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26.岳斗の告白

過去からの解放

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 倍相ばいしょう自身が気付いているかどうかは分からないが、大葉たいようは眼前の男が未だに亡くした母との叶わなかった日々に囚われていることを強く感じてしまった。

「なぁ、思うんだがな、倍相ばいしょう。俺もお前も過去は過去だと割り切るの、大事なんじゃねぇか?」

 それはきっと、一朝一夕いっちょういっせきでどうこうなる感情ではないというのは大葉たいようにだって分かっている。

 自分だってつい最近まで……過去の辛い経験に惑わされて社内で孤立することを良しとしていたのだ。
 仕事に支障がなければ他者と深く付き合う必要はないし、心を開くのは危ういことだとすら思っていた。

 だからこそ羽理うりと出会うまでの大葉たいようは、自分のすぐひざ元にいるはずの部下たちの顔と名前ですらよく把握出来ていなかったのだ。

 だが――。

倍相ばいしょう……。さっき社長室でも伯父に話したんだがな。俺は過ぎたことはもう気にしないって決めたんだ」

 大葉たいようの言葉に、倍相ばいしょうが瞳を見開く。

大葉たいようさん……それってつまり……」

 大葉たいようは「許す」という言葉こそ使わなかったけれど、今のセリフで課長時代にされたことは不問に付すと伝えたつもりだ。

「分からないのか? 俺はお前の言葉を信じるって言ってんだよ。――これからは羽理うりが幸せになれるよう、尽力してくれるんだろ?」

 大葉たいようは、あえて身内や羽理の前でするように不愛想な仮面を脱ぎ捨てて心のおもむくまま、悪戯っぽく二ッと笑ってみせる。
 途端、倍相ばいしょうがますます戸惑ったように視線を揺らせるから……。その様がいつも取り澄ました様子の倍相ばいしょうからは想像がつかなくて、見ていて面白いなと思ってしまった。

「あれ? 『もちろんです』って即答してくれないのか?」

 わざと揶揄からかうみたいにククッと笑いながら言い募ったら、倍相ばいしょうが泣きそうな顔をして「もちろんです」と答えて――。

「じゃ、そういうわけで……。よろしくな? ――

 大葉たいよう岳斗がくとに手を差し出すと、そこで〝初めて〟目の前の男のことを下の名で呼んだ。

 そうしながら、大葉たいようは岳斗にも過去を振り切って未来を見て欲しいなとこいねがわずにはいられなかった。
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