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24.土井恵介という男
彼の仕業だったのかも
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結果、段々無愛想になっていった大葉は、必要最低限の会話しかしない取っ付きにくい人間だと言うレッテルを貼られてしまった。
それでも仕事だけはがむしゃらに頑張ったから。
入社して八年――。
同期の中で異例の出世を果たした大葉は、三十になる年に財務経理課長へ就任したのだ。
もちろん実力でのし上がっただけで、伯父の力は一切借りていないし、恵介伯父は身内だからと言う理由で、そういうエコ贔屓をするような甘い人間でもなかった。
入社時にも他の社員同様きちんと入社試験や面接試験を通過して、正規の手順で土恵商事へ入社した大葉としては、後ろ暗いところなんてひとつもなかったのだが。
社長の甥だと知られれば、あることないこと言う人間がいるのも分かっていたから。
そこは公言すまいと心に誓っていた。
母方の伯父とは苗字も違うし、黙っていれば血縁だと知られることもないはずだった――。
だが、ちょうど大葉が課長に昇進して間もない頃のことだ。
大葉が縁故入社した上、異例の速さで出世を遂げたのだというガセ情報が、どこからともなく流れたのは。
真相はどうであれ、大葉が社長の甥っ子であることは紛れもない真実だったから……。
あの頃は自分より年上の部下たちからは業務に支障が出るレベルの反発をされた。
見た目の良さに加え、〝社内一の出世頭〟という付加価値もついた大葉は、目の色を変えた女達から付き纏われる羽目にもなって。
それがさらに男性社員らの不満を煽るという悪循環。
針の筵にいるようで、本当にしんどかったのを覚えている。
そんななか、休日に母方の実家へ行って畑を手伝うことだけが、大葉の心を唯一癒してくれたのだ。
部長になった今でも作業服を着て現場仕事に混ざりたくなるのは、そういう経緯もある。
課長職で心を殺して踏ん張って四年。
大葉が総務部長になって、自分のポストだった財務経理課長に、当時二十八歳の倍相岳斗が就任した。
それは大葉の、二十九歳での課長昇格よりも一年ほど早かったから。
どんな人間でも頑張れば二十代で課長まで上がることは可能なのだと他の社員らに認識されるには十分の出来事だった。
だが、そうなるまでの間、大葉が他社員らからの妬みと色眼鏡の渦中で過ごしてきたことは言うまでもない。
要は倍相のお陰で少しだけ溜飲を下げられた大葉だったのだけれど。
(そう言やぁ)
考えてみれば自分が縁故入社だと囁かれ出したのは、倍相岳斗が財務経理課へ配属されてきて間もない頃だったなとふと思ってしまった。
倍相課長は、今でこそ何かやけにフレンドリーになったが、それこそ一昨日まではかなり大葉に対して当たりが強かったはずだ。
大葉が社長の身内だというのも知っていたと言っていたし、やっぱりアレは倍相の仕業だったのかも知れない。
大葉は吐息混じりにそう思った。
***
「はい。実はその彼が羽理……、荒木さんとのこと、社内に公表すべきだって言ってきましてね」
「え?」
「そうしないと、大変なことになると脅されました」
それでも仕事だけはがむしゃらに頑張ったから。
入社して八年――。
同期の中で異例の出世を果たした大葉は、三十になる年に財務経理課長へ就任したのだ。
もちろん実力でのし上がっただけで、伯父の力は一切借りていないし、恵介伯父は身内だからと言う理由で、そういうエコ贔屓をするような甘い人間でもなかった。
入社時にも他の社員同様きちんと入社試験や面接試験を通過して、正規の手順で土恵商事へ入社した大葉としては、後ろ暗いところなんてひとつもなかったのだが。
社長の甥だと知られれば、あることないこと言う人間がいるのも分かっていたから。
そこは公言すまいと心に誓っていた。
母方の伯父とは苗字も違うし、黙っていれば血縁だと知られることもないはずだった――。
だが、ちょうど大葉が課長に昇進して間もない頃のことだ。
大葉が縁故入社した上、異例の速さで出世を遂げたのだというガセ情報が、どこからともなく流れたのは。
真相はどうであれ、大葉が社長の甥っ子であることは紛れもない真実だったから……。
あの頃は自分より年上の部下たちからは業務に支障が出るレベルの反発をされた。
見た目の良さに加え、〝社内一の出世頭〟という付加価値もついた大葉は、目の色を変えた女達から付き纏われる羽目にもなって。
それがさらに男性社員らの不満を煽るという悪循環。
針の筵にいるようで、本当にしんどかったのを覚えている。
そんななか、休日に母方の実家へ行って畑を手伝うことだけが、大葉の心を唯一癒してくれたのだ。
部長になった今でも作業服を着て現場仕事に混ざりたくなるのは、そういう経緯もある。
課長職で心を殺して踏ん張って四年。
大葉が総務部長になって、自分のポストだった財務経理課長に、当時二十八歳の倍相岳斗が就任した。
それは大葉の、二十九歳での課長昇格よりも一年ほど早かったから。
どんな人間でも頑張れば二十代で課長まで上がることは可能なのだと他の社員らに認識されるには十分の出来事だった。
だが、そうなるまでの間、大葉が他社員らからの妬みと色眼鏡の渦中で過ごしてきたことは言うまでもない。
要は倍相のお陰で少しだけ溜飲を下げられた大葉だったのだけれど。
(そう言やぁ)
考えてみれば自分が縁故入社だと囁かれ出したのは、倍相岳斗が財務経理課へ配属されてきて間もない頃だったなとふと思ってしまった。
倍相課長は、今でこそ何かやけにフレンドリーになったが、それこそ一昨日まではかなり大葉に対して当たりが強かったはずだ。
大葉が社長の身内だというのも知っていたと言っていたし、やっぱりアレは倍相の仕業だったのかも知れない。
大葉は吐息混じりにそう思った。
***
「はい。実はその彼が羽理……、荒木さんとのこと、社内に公表すべきだって言ってきましてね」
「え?」
「そうしないと、大変なことになると脅されました」
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