189 / 279
29.心配しなくていいと伝えたいだけなのに
怒涛の質問攻め
しおりを挟む
「羽理ちゃーん、食べられないものあるー?」
「何でも食べられます! アレルギーもありません!」
「そう。それは幸せなことね?」
「はい、幸せです!」
のほほんとした調子で色々聞いてくる美魔女の問い掛けに応じながら、羽理は内心ざわざわして落ち着かない。
(何でこんなことになってるのー?)
本当なら大葉との電話を切った後、羽理はすぐにでも柚子に自宅まで送り届けてもらうつもりだったのだ。
(今頃お風呂上がりのイチゴミルクを飲みながら、Web小説にモヤモヤをぶつけてる予定だったのよぅ!)
大葉が仕事をしている間に入浴を済ませて、〝猫神様のお導き〟もシャットアウトした状態で、このどうしようもない気持ちをバネに、小説を書くつもりだった。
なのにお暇しようとした矢先、多忙なはずの屋久蓑果恵が帰宅してきて、庭先――例の家庭菜園が見える辺り――で鉢合わせしてしまったのは一体何の因果だろう?
一瞬柚子お義姉さまの仕業かと疑った羽理だったけれど、柚子も驚いた顔をしていたので、彼女が呼び寄せたわけでもないらしい。
でも――。
「ふふっ。そう、貴女がたいちゃんのぉー♪ やーん、話に聞いてたより断然可愛いじゃなーい! あ。私、屋久蓑果恵。そこにいる柚子と、大葉、それからもう一人しっかり者の娘の母親なんてやらせてもらってるわ。よろしくね。――えっと、羽理ちゃんだっけ? せっかく会えたんですもの。夕飯でも食べながらお話しましょう?」
「え、え、あのっ、私……」
本当はプンスカして帰路に就くところだったはずなのに、すっかり果恵のペースに巻き込まれた羽理は、果恵にギュッと腕を掴まれながら「あ、あの、柚子お義姉さま……!」と、すぐ横に立つ柚子へ助けを求めたのだけれど――。
柚子は「ごめんね、羽理ちゃん」と苦笑して、アッサリと敗北宣言をしてしまった。
そんなわけで、何故か何の説明もしていないのに「羽理」という名前はおろか、目の前の小娘が息子とお付き合いしていることも知っているといった口振りの、超ご機嫌な果恵に家の中へ引き戻されて――。
気が付けば、羽理は股関節などの痛みすら感じる隙も与えられないぐらいに、義母(予定)からの怒涛の質問攻めに晒されている。
***
「で? 付き合おうってアプローチしたのはやっぱりうちの子から?」
「あ、いえ」
「なぁに? あの子、もしかして羽理ちゃんに告白させたの?」
「あ、いえ、……あの、そうじゃなくて」
「あのね、お母さん、たいちゃんったら『俺と付き合って下さい!』をすっ飛ばしていきなりプロポーズしたみたいなの」
羽理が答えに詰まってオロオロと柚子を見つめたら、冷凍室から見慣れた容器を取り出した柚子が、苦笑まじりに助け舟を出してくれた。
容器の中身は、恐らく大葉が作り置きしているというおかずが入っているんだろう。
「えっ!? あの子、お見合いでもないのにいきなり結婚を申し込んだの!?」
目を真ん丸に見開いた母親の反応が楽しくてたまらないみたいにクスクス笑うと、「ね? どんだけ羽理ちゃんが好きなのって感じでしょう? テンパり過ぎてて逆に可愛いんだけど」と、柚子が羽理に意味深な視線を投げかけてくる。
きっと、期せずして果恵の口から〝お見合い〟の文言が出たことで、大葉がそれを黙っていたことも、羽理が思っているほど悪意あってのことじゃないと思うのよ? とでも言いたいんだろう。そんな柚子からの眼差しに、羽理は心の中で『でも……』と唇をとがらせた。
「何でも食べられます! アレルギーもありません!」
「そう。それは幸せなことね?」
「はい、幸せです!」
のほほんとした調子で色々聞いてくる美魔女の問い掛けに応じながら、羽理は内心ざわざわして落ち着かない。
(何でこんなことになってるのー?)
