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29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに
お見合い回避のための嘘だったのに
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「私、小さい頃からずっとずっとたいくんが好きなの! 彼以外とは結婚したくない!」
そんなワガママを言ったところで自分は一介のサラリーマンの娘。
対して初恋相手のたいくん――こと屋久蓑大葉は大きなお屋敷の跡取り息子で、母方は農業を営む大地主。父方も地元では名の知れた名士のお家柄というサラブレッド。加えて母方の伯父さまが経営しているという商社は、今や全国展開にまで成長した大きな会社ときている。
一般家庭育ちで父子家庭の杏子が、そんな大葉のお嫁さん候補になれる可能性はゼロに近いはずだった。
そもそも自分が大葉と接点があったのは、杏子が二歳、大葉が八歳の頃からのほんの数年間と言う束の間だけ。
大葉の母方の伯父――土井恵介の自宅近所に住んでいたよしみ。母親を亡くしたばかりで父子家庭になってしまった杏子を、独身のくせに子煩悩だった恵介が自分の姪・甥と一緒に面倒を見てくれていたことが接点に過ぎない。
当時、屋久蓑家のお姉さん二人には物凄く可愛がられた記憶がある。
杏子ではとても手に入れられないようなハイブランドの可愛いお洋服を沢山着せてもらえたし、王子様みたいにかっこいい大葉と並べられて、お姫様扱いをしてもらえたのが凄く凄く嬉しかった。
杏子が、母親が亡くなっても明るく笑っていられる女の子でいられたのはきっと、屋久蓑三姉妹弟のおかげなのだ。
そんなお姉さんたち二人は、どちらも早くによそのお宅へ嫁がれたと風の噂に聞いた。
となると、やはり大葉が屋久蓑家を継ぐんだろう。
きっと、杏子なんて相手にされないに違いない。
そう思っていたのだけれど――。
***
「杏子、この前たまたま家の前で土井さんにバッタリお会いしてな。お前の話をして大葉くんのお相手にどうかと話したら『アンちゃんなら』って言ってくださってなぁ。見合い話、大葉くんに勧めてみてくれるって約束して下さったぞ!? あ、今更だろうがこれ、今の大葉くんの写真な?」
ご丁寧に、杏子の釣書はすでに土井恵介に渡してあるらしい。
いつの間に釣書を!? と思った杏子だったけれど、父はあれだけ再三に渡って見合い話を勧めてきていたのだ。釣書のひとつやふたつ、とっくの昔に準備してあっても不思議ではないと吐息を落とした。
『たいくんが好き! 彼以外とは結婚したくない!』だなんて、埃が降り積もるぐらいの遠い過去――幼い頃に持ち合わせていた恋心を盾に、見合い話を回避しようと画策した杏子だったけれど、どうやら天は自分の味方をしてくれないらしい。
第一、実際のところ長じてからの〝大葉〟のことを杏子は知らないのだ。
小さい頃とびきりの美形だったからといって、大人になってもそれを維持したままとは限らないではないか。
(禿げてたり太ってたりしてたら嫌だなぁ)
――美しい思い出はできれば穢したくない。
後にも先にも大葉のように整った顔立ちをした男の子を、杏子は見たことがなかったから。その美しい記憶を、下手なデータで上書きしたくないな? と思ってしまった。
そんなワガママを言ったところで自分は一介のサラリーマンの娘。
対して初恋相手のたいくん――こと屋久蓑大葉は大きなお屋敷の跡取り息子で、母方は農業を営む大地主。父方も地元では名の知れた名士のお家柄というサラブレッド。加えて母方の伯父さまが経営しているという商社は、今や全国展開にまで成長した大きな会社ときている。
一般家庭育ちで父子家庭の杏子が、そんな大葉のお嫁さん候補になれる可能性はゼロに近いはずだった。
そもそも自分が大葉と接点があったのは、杏子が二歳、大葉が八歳の頃からのほんの数年間と言う束の間だけ。
大葉の母方の伯父――土井恵介の自宅近所に住んでいたよしみ。母親を亡くしたばかりで父子家庭になってしまった杏子を、独身のくせに子煩悩だった恵介が自分の姪・甥と一緒に面倒を見てくれていたことが接点に過ぎない。
当時、屋久蓑家のお姉さん二人には物凄く可愛がられた記憶がある。
杏子ではとても手に入れられないようなハイブランドの可愛いお洋服を沢山着せてもらえたし、王子様みたいにかっこいい大葉と並べられて、お姫様扱いをしてもらえたのが凄く凄く嬉しかった。
杏子が、母親が亡くなっても明るく笑っていられる女の子でいられたのはきっと、屋久蓑三姉妹弟のおかげなのだ。
そんなお姉さんたち二人は、どちらも早くによそのお宅へ嫁がれたと風の噂に聞いた。
となると、やはり大葉が屋久蓑家を継ぐんだろう。
きっと、杏子なんて相手にされないに違いない。
そう思っていたのだけれど――。
***
「杏子、この前たまたま家の前で土井さんにバッタリお会いしてな。お前の話をして大葉くんのお相手にどうかと話したら『アンちゃんなら』って言ってくださってなぁ。見合い話、大葉くんに勧めてみてくれるって約束して下さったぞ!? あ、今更だろうがこれ、今の大葉くんの写真な?」
ご丁寧に、杏子の釣書はすでに土井恵介に渡してあるらしい。
いつの間に釣書を!? と思った杏子だったけれど、父はあれだけ再三に渡って見合い話を勧めてきていたのだ。釣書のひとつやふたつ、とっくの昔に準備してあっても不思議ではないと吐息を落とした。
『たいくんが好き! 彼以外とは結婚したくない!』だなんて、埃が降り積もるぐらいの遠い過去――幼い頃に持ち合わせていた恋心を盾に、見合い話を回避しようと画策した杏子だったけれど、どうやら天は自分の味方をしてくれないらしい。
第一、実際のところ長じてからの〝大葉〟のことを杏子は知らないのだ。
小さい頃とびきりの美形だったからといって、大人になってもそれを維持したままとは限らないではないか。
(禿げてたり太ってたりしてたら嫌だなぁ)
――美しい思い出はできれば穢したくない。
後にも先にも大葉のように整った顔立ちをした男の子を、杏子は見たことがなかったから。その美しい記憶を、下手なデータで上書きしたくないな? と思ってしまった。
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