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23.スーツを着た理由

上司の心得と困ったワンコ

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「あ、そう言えば羽理うりで思い出したんだがな」

 倍相ばいしょう岳斗がくとはまだ何か言いたげだったけれど、これ以上突っ込んでアレコレ聞かれると何となく面倒な気がしてしまって。

 大葉たいようは半ば無理矢理話題を変えた。

「前に羽理が営業課の領収だけ雨衣あまい課長が取りまとめて持ってくるようキミが指示を出してるのが腑に落ちないって首をひねってたんだがな。――何か事情があるのか?」

 土恵つちけい商事では泊りがけなどの出張費のように色々な経費が一気にかさむ場合を除いて、日々の業務で生じた交際費や会議費などと言った細々こまごまとしたものは、上司の承認が降りた時点で使った本人が直接財務経理課へ持って来るのが通常の流れになっているはずだ。

 羽理からその話を聞いたとき、大葉たいようは特筆すべき理由に思い当たれなくて……『俺にもよく分からんな。倍相ばいしょう課長に聞いてみるのが一番じゃないか?』と答えたのだが。

 まさか羽理になついていた営業のワンコ系後輩・五代ごだい懇乃介こんのすけを羽理に会わせないための策略だった……とかじゃねぇよな?とふと思ってしまった。

「ああ、その件でしたら申し訳ありません。僕の私情が多分に混ざってました。――えっと……、大葉たいようさんは営業課の五代ごだい懇乃介こんのすけくんをご存知ですか?」

「ああ、羽理うりによくなついてる後輩だろう?」

「ええ。ご存知の通り、僕は荒木あらきさんのことが大好きから、その彼からの私的なアプローチを妨害するため、雨衣あまい課長に頼んで職権乱用を少々……。ですが五代ごだいくんの荒木あらきさんへの執着ぶりは雨衣課長もちょっと目に余るところがあったみたいで……割とすんなり協力してくださいました」

 確かにアスマモルドラッグでたまたま出会った時、五代ごだいは羽理に対してかなり押しが強かったし、財務経理課へ来るたび羽理にアレコレ言い寄っていた可能性は十分にあるな?……と思った大葉たいようだったのだけれど。
 財務経理課を取りまとめる総務部長の立場としては、「はいそうですか」と私的な目論見もくろみでのイレギュラーな動きを見逃すわけにはいかない。

「けど……羽理や法忍ほうにんさんはやりづらくて敵わんと言っていたぞ?」

 大葉たいようだって、羽理に言い寄りそうな要らぬ芽は摘んでおきたい。だが、そこはグッと我慢して社員らが快適に働けるような環境を作るのが大事だと心得ている。

 使途不明な領収が混ざっているたび、わざわざ営業課のフロアに降りて、五代ごだいを捕まえなくてはいけなかったと相談された旨を話せば、倍相ばいしょうが吐息を落として眉根を寄せた。
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