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29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに
非力な村人A
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***
「暑っ」
このところ日の入りが遅い。つい先日梅雨に入ったばかりの今時分は十九時過ぎころまで明るいから、十八時にもならない時間帯は晴天だと結構日差しにさらされる。
長く伸びた愛犬と自分の影を背後に長く引きずって歩きながら、大葉はうんざりした顔で西の空に傾きつつある太陽を眺めた。
今年は空梅雨との予測で、梅雨の間も雨が余り降りそうにないらしい。現に明日も快晴とまではいかずとも、薄曇りの空模様らしい。
にわか雨くらいきてくれれば少しは涼しくなりそうだが、傘などを持参しているわけではないので、やっぱりそれは困るなと思って。
そのくせ雨雲の気配が感じられない空はどこかまぶしくて、大葉は少しグレイ掛かって見える天を見上げて小さく吐息を落とした。
何となく降りそうかも? と期待させるくせに、実際は雨粒が落ちてこないからだろうか。やたらと湿度が高くて、ちょっと動いただけでじっとりと嫌な汗をかくのが不快で仕方ない。
(梅雨に雨が降らねぇと農家は水やり大変だろうな)
作業が、というより主に水道代が嵩むのが心配だ。
掛かった経費を即座に売価へ反映出来ればいいのだが、なかなかそうはいかない。
農家と販売店との橋渡しをすることもある土恵商事としても、頭の痛い問題である。
(あー、実家に着いたら俺の畑にも水やっとかねぇと)
最近その辺がおざなりなことをふと思い出して、どれだけ羽理に掛かり切りなんだろうと、思わず苦笑する。
そんな大葉にとって、今現在最も悩ましい問題は、言うまでもなく羽理とのことだ。
『……大葉のバカ! 嘘つき! 私を泣かせたのは貴方だもん! 大嫌い!』
電話を切られる間際、羽理に投げつけられた言葉を思い出して「はぁーっ」と盛大に溜め息を落とすと、大葉は母や姉とともに実家にいるはずの羽理に思いをはせる。
(おふくろが混ざってるってのが……イヤな予感しかしねぇ)
七味に諭されて自分が悪いというのは重々自覚した大葉だが、実際問題〝魔王城〟に赴く非力な村人Aくらいの不安な気持ちだ。
「マジ勇者になりてぇ……」
なんて情けないつぶやきを落とした大葉を、愛犬キュウリがキョトンとした様子で振り返った。
「あー、ウリちゃん、パパのことは気にしないでくだちゃい」
その視線に、大葉は眉根を寄せて愛犬キュウリが佇んだすぐそばにしゃがみ込むと、手のひらをアスファルトに押し当てて地べたの温度チェックをした。
夏の散歩中には、ちょいちょいそんなことをして、キュウリの足の裏が火傷したりしないよう気遣っているのだが。
「ちと熱いか」
そう思った大葉は、キュウリをそっと抱き上げた。
大葉より体温の高いキュウリは、抱くと湯たんぽ張りに温かくて、スーツを着ているから余計にじっとりと汗ばんでくる。
大葉を気遣うように、キュウリにぺろぺろと手の甲を舐められたけれど、その舌にしたって燃えるように熱い。
(早く実家にたどり着かねぇとなぁ)
母親と姉に囲まれるのは嫌だけど、キュウリを早く涼ませてやりたいという気持ちもある、何ともジレンマな大葉だった。
「暑っ」
このところ日の入りが遅い。つい先日梅雨に入ったばかりの今時分は十九時過ぎころまで明るいから、十八時にもならない時間帯は晴天だと結構日差しにさらされる。
長く伸びた愛犬と自分の影を背後に長く引きずって歩きながら、大葉はうんざりした顔で西の空に傾きつつある太陽を眺めた。
今年は空梅雨との予測で、梅雨の間も雨が余り降りそうにないらしい。現に明日も快晴とまではいかずとも、薄曇りの空模様らしい。
にわか雨くらいきてくれれば少しは涼しくなりそうだが、傘などを持参しているわけではないので、やっぱりそれは困るなと思って。
そのくせ雨雲の気配が感じられない空はどこかまぶしくて、大葉は少しグレイ掛かって見える天を見上げて小さく吐息を落とした。
何となく降りそうかも? と期待させるくせに、実際は雨粒が落ちてこないからだろうか。やたらと湿度が高くて、ちょっと動いただけでじっとりと嫌な汗をかくのが不快で仕方ない。
(梅雨に雨が降らねぇと農家は水やり大変だろうな)
作業が、というより主に水道代が嵩むのが心配だ。
掛かった経費を即座に売価へ反映出来ればいいのだが、なかなかそうはいかない。
農家と販売店との橋渡しをすることもある土恵商事としても、頭の痛い問題である。
(あー、実家に着いたら俺の畑にも水やっとかねぇと)
最近その辺がおざなりなことをふと思い出して、どれだけ羽理に掛かり切りなんだろうと、思わず苦笑する。
そんな大葉にとって、今現在最も悩ましい問題は、言うまでもなく羽理とのことだ。
『……大葉のバカ! 嘘つき! 私を泣かせたのは貴方だもん! 大嫌い!』
電話を切られる間際、羽理に投げつけられた言葉を思い出して「はぁーっ」と盛大に溜め息を落とすと、大葉は母や姉とともに実家にいるはずの羽理に思いをはせる。
(おふくろが混ざってるってのが……イヤな予感しかしねぇ)
七味に諭されて自分が悪いというのは重々自覚した大葉だが、実際問題〝魔王城〟に赴く非力な村人Aくらいの不安な気持ちだ。
「マジ勇者になりてぇ……」
なんて情けないつぶやきを落とした大葉を、愛犬キュウリがキョトンとした様子で振り返った。
「あー、ウリちゃん、パパのことは気にしないでくだちゃい」
その視線に、大葉は眉根を寄せて愛犬キュウリが佇んだすぐそばにしゃがみ込むと、手のひらをアスファルトに押し当てて地べたの温度チェックをした。
夏の散歩中には、ちょいちょいそんなことをして、キュウリの足の裏が火傷したりしないよう気遣っているのだが。
「ちと熱いか」
そう思った大葉は、キュウリをそっと抱き上げた。
大葉より体温の高いキュウリは、抱くと湯たんぽ張りに温かくて、スーツを着ているから余計にじっとりと汗ばんでくる。
大葉を気遣うように、キュウリにぺろぺろと手の甲を舐められたけれど、その舌にしたって燃えるように熱い。
(早く実家にたどり着かねぇとなぁ)
母親と姉に囲まれるのは嫌だけど、キュウリを早く涼ませてやりたいという気持ちもある、何ともジレンマな大葉だった。
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