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24.土井恵介という男
過ぎたこと
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そう考えたと同時。
(もしかして……今の会話、聞かれた?)
大葉のことは〝たいちゃん〟と愛称で呼んでいたけれど、新しく財務課長に就任したばかりの人間だということは口走ったと思う。
それが屋久蓑大葉を指すのは、土恵の人間なら容易に分かることだ。
そんな大葉のことを、会社からは離れた喫茶店という立地と、可愛い姪っ子たちの前と言う気の緩みから思いっきり身内認定するような会話を繰り広げてしまっていた。
もし今のやり取りを聞かれていたら、大葉の立場が危うくなるかも知れない。
一瞬そう懸念した恵介だったが、自社の社長がいると分かっていて、いくらプライベートとは言え、すぐ横の通路を歩くのに会釈もなしに通り過ぎるというのは有り得ないかな?と考え直したのだ。
(倍相くんは新人研修の際、どこの部署の上司からの覚えも良かったし……そういうのが出来ない男じゃないはずだよね?)
「――伯父さん?」
つい考え込んでいたらしい。
急に黙り込んでしまった恵介を不審に思ったらしい七味に声を掛けられて、恵介は「あ、ごめん。ちょっと考えごとしちゃってた」と気持ちを切り替えたのだけれど。
それから程なくしてのことだったのだ。
新しく財務経理課長に就任したばかりの屋久蓑大葉が、土井社長の血縁だという噂が広まったのは――。
***
「結局ね、あの時のあれが倍相くんだという確証はなかったから……。僕は何も動かなかったんだけど」
人の噂も七十五日――。
普通ならある一定の期間を過ぎれば沈静化するはずの大葉への噂話が、何年経っても収まらなかったのはきっと。
火種が消えかける度に誰かが新たな燃料を投下していたとしか思えないのだ。
「倍相くんは凄く優秀な男だったし、社内での評判も悪くなかった。だから――」
可愛い甥っ子の大葉を、針の筵から掬い上げてやりたいと言う気持ちも手伝って、恵介は倍相岳斗を異例のスピードで財務課長へと就任させたのだ。
そう。
それこそ甥っ子の大葉よりも若い年齢でそうさせたのには、岳斗の実力もあったことは確かだが、恵介に〝大葉の伯父〟としての焦りがなかったとは言い切れない。
仕事に関しては非情に徹してきた恵介が、身内の情にほだされて、大葉を現状から救ってやりたいと思わざるを得ないほどに、課長時代の大葉の立ち位置は苛烈を極めていたのだ。
倍相岳斗が管理職に昇進した途端、不気味なくらい大葉への悪い噂も流れなくなったのは偶然だったのかどうか。
「ごめんね、たいちゃん。――確証がないからって放置してしまったけど、倍相くんがそれを知ってたってキミに言ってきたんだとしたら……。あれはやっぱり彼が僕たちの話を聞いてしまったのが原因だと思うんだ」
そう話したら、大葉が「……何にせよ過ぎたことです」とつぶやいた。
(もしかして……今の会話、聞かれた?)
大葉のことは〝たいちゃん〟と愛称で呼んでいたけれど、新しく財務課長に就任したばかりの人間だということは口走ったと思う。
それが屋久蓑大葉を指すのは、土恵の人間なら容易に分かることだ。
そんな大葉のことを、会社からは離れた喫茶店という立地と、可愛い姪っ子たちの前と言う気の緩みから思いっきり身内認定するような会話を繰り広げてしまっていた。
もし今のやり取りを聞かれていたら、大葉の立場が危うくなるかも知れない。
一瞬そう懸念した恵介だったが、自社の社長がいると分かっていて、いくらプライベートとは言え、すぐ横の通路を歩くのに会釈もなしに通り過ぎるというのは有り得ないかな?と考え直したのだ。
(倍相くんは新人研修の際、どこの部署の上司からの覚えも良かったし……そういうのが出来ない男じゃないはずだよね?)
「――伯父さん?」
つい考え込んでいたらしい。
急に黙り込んでしまった恵介を不審に思ったらしい七味に声を掛けられて、恵介は「あ、ごめん。ちょっと考えごとしちゃってた」と気持ちを切り替えたのだけれど。
それから程なくしてのことだったのだ。
新しく財務経理課長に就任したばかりの屋久蓑大葉が、土井社長の血縁だという噂が広まったのは――。
***
「結局ね、あの時のあれが倍相くんだという確証はなかったから……。僕は何も動かなかったんだけど」
人の噂も七十五日――。
普通ならある一定の期間を過ぎれば沈静化するはずの大葉への噂話が、何年経っても収まらなかったのはきっと。
火種が消えかける度に誰かが新たな燃料を投下していたとしか思えないのだ。
「倍相くんは凄く優秀な男だったし、社内での評判も悪くなかった。だから――」
可愛い甥っ子の大葉を、針の筵から掬い上げてやりたいと言う気持ちも手伝って、恵介は倍相岳斗を異例のスピードで財務課長へと就任させたのだ。
そう。
それこそ甥っ子の大葉よりも若い年齢でそうさせたのには、岳斗の実力もあったことは確かだが、恵介に〝大葉の伯父〟としての焦りがなかったとは言い切れない。
仕事に関しては非情に徹してきた恵介が、身内の情にほだされて、大葉を現状から救ってやりたいと思わざるを得ないほどに、課長時代の大葉の立ち位置は苛烈を極めていたのだ。
倍相岳斗が管理職に昇進した途端、不気味なくらい大葉への悪い噂も流れなくなったのは偶然だったのかどうか。
「ごめんね、たいちゃん。――確証がないからって放置してしまったけど、倍相くんがそれを知ってたってキミに言ってきたんだとしたら……。あれはやっぱり彼が僕たちの話を聞いてしまったのが原因だと思うんだ」
そう話したら、大葉が「……何にせよ過ぎたことです」とつぶやいた。
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