本当なら大葉との電話を切った後、羽理はすぐにでも柚子に自宅まで送り届けてもらうつもりだったのだ。
(今頃お風呂上がりのイチゴミルクを飲みながら、Web小説にモヤモヤをぶつけてる予定だったのよぅ!)
大葉が仕事をしている間に入浴を済ませて、〝猫神様のお導き〟もシャットアウトした状態で、このどうしようもない気持ちをバネに、小説を書くつもりだった。
なのにお暇しようとした矢先、多忙なはずの屋久蓑果恵が帰宅してきて、庭先――例の家庭菜園が見える辺り――で鉢合わせしてしまったのは一体何の因果だろう?
一瞬柚子お義姉さまの仕業かと疑った羽理だったけれど、柚子も驚いた顔をしていたので、彼女が呼び寄せたわけでもないらしい。
でも――。
「ふふっ。そう、貴女がたいちゃんのぉー♪ やーん、話に聞いてたより断然可愛いじゃなーい! あ。私、屋久蓑果恵。そこにいる柚子と、大葉、それからもう一人しっかり者の娘の母親なんてやらせてもらってるわ。よろしくね。――えっと、羽理ちゃんだっけ? せっかく会えたんですもの。夕飯でも食べながらお話しましょう?」
「え、え、あのっ、私……」
本当はプンスカして帰路に就くところだったはずなのに、すっかり果恵のペースに巻き込まれた羽理は、果恵にギュッと腕を掴まれながら「あ、あの、柚子お義姉さま……!」と、すぐ横に立つ柚子へ助けを求めたのだけれど――。
柚子は「ごめんね、羽理ちゃん」と苦笑して、アッサリと敗北宣言をしてしまった。
そんなわけで、何故か何の説明もしていないのに「羽理」という名前はおろか、目の前の小娘が息子とお付き合いしていることも知っているといった口振りの、超ご機嫌な果恵に家の中へ引き戻されて――。
気が付けば、羽理は股関節などの痛みすら感じる隙も与えられないぐらいに、義母(予定)からの怒涛の質問攻めに晒されている。
***
「で? 付き合おうってアプローチしたのはやっぱりうちの子から?」
「あ、いえ」
「なぁに? あの子、もしかして羽理ちゃんに告白させたの?」
「あ、いえ、……あの、そうじゃなくて」
「あのね、お母さん、たいちゃんったら『俺と付き合って下さい!』をすっ飛ばしていきなりプロポーズしたみたいなの」
羽理が答えに詰まってオロオロと柚子を見つめたら、冷凍室から見慣れた容器を取り出した柚子が、苦笑まじりに助け舟を出してくれた。
容器の中身は、恐らく大葉が作り置きしているというおかずが入っているんだろう。
「えっ!? あの子、お見合いでもないのにいきなり結婚を申し込んだの!?」
目を真ん丸に見開いた母親の反応が楽しくてたまらないみたいにクスクス笑うと、「ね? どんだけ羽理ちゃんが好きなのって感じでしょう? テンパり過ぎてて逆に可愛いんだけど」と、柚子が羽理に意味深な視線を投げかけてくる。
きっと、期せずして果恵の口から〝お見合い〟の文言が出たことで、大葉がそれを黙っていたことも、羽理が思っているほど悪意あってのことじゃないと思うのよ? とでも言いたいんだろう。そんな柚子からの眼差しに、羽理は心の中で『でも……』と唇をとがらせた。
21
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
昨日、課長に抱かれました
美凪ましろ
恋愛
金曜の夜。一人で寂しく残業をしていると、課長にお食事に誘われた! 会社では強面(でもイケメン)の課長。お寿司屋で会話が弾んでいたはずが。翌朝。気がつけば見知らぬ部屋のベッドのうえで――!? 『課長とのワンナイトラブ』がテーマ(しかしワンナイトでは済まない)。
どっきどきの告白やベッドシーンなどもあります。
性描写を含む話には*マークをつけています。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる