【完結】【R18】あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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23.スーツを着た理由

一線

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 大葉たいようは頭の中、一旦自室のある四階へ上がって、荷物などを片付けてから社長室へ出向くか、などとこれからのことを算段している真っ最中なのだ。

 そこでふと、昨夜羽理うりのアパートで対面した倍相ばいしょう岳斗がくとのことを思い出した大葉たいようは、我知らず吐息を落とした。

(……昨日の倍相ばいしょうの様子、何かおかしかったよな)

 前半はいつも通りだったが、羽理うりを傷付けたことを大葉たいように責められてからは、ガラリと態度が一変したように感じたのは気のせいではないだろう。

 大葉たいようさん、と倍相ばいしょうから呼び掛けられたのを思い出した大葉たいようは、何だかよく分からない寒気にゾクリと身体を震わせた。

 そこでポーンと小気味よい音を立ててエレベーターが一階に着いて。
 幾名かの社員たちがパラパラと箱から降りてきて、大葉たいように気が付いて「おはようございます」と頭を下げて通る。

 大葉たいようは背中を這い上がる悪寒を振り払うように、彼らに「おはよう」と返しながら空になった箱へ乗り込んだ。

 時間的なモノだろうか。
 降りてくる人間はちらほらいたけれど、大葉たいようのように上に昇る人間はいなくて。

 エレベーターの中で一人、大葉たいようは壁にすがるようにして物思いにふける。


 そういえば――。

倍相ばいしょうを知ってるんだっけか……)

 公言はしていないが、あえて隠しているわけでもない自分おのれの立場をふと思って、大葉たいようは小さく吐息を落とした。

(ま、あんま大っぴらにしたい内容じゃねぇけどな)

 その絡みで今から社長室へ出向かねばならないわけだが、まぁ誠意を持って対応すればきっと何とかなるだろう。


***


 大葉たいようが経理課・庶務課のある四階フロアに入ると、あちらこちらから「おはようございます」と言う声が掛かった。

 それに「ああ、おはよう」と何気なく返しながら、ハッとした大葉たいようだ。

 考えてみれば今まで気付いていなかっただけで、こんな風に挨拶をしてくれた面々の中にはきっと羽理うりもいたんだろうな?と思うと、つとめて皆の顔を見て挨拶せねば……と身につまされる気持ちがして。

(俺、……ホントみんなと一線引くような接し方してたんだな)

 女性社員らから迫られることに辟易へきえきしていたからと言って、多くの部下たちとの関わりをシャットアウトするようなことを、同一線上で考えてはいけないはずだったのに。

 羽理と風呂で初めて対面した時、羽理は大葉たいようが自社の部長だとすぐ気が付いたのに、自分は目の前の女性がおのれの管轄する財務経理課の人間だと気付けなかったのは、つまりはそういうことだったんだろう。
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