185 / 342
28.裏目
大嫌い
しおりを挟む
大葉が事実を有耶無耶にしてそう問い掛けた途端、電話口の羽理がヒュッと息を呑んだのが分かった。
『……大葉のバカ! 嘘つき! 私を泣かせたのは貴方だもん! 大嫌い!』
一瞬の沈黙の後、悲鳴を上げるみたいに矢継ぎ早にまくし立てた羽理に、電話をブチッと切られてしまう。
「あ、おい! 羽理っ!」
慌てて呼びかけたけれど、通話口からは無情にもツーツー……と無機質な機械音が聴こえてくるばかり。
そんな携帯電話を握りしめたまま、大葉は「どういうことだよ……」とつぶやいて呆然と立ち尽くして――。数秒後ハッとしたように気が付いて、もう一度柚子に電話を掛け直してみたのだけれど、羽理に出るなと止められているのだろうか? 姉は一向に応答してくれなかった。
もちろん、同様に羽理の電話にもアクセスしてみたのだけれど、こちらは電源自体が切られてしまっているようで、『お掛けになった電話番号は、電源が切られているか――』などという非情なアナウンスを流してくるばかり。
「あー、くそっ!」
仕事を切り上げて、今すぐにでも羽理の元へ駆け付けたいと思った大葉だったのだけれど――。
「どこにいるんだよ……!」
一番最初にそれを聞きそびれてしまったことを、心の底から後悔せずにはいられなかった。
***
次女の柚子――ではなく長女の七味から電話がかかってきたのは、結局大葉が悶々としながらも定時まで真面目に仕事をこなしたあとだった。
『もしもし、たいちゃん?』
すぐ上の姉――柚子よりも気持ち低めで落ち着いた声。喋り方も声に合わせたように〝ザ・長子〟と言う感じで少し貫禄がある。
「七味……」
いつもならば柚子からの電話よりも七味からの着信の方が安心して応答出来るのだが、今回ばかりはちょっぴり落胆してしまった。
『気持ちは分かるけどあからさまにガッカリしない』
咎めるように吐息を落とされて、心の中を見透かされた気がした大葉は、グッと言葉に詰まる。この感じ。どうやら七味がこのタイミングで自分に電話してきたのはたまたまではないらしい。
「柚子から何か聞いたのか?」
恐る恐る問い掛けてみれば、『まぁね』という返事。
「じゃあ羽理のことっ、何か言ってなかったかっ!?」
七味の言葉に思わず身を乗り出すようにして問い掛ければ、再度小さく吐息を落とされた。
『まぁそう焦らないで聞きなさい、大葉』
日頃は〝たいちゃん〟と呼ぶくせに、大葉に何か言い聞かせたいことがある時には愛称ではなく、ちゃんと名前で呼ぶところがある七味である。姉のそんなところを熟知している大葉は、逸る気持ちを懸命に堪えて七味の言葉を待った。
『今日は柚子、貴方の恋人――婚約者って言った方がいいかしら? その子を連れて実家へ行ったらしいのね』
大葉の車を借りたいと言ったのは、どうやら実家への移動のためだったらしい。ひとまず、羽理に何かがあってのことではないと知って、大葉は現状も忘れてホッと胸を撫で下ろした。
『……大葉のバカ! 嘘つき! 私を泣かせたのは貴方だもん! 大嫌い!』
一瞬の沈黙の後、悲鳴を上げるみたいに矢継ぎ早にまくし立てた羽理に、電話をブチッと切られてしまう。
「あ、おい! 羽理っ!」
慌てて呼びかけたけれど、通話口からは無情にもツーツー……と無機質な機械音が聴こえてくるばかり。
そんな携帯電話を握りしめたまま、大葉は「どういうことだよ……」とつぶやいて呆然と立ち尽くして――。数秒後ハッとしたように気が付いて、もう一度柚子に電話を掛け直してみたのだけれど、羽理に出るなと止められているのだろうか? 姉は一向に応答してくれなかった。
もちろん、同様に羽理の電話にもアクセスしてみたのだけれど、こちらは電源自体が切られてしまっているようで、『お掛けになった電話番号は、電源が切られているか――』などという非情なアナウンスを流してくるばかり。
「あー、くそっ!」
仕事を切り上げて、今すぐにでも羽理の元へ駆け付けたいと思った大葉だったのだけれど――。
「どこにいるんだよ……!」
一番最初にそれを聞きそびれてしまったことを、心の底から後悔せずにはいられなかった。
***
次女の柚子――ではなく長女の七味から電話がかかってきたのは、結局大葉が悶々としながらも定時まで真面目に仕事をこなしたあとだった。
『もしもし、たいちゃん?』
すぐ上の姉――柚子よりも気持ち低めで落ち着いた声。喋り方も声に合わせたように〝ザ・長子〟と言う感じで少し貫禄がある。
「七味……」
いつもならば柚子からの電話よりも七味からの着信の方が安心して応答出来るのだが、今回ばかりはちょっぴり落胆してしまった。
『気持ちは分かるけどあからさまにガッカリしない』
咎めるように吐息を落とされて、心の中を見透かされた気がした大葉は、グッと言葉に詰まる。この感じ。どうやら七味がこのタイミングで自分に電話してきたのはたまたまではないらしい。
「柚子から何か聞いたのか?」
恐る恐る問い掛けてみれば、『まぁね』という返事。
「じゃあ羽理のことっ、何か言ってなかったかっ!?」
七味の言葉に思わず身を乗り出すようにして問い掛ければ、再度小さく吐息を落とされた。
『まぁそう焦らないで聞きなさい、大葉』
日頃は〝たいちゃん〟と呼ぶくせに、大葉に何か言い聞かせたいことがある時には愛称ではなく、ちゃんと名前で呼ぶところがある七味である。姉のそんなところを熟知している大葉は、逸る気持ちを懸命に堪えて七味の言葉を待った。
『今日は柚子、貴方の恋人――婚約者って言った方がいいかしら? その子を連れて実家へ行ったらしいのね』
大葉の車を借りたいと言ったのは、どうやら実家への移動のためだったらしい。ひとまず、羽理に何かがあってのことではないと知って、大葉は現状も忘れてホッと胸を撫で下ろした。
13
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
【R18・完結】甘溺愛婚 ~性悪お嬢様は契約婚で俺様御曹司に溺愛される~
花室 芽苳
恋愛
【本編完結/番外編完結】
この人なら愛せそうだと思ったお見合い相手は、私の妹を愛してしまった。
2人の間を邪魔して壊そうとしたけど、逆に2人の想いを見せつけられて……
そんな時叔父が用意した新しいお見合い相手は大企業の御曹司。
両親と叔父の勧めで、あっという間に俺様御曹司との新婚初夜!?
「夜のお相手は、他の女性に任せます!」
「は!?お前が妻なんだから、諦めて抱かれろよ!」
絶対にお断りよ!どうして毎夜毎夜そんな事で喧嘩をしなきゃならないの?
大きな会社の社長だからって「あれするな、これするな」って、偉そうに命令してこないでよ!
私は私の好きにさせてもらうわ!
狭山 聖壱 《さやま せいいち》 34歳 185㎝
江藤 香津美 《えとう かつみ》 25歳 165㎝
※ 花吹は経営や経済についてはよくわかっていないため、作中におかしな点があるかと思います。申し訳ありません。m(__)m
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる