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25.持つ者と持たざる者

嫉妬心

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 屋久蓑やくみの大葉たいようが財務経理課や総務部長室彼の自室のある四階フロアに戻ってきたことに気付いた倍相ばいしょう岳斗がくとは、大葉たいようへ向けて小さく会釈えしゃくをした。

 社長へ見合いの断りついで、荒木あらき羽理うりとのことを報告しに行ってきたんだろう。

 どこか難しい顔をしている大葉たいように、岳斗は(荒木あらきさんとのこと、上手く説明できたのかな?)と心配になった。

 それに――。

(きっと社長から、昔僕がやったこと、聞いたよね)

 何となくだが、大葉たいようの表情を見るとそんな風に感じてしまう。

 元々そうなるのは覚悟の上で、社長と大葉たいようが血縁だと随分前から知っていたと告白したのだ。

 そのことが許せないから業務で必要な時以外は話しかけるなと、大葉たいようから一線を引かれたなら、それはそれで仕方がないと諦めている。

 だがもし機会が与えられるなら、その時の卑怯ひきょうさも含めて挽回するチャンスを与えて欲しい。

 本当、つい先日までの岳斗は、屋久蓑やくみの大葉たいようのことが大嫌いだったから。
 隙あらば大葉たいようおとしいれてやりたいと思っていた。

 容姿に恵まれていて、家族関係も良好。
 そのくせその有難みをちっとも分かっていなさそうな大葉たいようの様が、岳斗にはたまらなく腹立たしかったのだ。

(そもそも自分のためにあんなに親身になってくれる姉たちきょうだいがいるなんて、ずるいよ……)

 自分には望んでも与えられなかった温かい家庭。
 それだけならまだしも仕事の面でも才覚があるとか……神様は不公平過ぎる。
 
 そんなのただの勝手なねたそねみだと岳斗自身にだって分かっていた。だけど頭と心は別もので、うまくコントロールできなかったのだと素直に謝罪したなら、大葉たいようは許してくれるだろうか。

 もちろん、自分だって見た目だけなら大葉たいようにだって負けていない自信はある。

(でもこの顔だって僕はあんまり好きじゃないんだよ)

 容姿も家族関係も、自分ではどうしようもないものに、岳斗は幼い頃から翻弄ほんろうされてきたのだ。


***


 岳斗がくとの母・倍相ばいしょう真澄ますみは、若い頃さる大企業の御曹司おんぞうしと恋に落ちたらしい。
 だが、その男は事故であっけなく夭逝ようせいしてしまったのだと言う。

『だから岳斗にはお父さんがいないし、お母さんには旦那さんがいないけど……でも……その分お母さんが岳斗をたっぷり愛すから。二人で頑張って生きていきましょうね』

 幼い頃から、岳斗が母親から何度も何度も聞かされてきた言葉だ。

 その言葉の通り母親は岳斗のことを可愛がってくれたし、多少父親のいない負い目は感じることはあったけれど、それでも岳斗は幸せだったのだ。

 そう。少なくとも〝あの日〟までは――。
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