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23.スーツを着た理由
一朝一夕では変えられない
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「お、俺がっ。可愛い愛犬にどんな感じで声掛けようと……二人には関係ねぇだろっ」
照れ隠しでしどろもどろ。つっけんどんに言い放ったら、「まぁ……百歩譲って私は構わないとしても……その呼び方。羽理ちゃんは照れちゃうだろうし関係ないとは言い切れないわよねぇ?」と、柚子が大葉の腕の中に閉じ込められたままの羽理を見詰めてニヤリとする。
その言葉に、大葉は慌てて腕の力を緩めると、落ち着かない気持ちで羽理を見下ろした。
「あ、あのな……羽理っ。こ、これは……お前と出会う前からずっと、な呼び方なわけで……その……今更変えろと言われても……えっと一朝一夕には無理と言うか……」
「……はい。……大葉の中でキュウリちゃんは……ウリちゃん、で定着してる……ってこと……です、よね……?」
遣る瀬無い照れ臭さをどう処理していいのか分からないんだろう。
瞳をゆらゆらと彷徨わせながら、どこか確認作業でもするかのように羽理が言うから。
大葉は一瞬グッと言葉に詰まって、「そ、それで! ……俺の中でお前は〝羽理〟だ!」と宣言して。
自分でも『はいそうですね』としか返しようがねぇじゃねぇか!と内心わさわさした。
「あ、はい。私は〝ただの羽理〟で……〝ちゃん〟付けはキュウリちゃんだけ……」
だが、羽理は自分を納得させるように順序立ててそうつぶやくと、「あの……ちょっと慣れるまで照れちゃうかも知れないんですけど……頑張って恥ずかしがらないようにしていきます……ので」と、気を遣ってくれた。
「それに……キュウリちゃんに優しく話しかける大葉、すっごく子煩悩な感じがして嫌いじゃないです」
「羽理……」
「あ! そ、そんな不安そうな顔しなくても大丈夫ですよ!? 大葉は今まで通りキュウリちゃんに〝でちゅ・まちゅ〟で接してあげてください! でないと……その……キュ……ウリちゃん?が戸惑ってしまいそうですもの」
ちょっと気になる語尾が相中に挟まっていた気もするが、この気遣いは大葉のためではなくキュウリのためなのだと言われてしまっては、それ以上が言えなくなってしまった大葉だ。
「あーん、羽理ちゃんってばホント、いい子ぉー! お姉ちゃん、羽理ちゃん、大好きぃー♥」
途端柚子が大葉をドン!と押し退けて、右腕にキュウリを抱いたまま左腕で羽理を抱き締めるから。
「ワン!」
「きゃう!」
恐らくキュウリは驚きの、羽理は痛みからくる声を、ふたり同時に上げた。
照れ隠しでしどろもどろ。つっけんどんに言い放ったら、「まぁ……百歩譲って私は構わないとしても……その呼び方。羽理ちゃんは照れちゃうだろうし関係ないとは言い切れないわよねぇ?」と、柚子が大葉の腕の中に閉じ込められたままの羽理を見詰めてニヤリとする。
その言葉に、大葉は慌てて腕の力を緩めると、落ち着かない気持ちで羽理を見下ろした。
「あ、あのな……羽理っ。こ、これは……お前と出会う前からずっと、な呼び方なわけで……その……今更変えろと言われても……えっと一朝一夕には無理と言うか……」
「……はい。……大葉の中でキュウリちゃんは……ウリちゃん、で定着してる……ってこと……です、よね……?」
遣る瀬無い照れ臭さをどう処理していいのか分からないんだろう。
瞳をゆらゆらと彷徨わせながら、どこか確認作業でもするかのように羽理が言うから。
大葉は一瞬グッと言葉に詰まって、「そ、それで! ……俺の中でお前は〝羽理〟だ!」と宣言して。
自分でも『はいそうですね』としか返しようがねぇじゃねぇか!と内心わさわさした。
「あ、はい。私は〝ただの羽理〟で……〝ちゃん〟付けはキュウリちゃんだけ……」
だが、羽理は自分を納得させるように順序立ててそうつぶやくと、「あの……ちょっと慣れるまで照れちゃうかも知れないんですけど……頑張って恥ずかしがらないようにしていきます……ので」と、気を遣ってくれた。
「それに……キュウリちゃんに優しく話しかける大葉、すっごく子煩悩な感じがして嫌いじゃないです」
「羽理……」
「あ! そ、そんな不安そうな顔しなくても大丈夫ですよ!? 大葉は今まで通りキュウリちゃんに〝でちゅ・まちゅ〟で接してあげてください! でないと……その……キュ……ウリちゃん?が戸惑ってしまいそうですもの」
ちょっと気になる語尾が相中に挟まっていた気もするが、この気遣いは大葉のためではなくキュウリのためなのだと言われてしまっては、それ以上が言えなくなってしまった大葉だ。
「あーん、羽理ちゃんってばホント、いい子ぉー! お姉ちゃん、羽理ちゃん、大好きぃー♥」
途端柚子が大葉をドン!と押し退けて、右腕にキュウリを抱いたまま左腕で羽理を抱き締めるから。
「ワン!」
「きゃう!」
恐らくキュウリは驚きの、羽理は痛みからくる声を、ふたり同時に上げた。
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