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24.スーツを着た理由
上司の心得と困ったワンコ
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「あ、そう言えば羽理で思い出したんだがな」
倍相岳斗はまだ何か言いたげだったけれど、これ以上突っ込んでアレコレ聞かれると何となく面倒な気がしてしまって。
大葉は半ば無理矢理話題を変えた。
「前に羽理が営業課の領収だけ雨衣課長が取りまとめて持ってくるようキミが指示を出してるのが腑に落ちないって首をひねってたんだがな。――何か事情があるのか?」
土恵商事では泊りがけなどの出張費のように色々な経費が一気にかさむ場合を除いて、日々の業務で生じた交際費や会議費などと言った細々としたものは、上司の承認が降りた時点で使った本人が直接財務経理課へ持って来るのが通常の流れになっているはずだ。
羽理からその話を聞いたとき、大葉は特筆すべき理由に思い当たれなくて……『俺にもよく分からんな。倍相課長に聞いてみるのが一番じゃないか?』と答えたのだが。
まさか羽理に懐いていた営業のワンコ系後輩・五代懇乃介を羽理に会わせないための策略だった……とかじゃねぇよな?とふと思ってしまった。
「ああ、その件でしたら申し訳ありません。僕の私情が多分に混ざってました。――えっと……、大葉さんは営業課の五代懇乃介くんをご存知ですか?」
「ああ、羽理によく懐いてる後輩だろう?」
「ええ。ご存知の通り、僕は荒木さんのことが大好きでしたから、その彼からの私的なアプローチを妨害するため、雨衣課長に頼んで職権乱用を少々……。ですが五代くんの荒木さんへの執着ぶりは雨衣課長もちょっと目に余るところがあったみたいで……割とすんなり協力してくださいました」
確かにアスマモルドラッグでたまたま出会った時、五代は羽理に対してかなり押しが強かったし、財務経理課へ来るたび羽理にアレコレ言い寄っていた可能性は十分にあるな?……と思った大葉だったのだけれど。
財務経理課を取りまとめる総務部長の立場としては、「はいそうですか」と私的な目論見でのイレギュラーな動きを見逃すわけにはいかない。
「けど……羽理や法忍さんはやりづらくて敵わんと言っていたぞ?」
大葉だって、羽理に言い寄りそうな要らぬ芽は摘んでおきたい。だが、そこはグッと我慢して社員らが快適に働けるような環境を作るのが大事だと心得ている。
使途不明な領収が混ざっているたび、わざわざ営業課のフロアに降りて、五代を捕まえなくてはいけなかったと相談された旨を話せば、倍相が吐息を落として眉根を寄せた。
「あ、そう言えば羽理で思い出したんだがな」
倍相岳斗はまだ何か言いたげだったけれど、これ以上突っ込んでアレコレ聞かれると何となく面倒な気がしてしまって。
大葉は半ば無理矢理話題を変えた。
「前に羽理が営業課の領収だけ雨衣課長が取りまとめて持ってくるようキミが指示を出してるのが腑に落ちないって首をひねってたんだがな。――何か事情があるのか?」
土恵商事では泊りがけなどの出張費のように色々な経費が一気にかさむ場合を除いて、日々の業務で生じた交際費や会議費などと言った細々としたものは、上司の承認が降りた時点で使った本人が直接財務経理課へ持って来るのが通常の流れになっているはずだ。
羽理からその話を聞いたとき、大葉は特筆すべき理由に思い当たれなくて……『俺にもよく分からんな。倍相課長に聞いてみるのが一番じゃないか?』と答えたのだが。
まさか羽理に懐いていた営業のワンコ系後輩・五代懇乃介を羽理に会わせないための策略だった……とかじゃねぇよな?とふと思ってしまった。
「ああ、その件でしたら申し訳ありません。僕の私情が多分に混ざってました。――えっと……、大葉さんは営業課の五代懇乃介くんをご存知ですか?」
「ああ、羽理によく懐いてる後輩だろう?」
「ええ。ご存知の通り、僕は荒木さんのことが大好きでしたから、その彼からの私的なアプローチを妨害するため、雨衣課長に頼んで職権乱用を少々……。ですが五代くんの荒木さんへの執着ぶりは雨衣課長もちょっと目に余るところがあったみたいで……割とすんなり協力してくださいました」
確かにアスマモルドラッグでたまたま出会った時、五代は羽理に対してかなり押しが強かったし、財務経理課へ来るたび羽理にアレコレ言い寄っていた可能性は十分にあるな?……と思った大葉だったのだけれど。
財務経理課を取りまとめる総務部長の立場としては、「はいそうですか」と私的な目論見でのイレギュラーな動きを見逃すわけにはいかない。
「けど……羽理や法忍さんはやりづらくて敵わんと言っていたぞ?」
大葉だって、羽理に言い寄りそうな要らぬ芽は摘んでおきたい。だが、そこはグッと我慢して社員らが快適に働けるような環境を作るのが大事だと心得ている。
使途不明な領収が混ざっているたび、わざわざ営業課のフロアに降りて、五代を捕まえなくてはいけなかったと相談された旨を話せば、倍相が吐息を落として眉根を寄せた。
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