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23.スーツを着た理由
一線
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大葉は頭の中、一旦自室のある四階へ上がって、荷物などを片付けてから社長室へ出向くか、などとこれからのことを算段している真っ最中なのだ。
そこでふと、昨夜羽理のアパートで対面した倍相岳斗のことを思い出した大葉は、我知らず吐息を落とした。
(……昨日の倍相の様子、何かおかしかったよな)
前半はいつも通りだったが、羽理を傷付けたことを大葉に責められてからは、ガラリと態度が一変したように感じたのは気のせいではないだろう。
大葉さん、と倍相から呼び掛けられたのを思い出した大葉は、何だかよく分からない寒気にゾクリと身体を震わせた。
そこでポーンと小気味よい音を立ててエレベーターが一階に着いて。
幾名かの社員たちがパラパラと箱から降りてきて、大葉に気が付いて「おはようございます」と頭を下げて通る。
大葉は背中を這い上がる悪寒を振り払うように、彼らに「おはよう」と返しながら空になった箱へ乗り込んだ。
時間的なモノだろうか。
降りてくる人間はちらほらいたけれど、大葉のように上に昇る人間はいなくて。
エレベーターの中で一人、大葉は壁に縋るようにして物思いにふける。
そういえば――。
(倍相は俺のこの社での立ち位置を知ってるんだっけか……)
公言はしていないが、あえて隠しているわけでもない自分の立場をふと思って、大葉は小さく吐息を落とした。
(ま、あんま大っぴらにしたい内容じゃねぇけどな)
その絡みで今から社長室へ出向かねばならないわけだが、まぁ誠意を持って対応すればきっと何とかなるだろう。
***
大葉が経理課・庶務課のある四階フロアに入ると、あちらこちらから「おはようございます」と言う声が掛かった。
それに「ああ、おはよう」と何気なく返しながら、ハッとした大葉だ。
考えてみれば今まで気付いていなかっただけで、こんな風に挨拶をしてくれた面々の中にはきっと羽理もいたんだろうな?と思うと、努めて皆の顔を見て挨拶せねば……と身につまされる気持ちがして。
(俺、……ホントみんなと一線引くような接し方してたんだな)
女性社員らから迫られることに辟易していたからと言って、多くの部下たちとの関わりをシャットアウトするようなことを、同一線上で考えてはいけないはずだったのに。
羽理と風呂で初めて対面した時、羽理は大葉が自社の部長だとすぐ気が付いたのに、自分は目の前の女性が己れの管轄する財務経理課の人間だと気付けなかったのは、つまりはそういうことだったんだろう。
そこでふと、昨夜羽理のアパートで対面した倍相岳斗のことを思い出した大葉は、我知らず吐息を落とした。
(……昨日の倍相の様子、何かおかしかったよな)
前半はいつも通りだったが、羽理を傷付けたことを大葉に責められてからは、ガラリと態度が一変したように感じたのは気のせいではないだろう。
大葉さん、と倍相から呼び掛けられたのを思い出した大葉は、何だかよく分からない寒気にゾクリと身体を震わせた。
そこでポーンと小気味よい音を立ててエレベーターが一階に着いて。
幾名かの社員たちがパラパラと箱から降りてきて、大葉に気が付いて「おはようございます」と頭を下げて通る。
大葉は背中を這い上がる悪寒を振り払うように、彼らに「おはよう」と返しながら空になった箱へ乗り込んだ。
時間的なモノだろうか。
降りてくる人間はちらほらいたけれど、大葉のように上に昇る人間はいなくて。
エレベーターの中で一人、大葉は壁に縋るようにして物思いにふける。
そういえば――。
(倍相は俺のこの社での立ち位置を知ってるんだっけか……)
公言はしていないが、あえて隠しているわけでもない自分の立場をふと思って、大葉は小さく吐息を落とした。
(ま、あんま大っぴらにしたい内容じゃねぇけどな)
その絡みで今から社長室へ出向かねばならないわけだが、まぁ誠意を持って対応すればきっと何とかなるだろう。
***
大葉が経理課・庶務課のある四階フロアに入ると、あちらこちらから「おはようございます」と言う声が掛かった。
それに「ああ、おはよう」と何気なく返しながら、ハッとした大葉だ。
考えてみれば今まで気付いていなかっただけで、こんな風に挨拶をしてくれた面々の中にはきっと羽理もいたんだろうな?と思うと、努めて皆の顔を見て挨拶せねば……と身につまされる気持ちがして。
(俺、……ホントみんなと一線引くような接し方してたんだな)
女性社員らから迫られることに辟易していたからと言って、多くの部下たちとの関わりをシャットアウトするようなことを、同一線上で考えてはいけないはずだったのに。
羽理と風呂で初めて対面した時、羽理は大葉が自社の部長だとすぐ気が付いたのに、自分は目の前の女性が己れの管轄する財務経理課の人間だと気付けなかったのは、つまりはそういうことだったんだろう。
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