして思いを伝えようとしたのだが……

騙されて異世界へ

だんご
ファンタジー
日帰りツアーに参加したのだが、気付けばツアー客がいない。 焦りながら、来た道を戻り始めるが、どんどん森が深くなり…… 出会った蛾?に騙されて、いつの間にか異世界まで連れられ、放り出され…… またしても、どこかの森に迷い込んでしまった。 どうすれば帰れるのか試行錯誤をするが、どんどん深みにハマり……生きて帰れるのだろうか?

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

転移したら獣人たちに溺愛されました。

なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。 気がついたら僕は知らない場所にいた。 両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。 この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。 可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。 知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。 年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。 初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。 表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。

皇子様、もう一度あなたを好きになっても良いですか?~ループを繰り返す嫌われ皇太子妃の二度目の初恋~

せい
恋愛
皇太子であるアドリアン・アルフォールと王命により結婚をした主人公のイヴェット・コルベール。 初恋の相手である彼と結婚ができて幸せになれると思ったが、彼には既に心に決めた女性がいた。 その女性は、彼の補佐官であり、幼馴染でいつもアドリアンの傍にいる。 イヴェットは辛い日々を送っていたが、我慢した。いつの日かその瞳が自分へと向けてほしいという事を願いながら。 しかし、その願いは叶う事はなかった。結婚して二年が経ったある日、イヴェットは何者かの手によってあっさりと殺されてしまったからだ。 死んだと思ったのも束の間、なぜか結婚式当日に時が巻き戻っていた。最初は混乱したイヴェットだったが、これは神様がくれたチャンスだと思い、今度こそ間違えないと奮闘するも、またもや結婚して二年後に命を落とす。 何度頑張っても二年後に殺されるイヴェットは六回目にとうとう限界がきて、アドリアンへ全てを打ち明けたが裏切られてしまい、イヴェットの心は完全に壊れてしまう。 全て他人に命を奪われてきたイヴェット七回目の人生は自分の手で終わらせたいと思い、自殺を図る。 幸いにも怪我だけで済んだイヴェットだったがなんと彼女は6歳以降の記憶を失くしていた。 辛かった日々の記憶を忘れているイヴェットはまたしてもアドリアンの事を好きになってしまうのだった。 ※小説家になろう様にも投稿しております。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

魔法使いに育てられた少女、男装して第一皇子専属魔法使いとなる。

山法師
ファンタジー
 ウェスカンタナ大陸にある大国の一つ、グロサルト皇国。その国の東の国境の山に、アルニカという少女が住んでいた。ベンディゲイドブランという老人と二人で暮らしていたアルニカのもとに、突然、この国の第一皇子、フィリベルト・グロサルトがやって来る。  彼は、こう言った。 「ベンディゲイドブラン殿、あなたのお弟子さんに、私の専属魔法使いになっていただきたいのですが」

処理中です...