【完結】【R18】あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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26.岳斗の告白

きっかけ

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***


 倍相ばいしょう岳斗がくとが新入社員として土恵つちけい商事に入ってきた時のことを、大葉たいようはよく覚えている。

 恵介伯父から『うちにはもったいないくらい優秀な子が入ってくる』と聞かされていたからだ。

 持っている資格や、入社試験の成績などをかんがみても、倍相ばいしょう岳斗がくとという人間は大企業を希望してもすんなり入社出来てしまえるだろう逸材だったらしい。

 面接の際、為人ひととなりに難があるのかと身構えていた上層部も、やんわりとした物腰の、非の打ちどころがない青年の登場に、逆に頭をひねったらしい。

 当時ただの係長に過ぎなかった大葉たいようは面接官側にはいなかったのだが、プライベート――甥っ子として土井恵介と会ったとき、恵介伯父からそんな話を聞かされた。

『その子ね、たいちゃんの下に付けようと思ってるんだ』

 そんな優秀な新人を自分なんかが見ていいのだろうか?と懸念したら、『たいちゃんだから任せられるんだよ』と、社長の顔で太鼓判を捺されて、大葉たいようは身の引き締まる思いがしたのだ。


***


「俺は……お前にそんなに酷いことをしていたか?」

 もしかしたら気負い過ぎて知らず知らずのうちに倍相ばいしょう岳斗がくとを追い込んでいたのかも知れない。

 当時は大葉たいようも今より随分若かったし、青臭かったはずだ。

 ふと眉根を寄せて問い掛けたら、倍相ばいしょうは「まさか」とつぶやいた。

「逆に……とてもよくしていただきましたし、いい上司に恵まれたと嬉しく思っていました」

 記憶の中の倍相ばいしょう岳斗がくとは、むしろあの頃は自分を頼れる上司として慕ってくれていたように思う。
 それが大葉たいようの思い違いでなければ、どこかで倍相ばいしょうが自分を憎むようになったきっかけがあったはずだ。

「だったら何で……」

「……大葉たいようさんが……社長の身内だと知ったから……です」

 そこまで話した倍相ばいしょうは、何かを決意したように小さく吐息を落とすと「少し長くなるかもしれないんですが……聞いて頂けますか? 僕の生い立ち……」と大葉たいようの顔を真剣に見つめてきた。

 そんな倍相ばいしょうに、大葉たいようは「ああ」とうなずくことしか出来なかった。


***


 一通り壮絶な生い立ちを話した後、服をまくり上げてみせた倍相ばいしょう岳斗がくとの腹には、大小さまざまなあざがついていて――。

 それを見せられた大葉たいようは言葉を失った。

「義母は煙草を吸いません。なのでこの辺りのは……お香とか、そういうのを押し当てられて付けられた火傷痕です。小さい頃は布団叩きの柄で力任せに背中やお尻を叩かれたり……過失を装って熱い飲み物を掛けられたり……そういうのもしょっちゅうでした。――僕の身体が彼女より大きくなってからは抵抗されるのが怖くなったんでしょうね。身体に対する暴行はなくなりましたが、言葉での暴力はずっと続きました」

 義母・花京院かきょういん麻由まゆが、岳斗に当てがわれた勉強部屋へ単身〝可愛い息子の様子見〟と称してお茶請けのお菓子を持ってくる時は、いつも虐待とセットだったらしい。

 岳斗の部屋は、息子が勉強しやすいようにと花京院かきょういん岳史たかふみの指示で防音仕様になっていたから、少々の音は外へ漏れ聞こえないというのも義母には都合が良かったんだろう。
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