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24.スーツを着た理由
モヤモヤする
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「――何か用か?」
気を取り直すように一度咳払いをして問いかけると、倍相が居住まいを正したのが分かった。
「大葉さん、昨夜はあのあと羽理ちゃ……、じゃなくて……荒木さんとどうなったんですか?」
真剣な目で問われた大葉は、心の中で抗議せずにはいられない。
(こら倍相! 何で羽理は〝荒木さん〟って言い直したのに、俺のことは〝屋久蓑部長〟って訂正しないんだ!)
これではまるで、羽理のアノ推測が正しいみたいで恐ろしいではないか。
このまま倍相の目を見つめ続けていてはいけない気がして、大葉はそろそろと瞳を逸らせたのだけれど。
(えっと……こいつ、今、俺に何を質問してきたんだっけ!?)
別の衝撃が大きすぎて、問い掛けられた質問がぶっ飛んでしまった。
***
屋久蓑大葉に視線を逸らされた倍相岳斗は、どこか落ち着かない様子の屋久蓑部長に、(ああ、これは……)と思う。
真面目社員で、滅多なことでは休んだりしない荒木羽理が、もう一日休ませて欲しいと連絡をしてきたのはつまりはそういうことなのだ。
昨夜会った時、彼女はすっかり元気を取り戻していたように見えたのに、自分が帰った後で、出社できないくらいの何かがあったと思うのが妥当だろう。
加えて、朝からやたらと法忍仁子の様子もおかしいし、皆まで語られなくてもある程度は察してしまった岳斗である。
(何かモヤモヤするな……)
それはきっと、お気に入りだった荒木羽理を手籠めにされたことに対するざわつきなのだと納得しようとした岳斗だったのだけれど、どうも違う気もして。
それを払拭するみたいに話題の矛先を変えることにした。
「ひょっとして……これから社長の所へ出向かれるんですか?」
日頃は作業服で出社することが多い屋久蓑大葉が、今朝は珍しくスーツで来たのはきっとそういうことなのだ。
恐らく岳斗の心が、屋久蓑大葉を見てソワソワと落ち着かないのは日頃と服装が異なっているからに違いない。
何ならさっきからの挙動不審ぶりでちょっぴり乱れていしまっているネクタイを〝僕が直して差し上げたい〟だなんて欲求までふつふつと湧き上がってきて。(何を考えてるんだ、僕は!)と慌てた岳斗は、出来ればいつも通り、作業服に着替えて欲しいとすら思ってしまう。
このところの屋久蓑大葉は、少しずつではあるが感情表現も豊かになってきて、ちょっと前までの【寄らば斬る!】みたいなバリアが消失していた。
こんなことでは、『屋久蓑部長素敵♥』だなんて血迷う女性社員が続出しそうで良くないなと考えて――。
(そ、そう! 羽理ちゃんにライバルが増えてしまうからね!)
と自分に言い聞かせた岳斗である。
(とにかく! 横恋慕出来るかも?とか思わせないで欲しいんですよ、二人には!)
早いところ社長と話をつけて、社内中に「付け入る隙なんてない!」と知らしめてもらわねば、正直岳斗自身も落ち着かないのだ。
気を取り直すように一度咳払いをして問いかけると、倍相が居住まいを正したのが分かった。
「大葉さん、昨夜はあのあと羽理ちゃ……、じゃなくて……荒木さんとどうなったんですか?」
真剣な目で問われた大葉は、心の中で抗議せずにはいられない。
(こら倍相! 何で羽理は〝荒木さん〟って言い直したのに、俺のことは〝屋久蓑部長〟って訂正しないんだ!)
これではまるで、羽理のアノ推測が正しいみたいで恐ろしいではないか。
このまま倍相の目を見つめ続けていてはいけない気がして、大葉はそろそろと瞳を逸らせたのだけれど。
(えっと……こいつ、今、俺に何を質問してきたんだっけ!?)
別の衝撃が大きすぎて、問い掛けられた質問がぶっ飛んでしまった。
***
屋久蓑大葉に視線を逸らされた倍相岳斗は、どこか落ち着かない様子の屋久蓑部長に、(ああ、これは……)と思う。
真面目社員で、滅多なことでは休んだりしない荒木羽理が、もう一日休ませて欲しいと連絡をしてきたのはつまりはそういうことなのだ。
昨夜会った時、彼女はすっかり元気を取り戻していたように見えたのに、自分が帰った後で、出社できないくらいの何かがあったと思うのが妥当だろう。
加えて、朝からやたらと法忍仁子の様子もおかしいし、皆まで語られなくてもある程度は察してしまった岳斗である。
(何かモヤモヤするな……)
それはきっと、お気に入りだった荒木羽理を手籠めにされたことに対するざわつきなのだと納得しようとした岳斗だったのだけれど、どうも違う気もして。
それを払拭するみたいに話題の矛先を変えることにした。
「ひょっとして……これから社長の所へ出向かれるんですか?」
日頃は作業服で出社することが多い屋久蓑大葉が、今朝は珍しくスーツで来たのはきっとそういうことなのだ。
恐らく岳斗の心が、屋久蓑大葉を見てソワソワと落ち着かないのは日頃と服装が異なっているからに違いない。
何ならさっきからの挙動不審ぶりでちょっぴり乱れていしまっているネクタイを〝僕が直して差し上げたい〟だなんて欲求までふつふつと湧き上がってきて。(何を考えてるんだ、僕は!)と慌てた岳斗は、出来ればいつも通り、作業服に着替えて欲しいとすら思ってしまう。
このところの屋久蓑大葉は、少しずつではあるが感情表現も豊かになってきて、ちょっと前までの【寄らば斬る!】みたいなバリアが消失していた。
こんなことでは、『屋久蓑部長素敵♥』だなんて血迷う女性社員が続出しそうで良くないなと考えて――。
(そ、そう! 羽理ちゃんにライバルが増えてしまうからね!)
と自分に言い聞かせた岳斗である。
(とにかく! 横恋慕出来るかも?とか思わせないで欲しいんですよ、二人には!)
早いところ社長と話をつけて、社内中に「付け入る隙なんてない!」と知らしめてもらわねば、正直岳斗自身も落ち着かないのだ。
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