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28.裏目

大葉を信じたい

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 期せずして身体に力が入ってしまったからだろう。腰の辺りが気怠けだるうずいて、羽理うりは、昨夜大葉たいようと最後までしてしまったことを痛感させられた。
 大葉たいようが羽理一筋だと……、羽理と結婚したいと言ってくれたから、羽理は彼に身体を許したのだ。もしもそれが根底からくつがえされてしまうとしたら、自分はとんでもないあやまちを犯してしまったのではないだろうか――。

「……私、私生児なんです」

 気が付けば、心許こころもとなさから思わずポツンとそうこぼして、柚子ゆずに「え?」と言わせてしまっていた。
 柚子からの疑問符に押されるみたいに、羽理は生まれつき父親とは無縁の、いわゆる〝非嫡出子ひちゃくしゅつし〟として母一人子一人の母子家庭で育ったことを告白した。

「私、別にそういう家庭に生まれて不幸だったわけじゃありません。むしろ、母からは愛情を一杯注いでもらえたし、物凄く幸せでした。でも……みんなの家みたいにお父さんが居ないこと、寂しく思わなかったといえば嘘になります。だから……」

 羽理は二十五歳になる今の今まで男性経験がなかったのだ。
 もちろん、大葉たいようと出会うまで、彼氏が一人もいなかったわけじゃない。学生の頃には付き合っている男性ひとだっていた。でも、家庭を作れると確証が持てない相手とは、怖くて性行為をする気にはなれなかったのだ。

 貞操観念が固過ぎると非難されてダメになってしまった元カレには、フラれてもそんなに未練をいだけなかった。
 大葉たいようと出会って分かったのだけれど、羽理うりは元カレのことを本気で好きではなかったのだ。でも、大葉たいようは違う。大葉たいようにフラれてしまうかも知れないと思ったら、それだけで胸の奥がキュゥッと締め付けられるように痛くなってしまう。

 今、柚子ゆずから大葉たいようのお見合いの話を聞いて、羽理は痛感した。自分が、大葉たいように全てを許してしまった本当の理由は――。

大葉たいようは……私をお嫁さんにしてくれるって言いました。私、それを信じたい、ん……です」

 羽理は、知らず知らずのうちに大葉たいようと家族になりたい、と心の底からこいねがってしまっていたのだ。そのために身体を繋げることが必要ならば、今までかたくなに守ってきたその垣根を越えても構わないと思えるほどに。

 でも、信じたいと言いながら、不安でウルッと視界が水の底に滲んで、思わず声が震えてしまう。

「羽理ちゃん……。うちの弟は……無責任なことは絶対しないから。だから、お願い。泣かないで?」

 柚子は要らないことを言って羽理を不安にさせてしまったことを素直に謝罪しながら、ポロポロと涙をこぼす羽理をギュウッと抱き締めてくれた。

「私、たいちゃんを信じているからこそ、持ち掛けられた見合い話を断るためにあの子、伯父さんのところへ行ったに違いないと確信しているのよ?」

 柚子は、噛んで含めるようにそう語り掛けながら、羽理の背中を優しく撫でて心のざわつきをなだめようとしてくれる。

 そんな時のことだった。二人の横で、鞄の中に入れたままの柚子の携帯が着信音を響かせたのは――。
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